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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
狂猛

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245/246

#244 意地(プライド)

「なぁフュペーガ分かってんだろ、このままだと何もないってことに?」

「ん?まぁなそれが俺の仕事で、時間喰わせりゃサピダムが追いついてお前らは終いよ」

「いいや違うな。サピダムは姐さん達が倒したんだろ?だからせめて俺を行かせないようにしてるんだろ?」


 まさか見抜かれていたとはな。こいつは見た目に反して頭が切れる奴だな。強い奴ってのは適当なことをしていると思いきや、理論的に見てもかなりちゃんとした動きが出来ている。頭で考えずとも効率的な動きを本能的に捉えてやがる。

 フィーザー以来の強敵であると共に奴が言ってることも確か。こんな状況になったのもフィーザーと戦った時だけだ。つまりあの時と同じ方法でしか決着がつけられないってことだな。






「よく分かったな。その通りよお前らの仲間がサピダムを倒したんだよ。めでてえことじゃねぇか?」


 薄々そんなことだろうなとは気づいていた。だが半分正解で半分不正解、おそらく姐さん達はどうにかして()()()()()倒せたんだろうな。疲弊してるにしたってミュリル姐がいるならここに近づける程回復は出来るはず。だが誰も近づいてくる感じがしないってことはだ・・・

 いや最悪のことは考えてもしょうがないな。逆によく勇者の力がねぇのに不死身のサピダムを倒したもんだな。なら俺も一生続くかもしれないこの拳闘(やりとり)を終わらせないとな。


「なぁフュペーガ、お前はこんなぬるいことしてていいのか?」

「あ?」

「分かってんだろ?ちまちました攻撃じゃ互いにどうもならねぇってことに」

「だからそれが狙いだっ...」

「闘気を扱う者としてそんなんでいいのかってことだよ!」


 このまま続けていてもただただ時間が過ぎていく。それが一番あってはならないこと、もし仮にこの先で坊ちゃん達がドリューションに足止めされている、なら姐さん達がいない今加勢出来るのは俺だけだ。

 だからフュペーガを魔王軍三魔将軍としてではなく拳術士として問いてみた。誰かに命令されて仕方なく戦ってるんじゃなくて己が意思でぶっ倒さなくて、この世で一番強い闘気の使い手、拳術士と証明しなくていいのかと。


「何を言っているんだ?五分の状態で戦い続けるってことは一生俺の相手になってくれるってことだろう?」

「生憎お前ら魔族と違って俺らは寿命ていう概念があるんだよ」

「そりゃ残念だ。ならお前も転化すればって、そうかそれじゃこんな戦いはもう出来ねぇのか」






「・・・腑抜けだったんだな」






「今なんて言いやがった?」

「師匠から聞いていたお前はもっと勇ましかったけど、負けることを怖がる腑抜けだったって言ったんだよ!」


 その言葉の答え代わりに地面にヒビが入る。いままで纏っていた闘気が漏れ出した証拠、今まで命令に従う為に抑え込んでいた魔の力が溢れたのだろう。正直言いたくはなかったが流石の奴もこう言われたら何かしらの行動を起こすだろうと考えた。


「お前のような奴がわざわざそういうことを言うとはな・・・いいだろうその挑発に乗ってやろう」


 奴がこちらに構え直したかと思えば俺の身体が強張る感じがした。そして奴は目の前に現れたが特に何をする気配もなかった。いつ攻撃を繰り出してくるのかと思っていたが奴が何をしたいかの意図を汲み取った。


「流石はあいつの弟子だ。何をしようとしているかを理解したみたいだな」

「理解も何もそれしかないだろ?」


 互いに笑みが零れ、俺はこれまでより濃く闘気を馴染ませ、奴もより濃く魔の力を纏い始めた。それぞれが放てる何においても最強の技、もしくは拳術を放とうとしているのだ。師匠ともやったことはあるがこれは純粋に強い方が勝つ。

 負ける理由はたった1つの弱い方が負ける。技術と経験どちらも全く関係がない純粋な力比べ。師匠とやっていた時は互いに組み手の範疇でやっていたから死にはしなかった。だが今やろうとしているのは命を懸けた拳闘(やりとり)の終わりを告げる本当の勝負だ。

 交わす言葉もなく互いに力を高めていきながら攻撃を放つ構えを互いにとっていく。この一撃で、この世で最も強い拳術士、そしてこの拳闘(やりとり)の勝者が決まる。師匠はこれを乗り越えたからこそ後世にも拳の神、拳神として世界に名を知らしめられたのだろう。

 勝てるかどうかを気にする必要はない。理由はただ一つこれはもうやるしかないからだ。この勝負を受けない答えはあってはならない。拳術士としての意地(プライド)がそれを拒む。

 狂猛のフュペーガにとって魔王は絶対の存在、そしてそいつから託された命令を無視をするほど奴にとっても意地(プライド)は何よりも大事な物。俺も奴も完全に闘気を練り終わって険しい顔で見合わせる。

 奴の全身から発せられる闘気はこれまでにない程の圧を感じている。だがその圧に押しつぶされることなくただただその時を待っていた。始まりの合図は特にはないがどちらかが動けばもう片方も同時に動き出す。何故か同時に動き出してしまうがある意味で言えばこの瞬間だけは奴とは一心同体なのだろう。






 音が消え、辺りが俺と奴の闘気によって囲われ視界が塞がっていた。だがそんな中でも邪悪に輝く炎がありそれに対して意識を集中する。











 見えていた炎すらも互いの闘気に埋もれたので目を閉じた。
















 何かが地面に落ちる音がした。次の瞬間には視界が晴れ既に身体は動き出していた。

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