#26 秩序の暴走
廃坑内は明かりがところどころ消えて今にも崩れ落ちそうだ。そんなところを自分達は馬車で通っている。そして光が見えてきて廃坑から出ると遠くにサルドリアが見えた。自分達はそのまま大陸の南端にある南メルクディン港へ向けて馬車を走らせる。
「何とかなったな」
「そうだね誰か追ってきてる気配もないし大丈夫そう」
周りの土地は少し乾いた荒野へとなってきた。ここから先は正直町も村も期待が出来ない程の灼熱の大地でもう一つ橋を渡れば、そこから港まではどこの国にも属していない無法地帯でもある。港まではエクスキューションのことは考えなくても大丈夫だ。若干舗装された道を進んでいくこのまま行けばアレイア荒野に続く橋に辿り着く。
「ねぇソール、もらった手帳読んでみようよ」
「うん?あぁそうだな、これだなえーと・・・ってなんだこれ何も書かれ、うわっ!」
「ソールこれ映像術だよ」
映像術?なんか昔、父に習ったような。確か所有者が死ぬまでに見た情報を記述し続ける術だったか。
『よく集まってくれた我がエクスキューションの同士達よ、お前達は山で起こった事件を知っているか』
『はい!三魔将軍、英智のサピダムによって同じく三魔将軍の凶猛のフュペーガが復活しメルクディン山を魔物化して逃走したことですか?』
『一般的に知らされているものはそうだな、だが真実は違う!』
『そ、それは?』
『私はこの目で見た!メルクディン山を沈めて戻ってきたサルドリア帝、拳神マイオア・フィーザー様を・・・勇者ヒュード・ソールが殺したのだ!』
いやそれはありえないだろ。俺たちマイオアには分かるそんな不当な輩を見抜けない程、拳神様は衰えてない。これは何かの陰謀だが自分達ではどうしようも出来ない。だが周りの反応は違った明らかに勇者様方に敵意を持っていた。
『よってやつらに対して裁きを与えねばならぬ、エクスキューション三闘士ザガ・ギルガバースが命ずる、明日奴らが潜む宿屋へ向かい拘束して処刑とする』
ここで映像は途切れた。エクスキューションがなんで自分達を捕らえようするのかは分かったが腑に落ちなかった。
「ソールは拳神様を殺してなんかいないのにどうして殺したことにしたの!?」
「分からない、とりあえず言えるのはこちら側に裏切り者がいるってこと」
自分達が何を言ったところで信用されるのはエクスキューションの方だ。世界中に配備されていて自分達のような駆け出し冒険者と違って今までの信頼の積み重ねがある。増してやエクスキューション三闘士ともなれば更に話は別だろう。
でも、どうしてそんなことをするんだ?エクスキューションは世界の秩序を守るための組織だ。何故自分達から乱すような行為をするんだ?考えられるのはそもそも他の目的の為に結成させられた、それとも一部の奴らの暴走、いやもしかしたら三闘士は全員敵か。手帳をめくっているとまたも映像術が投影された。
エクスキューション三闘士、ザガ・ギルガバース、ドーガ・ベレイス管轄の者のみ閲覧可
〖エクスキューション優先討伐対象: 魔勇者の一味 〗〖罪状: 英雄殺し〗 〖人相書き: 該当なし〗
これ完全に自分達が殺したみたいじゃないか。だがこれで一部の奴らの暴走だということが分かった。サルドリアで自分のことを捕らえようとした、ザガ・ギルガバース。これから向かうマクイル大陸。そこで主に活動するエクスキューション三闘士のうちの1人である、剛力のドーガことドーガ・ベレイスへとこの情報が伝わっている。
この2人は自分達から見たら敵。なので、マクイル、メルクディン大陸では自分達はお尋ね者扱いされる。よってギ、ルガバースとドーガは自分達側ではなく裏切り者、つまり魔王軍側となる。と予測するがそう見えるのは自分達だけであって、世間から見たら自分達がこの世の裏切り者。魔王軍側とされているはずだ。どうしてこうなったんだ魔王軍との戦いもこれからだと言うのに。
「ソール、また何か考えてるでしょ?」
「あぁ考えてたよ、勇者になるのも大変だなって」
「そんな冗談言えるなら大丈夫そうだね」
いや冗談ではないんだけどな。実際サピダムと戦った際に勇者の力を使え、その後{ディスキル}という封印技で一時的にサピダムの魔能を封印出来た。だが技を発動するために勇者の力を使い切ってしまい効果が切れてしまった。ある程度勇者のオーラをコントロール出来るようになってはいるかもしれないがそれもまだ力の一部に過ぎないのだろう。こればっかりは竜剣術と同じで、何回も繰り返して自分のものにするしかないのだろう。
「ソール、アレイア大橋が見えてきたよ」
よし、馬車を走らせて何とか日が暮れる前に間に合った。日が落ちてしまうと術が働いて通れなくなってしまうからだ。おそらく明日からはエクスキューションによる検問が行われるだろう。なので今日中に通っておきたかったのだ。ただこの後のことを考えると悩ましいものがあるな。
ここは突破出来ても港からの船に乗れるのかどうかが怪しい。ここまで妨害はなかったが今後どのようなことが起こるかは分からない。そういえばベルゴフさんは大丈夫だろうか。自分達と同じくエクスキューションにきっと追われているだろう。まぁだからと言って何も出来ないので捕まってないことを祈るしかない。
そんな自分とウェルンを乗せた馬車は頑丈な橋の上を力強く駆けていき、別名無法者の溜まり場と呼ばれるアレイア荒野へと突入していくのだっ。、橋を渡り切った後もらった手帳が崩れて消えてしまった。元々の持ち主はもうこの世にはいなくなってしまったのだろう。だがここで止まるわけにはいかない自分達を逃がしてくれた彼らの為にも生き延びねばならない。




