#230 限界点
魔力を込めた刃がぶつかり合い火花が散る。私は他のみんなのように武器術を使っているわけではない。本来ならば練度で差がつき始めどちらかの武器が欠損するのだが、込める魔力の量でその差を埋めている。
デビア族、いや魔王と同じ魔力量の私だからこそ出来た技術。度重なる失敗をしてもその一点だけで私は生かされ戦い続けられた。ゴレリアスの仲間になってからある程度の知識は得たが武器術の才は全く開花しなかった。
最後の時まで武器術の会得に付き合ってくれたのもウヌベクス。だが無理に覚えない方がいいのではとも言われた。確かに私はあの時会得しようとはしていたがそれ以上に仲間のぬくもり、愛する人と共に過ごす時間が心地よかったのかもしれない。
そんなことを考えながら私は思い人と本気の殺し合いをしている。いや正確に言うなら思い人を模した魔人形という方が正しいのだろう。そう考えると余計腹が立ってきたわね、より濃い何かが私の内から溢れてくるのを感じる。
ただ私は今こうやってウヌベクスと本気の戦いに喜びを感じていた。生前私に対しては本気で戦ってくれなかった。その優しさはもちろんうれしいんだけど...
「そっちは大丈夫そう?」
「気にしないでいいわよ。夫婦水入らずで楽しんでるのを邪魔するのは悪いわよ」
サピダムの相手を2人でやっていて明らかに疲れが見えているのに冗談を言うなんて。言葉に甘えるにしてもあまり長くは戦ってはいられないわね。幸いとしてどうやら死人達と違ってサピダムと同じ魔能を持ってないようだ。
生前の力を完全に再現しているのに加えて感情もちゃんと持ち合わせているのだろう。これは確かソールの友達を竜騎兵にしていたのと同じ例なのだろう。
それの完成体として余計な感情が入らぬように戦いの記憶以外を覚えていない、命令を忠実にこなす傀儡を作り上げたみたいね。傷が再生しないならまだこちらは勝ち目があるかもしれないけど、よりにもよって...
隙がない、威力がない攻撃だからこそまだこういったことを考えながら出来る。だがウヌベクスならそろそろあの力を...
「やっぱり思った通りね」
ウヌベクスの構えが変わり彼の背後には魔力が溢れ竜ではなく、伝説の存在である龍が具現化され始めた。竜の中でも伝説の存在として語り継がれる種族をまとめて龍種と呼ぶらしい。過去に目撃された例は大陸ごとに1種類ずつとも噂されるほとんど空想上の存在ともいえる生物。
竜剣術を極めたの勇者ゴレリアス、さらに竜剣術を派生させ双竜剣術を極めたからこそ出来る芸当だ。武器術の祖である竜剣術先代の使い手の誰もが辿り着けなかった究極の使い手、それがヒュード・ウヌベクス。
後ろから見ている分には煌びやかで神々しくとても綺麗に見えた。あの時倒されていた魔族達には少し同情するわ。敵として相対するとこんなに恐ろしく感じるなんて。でも私もなんだかんだと戦闘狂、彼の力が分かるのは本当にうれしいわ。
さらに力を開放し肌がさらに鱗に覆われより悪魔らしい見た目に近くなっていく。あまりこの姿にはなりたくはない。かつての意味もなく人々を虐殺していたあの頃に戻ってしまうから。でもこの醜い姿を素敵だと一目惚れした物好きもいるのよね。
一時凌ぎでしか使うことのできない個能{幻}。術理論が分からないのに水と聖術の才能が誰よりもあること。私はこれまで自身の力、知識が足りないことを悔やんでいた。
聖術の練度と知識がちゃんとあればサピダムが復活することもなかったのに。奴が生きているのではと発覚した後みんなは優しくしてくれたけどその優しさは毒だった。
ウヌベクスやフィーザーのおかげで武器術を会得出来たし、おじ様が居なければ秘術以外はそうでもない魔術士になっていた。フィオやアンクルみたいな親友と呼べる仲もいなかった。私に外の世界を教えて心を奪ったゴレリアス。共に旅をしていなければ本当に何も知らない水槽の中の観賞魚と変わりなかった。
ウヌベクスが死んで、魔王を撃退して、ゴレリアスがいなくなって、フィーザーも光となって、私のことを慕ってくれたキールも死んで、そしてこの前の戦いでおじ様も死んでしまった。
私はあの中で一番弱かった。だからこそ誰よりも努力をして追いつこうとした。みんなに追いつきたい、共に戦いたい、そんな思いを胸にずっと秘めて暮らしてきた。
だから今ここでサピダムの攻撃術を1人で捌けていることがとても誇らしい。かつての戦いで1度サピダムを退けられはした。でもあの時のサピダムは絶対に手を抜いていたことが今相殺していて思う。しかもおじ様の身体を得てさらに強くなってしまった。
気を抜けばフィオも私も無事では済むはずもない。あっちで戦ってるアンクルが来るまで耐えなきゃいけない。それは分かっているんだけど・・・ちょ、っと、努力が足りなかった、みたいね。
身体から力が抜けていく。全身に巡っていた魔力が無くなっていくのを感じる。それと同時に全身のあらゆる箇所が痛み出す。あぁこれが{全開放}の副作用、視界が霞み意識も朦朧としてきた。もっと踏ん張らないといけないのに身体が言う事を聞かない。
また今度もみんなの脚を引っ張ってしまうのね。私は誰よりも何も出来ない、奴らが言う通りの下等種族なんだ。本当にごめんなさい、みんな。一旦あとは頼んだわ...




