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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
叡智

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229/246

#228 完全なる

 ミュリルが{幻}でこの世にはもう魔王はいないことを信じ込ませる為、勇者伝説には綺麗事しか書かれていない。光あれば魔があるとは言われているが、あの時を経験した当事者以外が暗き時代の闇の部分は知らない方がいい。

 そう私達は決断をしたからこそ、地上の勇者物語には魔族の一員でもあった私のこと、そして唯一の死者であったヒュード・ウヌベクスの情報を消し去っていた。ただ情報の大元である新勇者伝説に{幻}をかける関係上、海底王国ヒルドリアのみ真実が伝わっていた。

 全ての武器術の頂点に位置すると過言でもない竜剣術。この世に使えた者は勇者以外にいないとされていたがそもそもそれが間違い。竜剣術の正統なる後継者はソールの家系であり、歴代の中でも最も竜剣に愛されていた者がウヌベクスとされていた。

 旅の中で{勇者のオーラ}のみでは魔王軍には適わない。そう感じたゴレリアスが親友であるウヌベクスから習い正式に竜の子供となった。ただ竜剣は他の武器術と違い()()()()()()1()()()()、尚且つ正統後継者以外の竜の子供から伝えようとしても()()()()()()()()()する。

 ゴレリアスから武器術を習った者達は全く別のモノに変化し、勇者ゴレリアスを最後に竜剣術がこの世から途絶えたとされていた。だがウヌベクスには兄弟がいてその弟がソールの育ての親であるウアブクス。

 その彼も魔王軍の手にかかり亡き者にされたとは報告が入ってはいる。そこにいるのは{リバース}で蘇ったウアブクスなのでは?と疑いたくはなるが私はあの背中を知っているし、正面で顔を見ている2人の表情を見るからにウヌベクスに間違いがない。


「あ、りえない...」

「ゴレリアスと戦って塵となって消えたウヌベクスがどうして」

「どうやったのサピダム!答えなさい!」


 そんな問答をしているが2人に対して剣を構えて攻撃を仕掛け始めるウヌベクス。剣筋を見れば見る程彼であることを思い知らされる。ゴレリアスの竜剣術最後の試練の相手となってその末に彼はこの世から塵も残さず消えたはずなのにどうして。


「聞こえているかは分かりませんがせっかくだから答えましょう」


 するとサピダムは術書を開くと何かを投影させた。いくつもの実験データが表示されその1つ1つに対しておびただしい量の術式が刻まれていた。表されているモノのほとんどが理解は出来なかったが挿し込まれている絵だけは分かった。


「元々は儂の身体の再生をする為の実験に過ぎなかった」


 そう言うとこちらが術式のことを理解出来ていないことなどお見通しの様に絵の部分だけ並べられた。植物に脳みそのマーク、最も見覚えのあるサピダムの姿につけられたバツ印、魔石を人型に加工したモノ、魂のマークが青い人に入ったもの、最後には黒いモヤから?マーク。


「なんの偶然か儂は作ってしまったのじゃよ。{リバース}と同等、いやそれ以上の価値がある可能性のある召喚術をな」

「そ、れで、なん、で、か、彼が...」

「名前を付けてはおらぬがこの術は起動してから完全に生成し終えるまでとんでもない時間がかかる。そして誰が呼び出されるかは儂にも分からぬ」


 それでたまたまウヌベクスを引き当てたと言うの?昔と違って魔王軍の勢いが衰えるどころか増している気がする。このままの調子だと私達が勝つことなどありえないかもしれない。それでも私達は抗う、散っていった仲間達、そして愛してくれた人の為。

 絞め上げられ苦しくなりつつも手だけは動かして術式を手描きしていた。身体中から荒々しい魔力を溢れさせわざと制御せず爆発させる。魔力量があるからこそ出来る瞬間的、緊急時に使う荒業。身体への負担が高くあまり何度も出来ることではない。

 脱出し戦っている2人の元に駆けつけ彼の前に立ち塞がる。その顔を見て涙が出かけたがすぐに収まった。それまでの竜剣の使い手から派生させた双竜剣術を扱う為に2本の剣を構える姿。思い出の中と彼とほとんど遜色がないその姿ではある。

 彼はどんな時も笑っていたそんなに冷たい顔はしない。これまで戦った死人達はまだ表情があったようにも見えるが彼は、いやこいつは人型のゴーレム。鎌を強く握り魔力を再び込め気持ちを引き締め直す。 

 その双剣でどんな攻撃も弾き、敵と判断すれば躊躇なく首をも刎ねる。私も何度も刃を交えたことはあったが一度も本気で戦ってくれたことはなかった。そんな印象を持つ他の魔族に疑問を持っていたがその理由は『私のことが好きだから』と勇者一行に助けられた後に知る。

 初めて出遭った時から変だったとは思ったがまさか私が他人に好かれるとは思ってもなかった。手合わせの際に全力を出さなかった、手合わせとはいえ傷をつける可能性があったから。それほど私のことを深く愛してくれた彼はもうこの世にはいない。


「無理してないアンクル?」

「大丈夫よ、私はウヌベクスみたいに甘くはないわ」

「本当に大丈夫?」


 2人から心配されるがその答えとして彼の心臓に向けて目に見えない小さい術弾を高速で繰り出す。


「その弾き方あの時にそっくりね」

「・・・」


 初めて戦った時と同じように搔き消したがあの時の彼と違う何も感じられない表情。それを見て私の中での最後の迷いが消えた。本当は意識があって私のことを愛してくれたウヌベクスではないのか、そんなことを本当に少しだけ、少しだけ思っていた。

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