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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
狂猛
242/243

#241 闘の先

 これまで師匠と俺が打ち合って一度として勝てたことはない。だがそれは師匠の力を継承する前の話、尚且つ継承した力に溺れることなく正しく力を身に着けてきた。

 現に今向かい合ってる師匠は身体がマイオア特有の橙色っぽい肌色ではなく、光沢を放つ程の黄金色、つまり{纏神}を使っている。俺に対して全力、そして同時に拳術士同士の組み手ではなく生死を懸けた闘いであることを意味していた。

 闘気の質が互角なのは互いの攻撃によって明白。技術もほぼ互角と言ってもいい、それぐらいには俺は強くなったことを実感する。それなのに段々と()されている気がしてならない。

 攻撃に合わせてそれに合った行動で対処、技を放とうとすれば同じ技を放ち相殺をする。1つでも間違えようものなら身体の一部分が消し飛んでも文句は言えない。これはさっきまでのフュペーガとの闘いでも同じことだった。

 これを続けていればどちらかがいずれ崩れる。そう教えてくれたのは師匠だしこれで狂猛のフュペーガを倒したと聞いていた。だから同じ手を使ったのに関わらず何故か奴には通用しなかった。それどころか...


「お前は間違っている」


 そんな思考が巡ったところで言葉と共に振るわれた拳にこちらも合わせるが吹き飛ばされてしまう。対処法を間違ったのか。でもあの技には今の受け方が最適のはず、それなのに吹き飛ばされた。






 そうか、そういうことか。どうしてフュペーガに打ち負けたのか。何故吹き飛ばされたのかを完全に理解してしまった。闘気の質、技術のどちらもほぼ互角。そう、ほぼ互角だからこそ少しの差が勝敗を分ける。


「そうだ、だからお前は負けた」


 なるほど、最後にそれを理解出来ただけいいのかもしれないな。俺はまだまだ師匠やフュペーガと同じ領域に立てる強さはなかったんだな。それを飲み込もうとするが飲み込めない。

 正直今の俺の強さは現勇者一行においては一番強い。そのことはかつての勇者一行だった姐さん方のお墨付きだ。それなのに魔王どころか三魔将軍に負ける?・・・っへ、魔王討伐なんて夢のまた夢なんだろうな。

 師匠の拳が振るわれるがそれに対してこちらはもう何をする気も起きない。どうせもう俺は負けてんだ。これ以上抗ったところで何になるってんだ。それなら潔く負けを認める、己の弱さを飲み込んだ方が後悔もないってもんだ。






「なら何故お前は拳を受け止めた?」


 闘う意思などもうないはずなのに何故か師匠の拳を手の平で抑え込んでいた。というか全力で振るわれていた拳を抑え込めていた。そのまま放り投げて距離を遠ざけ、受け止めていた掌を顔の方に向ける。

 己の弱さを飲み込もうとしたのに飲み込めなかった。いいや違う、飲み込もうとしなかったんだ。頭では諦めようと考えていても、俺の心の本質は諦めようとしていないんだ。開いていた掌を握り、再び拳を固めて呼吸を整える。


「そうだ、それでいい」


 先程受けた攻撃の痛みはあるはずだが何故か感じない。それどころか息を整えたことによって頭が冴えてきた。いつもと同じように拳術を振るうとものすごく軽く感じた。そしてその攻撃を受けた師匠は衝撃を殺しきれなかったのか後退っていた。


「お前は俺じゃねぇ。もう倣う必要はない」


 構えを解きながらそんな言葉を発した師匠は地面を掴む、何かを持ち上げたかと思えば裂け目が生まれ光が漏れ出した。左拳をこちらに突き出し、右手はその裂け目を指差した。ここでやるべきことは終わったみたいだな。

 拳を合わせると師匠は声は聞こえはしないが高笑いを始めた。段々と光の粒子となっていきその姿は消えた。別れも突然、まさか再開出来るとは思ってはなかったがな。

 今思えば全てが行き当たりばったりだったな師匠とは。村の用事で狩りをしていたら突然弟子になれとか言い出してよ。断ったら断ったで突然襲い掛かってきやがってよ。戦ってたらいつの間にか闘気を使えるようになっててよ。

 そのままの流れで俺は師匠の弟子となって鍛え続けた。その力を試す為に旅を出てこいと言われ、断ったら突然俺の身体を放り投げやがってよ。て、今思えば馬車でも一月かかってもおかしくないメルクディン大陸西部の雪国の方まで投げ飛ばしたんだからな。

 そんなことを思い出したら不思議と笑みが零れ、先程の師匠と同じように高笑いが止まらなかった。こんな心から笑ったのはいつぶりだろうな。確かに笑ってはいたがここまで感情がノったのはいつぶりだろうな本当に。

 忘れてたんだな笑い方も、俺本来の戦い方まで全てな。それを思い出させる為にこうして俺の前に現れてくれたんだな師匠も。確かに今は真剣でなきゃならねぇのは分かるがそれ以上に楽しまねぇとな!

 気合を入れると何かが腕と脚に装着されるような感覚を覚えた。視線を落とし俺の手足を見るとガントレットとグリーブを装着していた。これはまさか師匠が使っていた{英具}かこれ?

 初めて着けるはずなのに肌に馴染む感覚がする。これは{英具}に間違いない、ということは俺も遂に認められたってことか。{英具}を他者に継承する為には直接継承するのだが、継承者が条件を満たさない限り{英具}が現れることはないからだ。

 さぁてここまで準備が整ったんだ。あの光の向こうにいる野郎に早速振るってやろうじゃねぇかよ。それでさっさと倒して坊ちゃん達に追いついてもっと楽しい闘いをしにいかないとな!

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