#229 決意
ウヌベクスに鎌を振るうとその刃を弾き返して彼の剣が襲い掛かる。その攻撃の瞬間に合わせて他の2人が攻撃を仕掛けるもそれらもすべて見事に弾き返す。昔から思ってはいたがウヌベクスは戦闘中の感覚が鋭すぎる。
感知能力に関してはフィーザーに範囲は劣るものの精度に関してはその上を行く。戦っている時以外はそうでもないのにどうしてこんなにも敵意のある攻撃に敏感なのか。それは{超感覚}という魔能を持っているからだ。
「どうやって死んだのよウヌベクス」
「ええそうね。本当にね...」
彼は魔王城に辿り着く前夜に魔物に襲われ塵となって消えた。一緒に起きていたゴレリアスも傷だらけでそれだけ強い敵と戦っていたらしい。そんな壮絶な戦いをしていたというのに私達は寝ていた。
あのフィーザーでさえ気づけない静かに戦う魔物、そんな奴がいるわけがなかったのでゴレリアスの言葉は嘘だと分かった。ただあのゴレリアスがわざわざ言わないのには訳がある、そう思って私は聞かなかった。
勇者一行の中でも特に強かった2人がかりでそこまで苦戦した、そんな敵は三魔将軍ぐらいでなければ説明がつかない。何があったのか聞こうと思っていたが魔王を撃退した後すぐに姿を消した。それからしばらくして私はソールを生みウヌベクスの弟であるウアブクスに託した。
誰しもが秘密を抱えて生きている。私はそうならないと思っていたけど分かってしまった。大体は抱えたくて抱えるモノではないということに。ウヌベクスの死が白日に晒されて困ることがあるからこそ私達は彼の死を{幻}で隠蔽をしたのだ。
「どうするの、このままだと私達もう...」
「らしくないわねフィオ。そんな弱気になるなんて」
「まだあいつが遊んでくれてる性格なだけいいもの。他の奴なら既にもう奥に向かってるわ」
サピダムは自身の知識を見せびらかすこと、目の前の享楽を貪ることが多い。転化する前にかなり虐げられた経験からそういうことが多いのだろうか。
デビア族以外の五種族でも稀に魔の適性を持つ者がいて、あの当時でその力を振るえば特にそういった対象になりやすかった。ただ大半の人は使う方法が分からず純粋な魔力として生を全うする。
その点で言えばサピダムは才能を開花をさせてはいた。私達デビア族、魔族と同じくその魔力で術を行使することが出来たのだから。だが周りに恵まれずその果てに迷い込んだのが魔王軍、というか魔王ラ・ザイールが戯れで拾った。
そんな一時の戯れで拾った奴がここまで化けるとはあの時の誰もが思ってないだろうに。その才がもしもあのまま勇者達に役立っていたなら正直今私はここに、いや魔王はあの時に滅びていたかもしれない。それが見えていたからこそ魔王は拾ったのだろう。
「お嬢様いやアンクル、もう少し戦いに集中すべきだぞ」
「わざわざ気にかけてくれてありがとうサピダム、でもそれはあなたもではなくて?」
「ほぉ、と言いますと?」
「ここにいて本当にいいのってことよ!」
ウヌベクスと違って隙だらけなサピダムに攻撃を叩き込み身を引き裂く。だが傷をつけた身体は再生されていき元に戻る。本当に厄介すぎる、転化した時にどうして奴に組み合わせてはならない魔能が宿ってしまったのか。それさえなければ...
「何を言うかと思えば、下等種族如きが本当に我々に勝てるとでも思っているのか?」
「っ・・・」
「三魔将軍は揃い、魔王様も復活なされた。そして貴様らには勇者の力を扱える者がいないのだぞ?勝ちは明白だろう」
「舐めてかかると50年前の二の舞を演じるわよ?」
「そうやって吠えておれ、儂らがお主らの相手をするのは思いやりなのじゃぞ?」
なるほど、例えるなら使用人が家に来た客人を迎えてくれてるってことね。魔王の相手ではなく三魔将軍が相手して最後の思い出作り・・・冗談じゃないわ。湧き出た苛立ちを全てサピダムにぶつける。
「そんな思いやり結構よ。今度こそ私達はあなた達を倒して真に明るい世の中にしてみせるわ」
普通の生き物なら確実に死んでいる程に痛めつけても元の身体に戻っていく。開ける口もないのに高笑いも聞こえてくる。再生能力だけならサンドバッグに丁度良かったのにこいつには無駄な脳みそもついているのだから。
少し危ないわね私。思考があの時に戻りつつあるわ。この姿、デビア族として力を振るえば振るう程、抑えが効かなくなって誰かを傷つけてしまう。でもその力で誰かのことを救えるなら私はこの力、また魔の力に染まろうではないか。
再生中で動きが鈍っているサピダムを魔力の壁で囲む。この術は{ロック}、対象の周りに濃すぎる魔の力で包み身動きを止める術。今のこの状況では人数を減らすのに丁度がいい。
この術はゴレリアスの動きを封じる為だけに私が唯一開発した術。誰であろうと破れない堅牢な術。力、知恵、術、魔能を使おうが誰であろうと問答無用で一定時間動きを封じる。と言ってもそこまで長くないので少ない時間でウヌベクスを倒さねばならない。
正直言ってしまえばこの戦いに勝ち目はない。それでも私達は抗い続ける。かつての私達が成し得なかった魔王討伐をあの子達がしてくれると信じているから。まぁでも勝ち目はないとは思ってももしかしたらとは思ってはいる。
奇跡が起きるのを願うんじゃなくて私達自身が奇跡を生めるとも信じている。あの当時諦めなかったからこそ大体50年近く世界を平穏で包めたのだから。勇者でなくてもそれが出来るはずなんだ。




