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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
狂猛

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237/246

#236 煩慮

 サピダムが用意した魔の回廊を抜けてからかなり上の方まで登ってきた。外から見えたあの城のどれくらい進んだのかは分からない。それに加えて多種多様な強い敵が出てきていて中々苦しい感じはしてきた。

 母さん達が抜けるのは予定通りでこれからも人数は減っていく。想定より敵が強いのもあるが何よりも次の目標地点に辿り着かない。聞いていた話で今頃次の三魔将軍の間に着いているはず。


「まだ長そうだしよ、ちょっと休憩するか?」


 罠が仕掛けられてないかを確認して部屋に入り、ベルゴフさんの提案に乗ることにした。本当ならいつ敵が襲ってくるかも分からない場所で休むのはあまり良くはない。ただ今に至ってはそうも言ってはいられない、それにハウゼントが個能{守護}で結界を貼れるので敵は自分達のところには来れないので安心は出来る。

 個能、個人魔能を自由に扱えるハウゼントがいて本当に良かった。一般的に魔能は使用者の魔力を使うものが大体である。だが一部魔能、個能のほとんどが魔力を使わずに行使できるのだ。


「貼り終わりましたこれで大丈夫です」

「ありがとうございます」

「一応マスターからエクスキューション三闘士と名付けられてましたからね。これが自分の役割みたいなものですよ」


 世界が闇に覆われてから各大陸の主要国を術式による術壁の展開をしていたのだが、更にその上から{守護}をかける為に世界の各地に飛び回っていた。そのおかげで保護された生存者達が再び危険に晒されることなく安全地帯作った。

 上手く個能を扱えない自分とは大違いでその力を存分に振るっている。かつての勇者も各地を旅していたのはハウゼントと同じことをしていた可能性があるという。

 この一年で自分も勇者になるべく研鑽を積みながら人々を助けてきた。だがそれと同時に人々の中で1つの噂をよく耳にした。

 それは『慈愛のハウゼントは勇者の生まれ変わり』なのではないかと。

 正直自分もそう思いたくはあった。だがかつての勇者と同じ個能を持っているのは自分というのもそれ以上に分かっていた。その上で自身の実力が上がる度に焦りを感じていた。そんな自分をみんなで支えてくれたおかげで個能、{勇者のオーラ}について悩むことは少なくなった。


「ソール、何か考え事?」

「うんちょっとね。アンクル様達大丈夫かなって」

「大丈夫に決まってるよ!だってお母さん達だよ!」

「私も心配だけど今はお母様達を信じましょう」


 条件反射的に考えていたこととは別のことを言ってしまった。それにしてもこの1年でこの2人もだいぶ心強くなったものだ。キュミーは鱗槍術はさらに鋭さを増して尚且つヒルドリア王家秘術{水竜弾}を使えるようになっていた。フォルちゃんは継承した獣剣術を昇華させた{彩色剣}がさらに磨きがかかった。

 ベルゴフさんやハウゼントのように自分達より元々強い人達もより強くなり、自分やそれ以外のみんなもかなり強くなっている。個の強さが相手に足りなくてもみんなで力を合わせればどうにかなる。と信じている。






「あの扉だな?」


 休息を終えまたしばらく先に進むとサピダムの部屋に続く扉と同じ大きさの扉が見えてきた。大きさが同じで格子状でその奥が見える構造になっていた。遠目から見ても分かる大男が見えそこからとてつもない程の魔力、いや闘気を感じる。


「これだけ離れているのにすごいね・・・」


 これまで上位魔族、三魔将軍とは対峙してきて魔力の漏れ出す量で相手の強さを測ることが出来た。特によく見てきたサピダムもかなりの魔力を感じはしたがここまで圧は感じなかった。

 サピダムは魔力の量がどの魔族より多かった。格子扉の奥にいる大男(おそらく狂猛のフュペーガ)は魔力(闘気)の練度が高い。その証拠に進む度に圧が増しているような気が、いや確実に増しているな。ある程度まで近づくと勝手に格子扉が上に収納されその開閉音に反応して大男がゆっくりと振り向いた。


「あの顔は間違いねぇ、あいつはフュペーガだ」


 この中で最も奴の顔を知るベルゴフさんが言うなら間違いはない。部屋に入って辺りを見渡すとこの場所がまるで闘技場だということに気づいた。だが客席には人ではなく石碑が打ち立てられていた。


「ようこそ勇者達よ!ここまでご苦労だったな」

「まったくその通りだフュペーガ」

「おお!お前も元気にしてたか、えーと確か...」

「ベルゴフだよ」

「そうだ、そんな名前だったな!ああ、ついでだ。そこにいるお前ら全員名前を教えろ」


 ただ普通に喋っていて一見隙だらけに見える。だがこのタイミングで仕掛けても間違いなく返り討ちにされる。それを知っているのはベルゴフさんに教えられたからだ。

『いつ襲われてもいいように闘気を纏えって師匠に口酸っぱく言われたんだよなぁ』

 その言葉通りいかなる時に攻撃を仕掛けても投げられて宙を舞っていた。ついでにとどめまで刺されそうで度々死を感じていた。確かに自分達も強くはなったがベルゴフさん達、年長者組の強さは別格である。


「答えろぉ!」


 怒声が聞こえたと思えば、既に拳が振るわれていて魔力の塊がこちらに飛んできていた。自分の前にベルゴフさんが割って入り闘気を込めた拳を打ちつけ相殺した。


「そんなせっかちでどうすんだフュペーガ。お前の趣味の墓石作りが出来ないだろ?」

「あぁなんだ知ってんのか。そうかお前はあいつの、拳神の弟子だもんな!」


 話の内容も気にはなるがそれ以上に今の攻撃に対して反応出来なかった自分に悔しさを覚えた。明らかに自分達よりも強い人に守られ、次に繋げられ続ける状況ではあるがそれも魔王を倒す為の作戦。

 自分でなければ魔王に勝つことが出来ない、ただその為に強い人が段々と消えていく。そうしないといけないのは頭で理解していても苦しいことには変わりはない。

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