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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
先触

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27/246

#27 不運

 アレイア荒野、元々は草原だったが世の中が魔王に支配され段々と自然が消え呼び名が変わった。ここには魔族による合成魔獣つまりキマイラの繁殖施設が存在したのだ。色々な種族の若い男女が連れさられて実験をさせられていた。

 男は魔獣とキマイラとの戦闘実験、もしくは餌として、そして魔族が使う回復薬の材料とされた。連れ去られた女性は全員キマイラ生産のための苗床となり、腹が裂かれキマイラの大好物である心臓を食われ、残った他の部分は男と同じ運命を辿ったという。

 この事が分かったのは勇者ゴレリアス一行が施設を破壊した後である。現在では廃墟が盗賊の拠点として使われることも珍しくはない。それと自分達のようなお尋ね者にとっては利用しやすいのだ。


「どうしてこうなっちゃったんだろうね」

「そうだな・・・」

「もし村に魔王軍が来てなかったら今頃どうしてたんだろうね」

「王都と村を行ったり来たりして平凡に暮らしてたんじゃないか?」


 冒険者になったところで自分は結局旅立とうとはしなかっただろう。あの村にウェルンがいる限りは王都や村の周辺で狩りでもしていたんだろうな。それが今はなんだ、勇者にされて三魔将軍とも戦い英雄に会って、英雄殺しという濡れ衣を着せられ指名手配されて、こんな荒野の廃墟で野営している。こんなことは前までだったら絶対に味わえなかっただろう。ふと頭をよぎったのは拳神マイオア・フィーザー様が最後の言葉だ。


『どこか行くあてもないならアルドリアに向かって相棒の武器の在処を教えてもらいな』


 アルドリア王国、いくつもの民族長がまとまって出来た国でその中でも猫狐族の族長が高い権力を持っている。理由としては代々とある魔能が引き継がれているかららしく。なんの魔能かは一部の者以外は知らない。だがその魔能は世界の命運を分ける程の力を有しているというそして現在は歴代最強と名高い者が国を取り仕切っている。

 それはかつて勇者ゴレリアスと共に旅をした。世界最強の狩猟者(ハンター)フィオルン・ビース。その力はマクイル大陸に存在する古の幻魔獣が主と認め友好を結ぶ程である。勇者様の武器の在り処を知っている人なんて逆にそれぐらいしか心当たりが無い。そんなことを考えていると肌寒く感じてしまった。夜のアレイア荒野は昼とは対照的な冷えた風が通り抜けていた。






「はぁ!ふぅ、これで終わ、」

「ソール、後ろ!」


 後ろを振り返ると盗賊が短剣を構えて突っ込んできた。それを自分は盾で受け流しそのまま裏拳を浴びせる。周りを見渡して安全を確認する、ふぅ危ない、危ない、やっと全員気絶してくれたか。アレイア大橋を渡ってアレイア荒野を走ること5日が経過し、そろそろ港が見えてくるかなとか考えながら馬車を走らせていたら盗賊団に襲われた。

 正直こんな奴らに苦戦するような自分達ではないし、ウェルンもなんだかんだそこら辺のチンピラに対してならば負けることは無い。ウェルンに至ってはギルドで絡まれた際と同じ対処法らしいのでその手の輩の扱いは自分より慣れていた。やっぱりあんな男っ気が激しいところだとそういうのもあるんだな。

 冒険者になるのは圧倒的に男ばかりで増してや聖術が使える。それならば回復師となって国の救護施設などで働いた方が待遇も良く給金も安定する。そのことについて疑問になって昔聞いたことがあるのだが、ウェルン曰く『そんな生き方つまらなくない?自由にしたいじゃん!』とのこと。だからってなんでわざわざ冒険者なんだかな。正直冒険者=荒くれと認識する人も多いのであまり良い印象を持たれているわけでもない。

 冒険者も冒険者で全員が全員荒くれって訳でもなく一定の支持を得る冒険者もいる。例えを出すならエクスキューションのトップに君臨する、ジャッジマスター、ガッシュ・バグラス。冒険者ギルド創設者でありエルドリア先代族長でもあるノレージ・ウィンガル。と知らぬ人はいない感じの紫ランクの人はもちろんだが。一定地域において献身的に活動する冒険者もいるので一概に悪と捉えられている訳では無い。

 まぁそんなこと思っている自分は今は完全にこの世の悪とされている。そんな誤解を解くのもそうなのだし、まずはこのメルクディンからマクイルに渡らなければ勇者としての責務を果たせそうもない気がする。


「ソール見えてきたよ、多分あれが南メルクディン港だよ」


 道が少し舗装された先には町があった。いや、この場合は港町か見る限りではエクスキューションの姿は見えない。まだここまで情報が伝わってないのか?それとも別の場所に・・・?街の中を進み港近くの宿屋に馬車を預けることにした。露天が並ぶ道を抜け真ん中に噴水がある広場へと辿り着く。そこで自分達は掲示板に貼られているとあるものを目にした。


「ソール、これって・・・」

「あぁ間違いないこれはどう考えてもあいつの仕業だな」


 やっぱりそう来たか。そこにはこう書かれた貼り紙があった『英雄殺しの逃亡者、この街に潜伏の恐れあり。そのためエクスキューションの認可を得た船以外の渡航を禁ずる:エクスキューション三闘士ザガ・ギルガバース』

 エクスキューションの認可を得た船以外か。皇室貨物船とかその他の貴族の所有する船以外は現在海を渡ることを許されていないということになる。連絡船は愚か漁船や商船すらも海に出ることが出来ない。要はこの街で暮らす人や他の街に商売しに行く人も巻き込んでいる命令だ。自分達を捕まえる為とはいえ流石にやりすぎだ。


「どうしよう、船無いみたいだけど・・・」


 本当にその通りだ。自分達はそもそも船を持っていない。なので連絡船を使ってアルドリアのあるマクイル大陸に渡ろうとしていた。だがこんなことになってしまっているとは・・・今のところ打つ手がないぞ。


「とりあえず宿に行こう街に来てまで馬車で休むのは流石に・・・」

「賛成ー考えなきゃいけないことはあるけど私お風呂入りたーい」


 前回宿泊まったのは確かサルドリアにいた時か。あそこを出てからもう1週間も経ったのか馬車を進め、宿らしき建物に辿り着くと中から店員らしき人が出てきた。


「あぁすいません、お客様ただいま満室となっておりまして」


 それは困ったな・・・今日の宿すら怪しいのか。今日というかココ最近ツキがない気がするな。宿を諦めて街中をまた進もうとした。その時、路地裏から視線を感じ振り返るとそこにはフードで顔を隠し背中に鎌を持つ明らか怪しい人がいた。だがすぐに姿を消しウェルンは気づいていなかったようだった。『どうかしたの?』と聞いてきたので『いやなんでもない』と答え他の宿を探すことにした。

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