#25 英雄逃走
ん?・・・ここは、どこだ?・・・なんかいっぱい人がいるな。あれ、この人達見たことあるぞ?
「それほんとかよ、フィオルン嬢既に決まってたのか俺らが奴を倒せないのは」
拳神様?死んだはずじゃ。ああそうか、これは、あれか、夢か。たまに見る過去の記憶みたいなものか。今回も意識がはっきりあるぞ、てことはここにいる人達は勇者ゴレリアス様の仲間か。よく見たらノレージ様もいる。ビース族もいるな、じゃあこの人がフィオルン様。フィンシー族、つまりミュリル様と・・・?
待て、もう1人いるのは分かるんだが輪郭がぼやけてよく分からないぞ。いったい誰なんだ?そもそもゴレリアス様の仲間とされているのはゴレリアス様含めて5人のはずだ。1人多いんじゃないか?
「なんでだよ!あいつに敵わないって決められてたのかよ!」
「でも言えないわよね。魔王に絶対に勝てないなんてそんなこと口が裂けても言えませんものね」
自分の口からそんな言葉が発せられ自分にも悔しい気持ちが込み上げてくる。フィオルン様に対して同情するミュリル様の言葉も聞こえてきて少し落ち着いた。木の上から聞いていたノレージ様が降りてきた。
「むぅ、確かにこればっかりは仕方ないの一言で表すしかないじゃろう。問題を挙げるならどちらかと言えばこのあとじゃ」
「そうですね、とりあえず今後のことを話し合うために一旦皆さん部屋に戻って考えましょう。そして明日話しましょう時間はあるんですから」
「そうだな、俺らも魔王城からやっと帰ってこれたんだからよ、少し頭を冷やそうぜ」
・・・?いや、ノレージ様とフィーザー様が喋ったのは分かる。なんで輪郭がはっきりしない人の声でなんでこんなに懐かしさを覚えているんだ?部屋に戻った自分というかおそらくゴレリアス様。だがなんだか様子がおかしい。夜も更けてきて少し風が通って涼しくなってきた。なんだ、急に立ち上がったぞ荷物を持って空いている窓へと向かっていく。そしてその窓から飛び出したところで意識が薄れていった。
「・・ル、ソ・・?ソール?」
目を覚ますとウェルンがいた。どうやら自分はうなされていたらしく心配された。全くその自覚は無いのだが。あれ?そういえば同室のベルゴフさんの姿がない。修練にでも行ったのか?まぁいいかとりあえず状況を整理しよう。
まず巨大ゴーレムというかメルクディン山は跡形もなく無くなり、それを成し遂げたサルドリア帝、拳神マイオア・サルドリア・フィーザーは行方不明となった。あの後自分達はサルドリア城にて、山の中で何があったのかを説明し城下町の宿屋へと戻ってきて、そのまんまの流れで寝たんだったな。昨日のような日はそうないだろう。寝る前はほんとに心身共に疲れ果ててたからな。
三魔将軍の復活、拳神様の死、そして自分達の実力不足からくる精神的なダメージ。いったいいつになったらあいつらを倒せる日が来るのか。本当に自分達は魔王軍と戦っていけるのだろうか。
「ソール?また何か考え事?暗い顔してたら拳神様にまた叱られるよ」
「そうだね、やっぱりウェルンはすごいなー」
「いや私だって...」
なにか言おうとして自分の後ろを見て動きを止めた。振り返るとそこには黒鎧姿の人がいた、確かこの人は・・・
「ギルガバースさんでしたっけ?」
「おや覚えていただけておりましたか勇者殿。そうです、ザガ・ギルガバースです」
「わざわざ会いに来てくれたということは」
「はい、王城へと連れて参るよう新国王...」
新国王?そんな1日ですぐ決まるものなのか。そういや昼近くだって言うのに通りの声が全然聞こえ、いや魔能を持っていない自分でも分かる。表や廊下から鎧の金属音が聞こえた気がする。これは自分達を捕らえようとしているな。
「ウェルン、支度は出来てるか?」
「うん、そうだね支度は出来てるね」
「そうですかでは・・・この私エクスキューション三闘士巧技のギルガバースが案内させていただきます」
出された手から何か魔力を感じた、やはりな。窓際へとウェルンと共に下がると詰め寄ってくるギルガバース。この感じはどう考えても平和的なことじゃない、だったら出来ることは1つ。
「ごめんウェルン」
「えっ?ちょソ、ソールま、待ってさすがにそれは聞いてなーいよぉぉぉ!!」
ウェルンを抱えて窓から飛び出し隣の屋根へと飛び移った。下の通りを眺めるとそこには大量のエクスキューション兵が武器を構えていた。
「何をしているのです!不当の輩を直ちに捕らえなさい。」
「あれか!一番隊我に続けー!」「二番隊構え!」「三番隊は迂回して先回りするぞ!」「四番隊は門を封鎖しに行くぞ!」
やばい、とりあえずあの場所に行かなければ!自分達はここに着いた時、街の外れの空き家みたいな所に馬車を預けた。それさえ取ればここから逃げるのは容易となるだろう。妨害を受けながらもウェルンを抱えて屋根を乗り移っていく。
そういえば起きてからすごく身体の調子が良くなったような?にしても流石は世界の秩序を守ると謳っている自警団。個々の能力が低くてもちゃんと統率が整っていて正面から突破しようとするものなら苦戦しそうだ。
やっと空き家が見えてきたがやっぱりここにもいる。ウェルンを降ろして剣に手をかけるウェルンも杖を持つ。だが中から来る自分達の馬車は預ける前とは明らかに違った。拘束具が着けられたのかと思ったら戦闘用の馬鎧を装備していた。
「勇者様、我々はエクスキューションの一般団員です」
「見たら分かるよなんで手を貸してくれるんだ?」
「それは、私達の国を守っていただいた英雄様を捕らえることはできません」
「じゃああなた達は、」
「そうです、誇り高き我らマイオア族は受けた恩義を仇で返す訳にはいきません。ここから南に行ったところに今は使われていない廃坑があります」
そうか、自分らのやったことは無駄ではなかったな。良い情報をもらえて良かった。おそらくどこに行ってもおそらくもう封鎖されてしまっているのだろう。そのあとは大陸の南端から出ている連絡船でマクイル大陸に向かうと言ったところか。出発の準備は出来たな、ベルゴフさんは自分らよりは強いはずだがらきっと大丈夫だ。いや待て、行く前に聞かなければならないことがあった。なんで自分達は捕えられなければならないのかの理由を。
「1つ教えてくれ、なんで自分達は追われないといけないんだ?」
「詳しく説明している暇がないのでこれを持っていってください、さぁ急いで!!」
渡されたのはエクスキューションのマークが刻まれている手帳だった。彼らの言葉に従って自分とウェルンは馬車を南へと走らせた。




