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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
狂猛

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238/246

#237 拳闘

 苦い気持ちを心に抑え込んで剣を構え斬りかかる。それに合わせてキュミーとフォルちゃんも同じように仕掛ける。その全員がいつもよりも少なめに魔力を纏わせて武器を振るう。

 その攻撃を全て真正面から受け止めたフュペーガだったが甲高い金属音が鳴り、逆にこちらの腕が痺れそうなぐらいの衝撃が返ってきた。他の2人も同じだったようで暗めの表情を浮かべていた。だがこれも想定内、自分達が武器術を振るう際にどれ程魔力を込めればいいかを確かめる必要があった。


「それしきで傷が付けられるとでも思ってるのかぁ!?」


 再び高速の拳が振るわれ魔力、いや闘気の塊がそれぞれに飛ばされる。さっきので感触を掴んだので各々が相殺できる程の魔力を込め武器を振るった。塊に刃を合わせると霧散させられはしたが次の一撃が既に迫っていた。


「あー坊ちゃん、すまねぇ作戦変更していいか?」

「えっどうい、」


 次の攻撃に対して身構えていたらベルゴフさんがそんなことを言ったと思えば抱えられた。そのまま他のみんなも抱えて高く跳んでフュペーガの反対側、つまりこの部屋から次の階に続く階段のある方まで来た。そして階段の前に投げられ上がっていた格子の扉を力任せに降ろした。


「何してるんですか!?ベルゴフさん!」

「こいつの相手は俺がするから先に行っててくれ」

「1人じゃ無理です!」

「いやすまねぇな嬢ちゃんよ。そういうわけでもねぇんだわ」


 元々ここで全員でフュペーガを倒すつもりでいた。しかもベルゴフさんからの提案だった、それなのに何故どうして...再び闘気の塊が飛んできているが拳を突き合わせようともせず直撃した。だが全く動じる様子どころか、ダメージを受けていなかった。


「お?なんだマイオアお前やっぱりフィーザーと同等クラスになってんじゃねぇか」

「バレてたか、そりゃまぁお前なら分かるよなフュペーガ」


 そう言ったベルゴフさんの身体から何かが漏れ始める。実はこれまで一度もベルゴフさんの魔力そのものを見たことがなかった。意図的に抑えている様子もなかったので拳術自体そういうものと捉えていた。

 だがどうやら身近にいた自分達が気づけない程、精密な魔力操作をしていたようだ。普段の様子を見ていてそういうことが出来るとは思えなかった。いや違う、強さに差があるからこそ加減とかが完璧に出来るんだ。


「ベルゴフさんそんな力どこに隠してたんですか?!」

「うん?いつかは忘れたがかなり前だったかな」

「その力があるなら私達みんなでやればきっと大丈夫だよ!」

「だから開けてよ!」


 自分達の問いかけに答えを示すかのようにこちらに背を向けたままだった。その背中をみて自分は過去に似たような光景、拳神マイオア・フィーザーの姿を思い出した。


「ベルゴフさん」

「うん?坊ちゃん止めたって無駄だぞ俺はここで、」

「あとはお願いします」


 この後のことを考えても今ここで全員が消耗するのは好ましくない。自分達には時間がもうない、母さん達もいつまで耐えられるか分からない。自分達だけでどこまで進めるかは分からないがそうも言ってられない。犠牲は最小限で済まさなければならないんだ。






 後ろの方から感じていた馴染みのある気配が遠くなっていくのを感じる。良かったみんな分かってくれたか。実は元々ここは1人で戦うつもりだったんだよな。でも坊ちゃん達の成長を見ていてもしかしたらって思ったんだよな。

 そんなことを思ってここまで進んできた。俺の手なんか必要ないぐらいにちゃんと育っていることも分かったしな。あとこの場所に来てからどうも血が収まんなくてな。


「てかお前、全然邪魔しなかったなフュペーガ」

「うん?別に通そうが通さまいがどちらにせよ()()()()突破出来まい」

「あの場所?」

「まぁ俺は俺で楽しませてもらおう」


 全身に闘気を纏わせて身体の色が黒鉄へと変化する。あれが俺達でいう所の{纏神}、同じように自身の身体に闘気を纏わせ白金へと変化させる。そしてそのまま何も言わずとも互いに構えをとり、自然と拳術使いの動きをしていた。


「ああ!思い出したぞお前」

「ん?何をだ。名前でも思い出したか?」

「マイオア・ベルゴフ・サルドリアだろ?お前によく似たやつをこの前ぶっ倒したのを思い出したんだよ」


 こちらから視線を外して指を差した。闘気によって強化された視力でその方向にある墓石を見ると、そこには父親の名前があった。自分が小さい時以来、行方が分からなかったがまさか三魔将軍、狂猛フュペーガと戦っていたとは。それでいてあそこに名前があるということは...


「そいつは強かったか?」

「いいや全く?だが不思議なことに誰よりも根性はあったがな。全身が動かなくなっても目だけで抵抗してきたからな」


 なるほどな。母が父の漢気に惹かれて結婚したと言っていたがそういうことなんだろうな。初代皇帝の一人息子だった父ガルドフ。初代皇帝の弟であるカルボフが二代目を務めていたが病で亡くなり急遽即位した父。先代に比べても能力は劣っていたが不思議とその背には人が集まっていた。

 まさか今になって父の話を聞くことになるとは思わなかった。そんな父の為にも、ここを託してくれたソール達、そしてここまでの強さにしてくれた拳神、育ての父の為にもこいつをぶっ倒さなきゃな。

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