#222 闇を抜けた先
短いはずなのにとても長く感じたネモリアさんとの空の旅を終え魔王城へと帰ってこれた。地面に降り立った瞬間キュミーが飛びついてきて謝り始めた。自分は勇者として、いや本能に従って動いたまでだ。助けられる命があるならこの手を伸ばす。例え自分の身を犠牲にしてでもだ。
「とりあえずソールさんこれを」
「ああありがとう。ネモリアさんはやっぱり大丈夫そうだね」
「はいこの翼のおかげみたいです」
やはり伝説のウィングガルーダの力、個能として聖獣と同じ存在になったらしい。以前{瘴気}に触れた際は侵されていたのではなく単純な船酔いだったようだ。聖の適性を持っていないのに何故か{瘴気}の影響が少なかった1人でその可能性はあったが、まさか{勇者のオーラ}と同じで完全に無効化出来るものとは。
自分が周りの魔の力を取り込む為に捨ててしまった腕輪をネモリアさんから受け取り装着する。すると視界が何かによって覆われ聖術を施されているのを感じた。何度も味わったことのあるこの魔力はウェルンのだ。顔を上げると額を指で弾かれた。いつもこういう時はビンタをされるが今回はデコピンだった。
「言いたいこと分かってる?」
「うん、ごめん」
「でもそれでこそソールだと思うよ。でも次からせめて大きな声で伝えてね!」
「・・・分かった」
ウェルンが自分に対して本当に言いたいこと、『伝えて欲しい』ということだ。何も知らずにいなくなることが嫌、それはすごく分かる。何も知らない当事者でいたくない気持ちは本当によく分かる。でもその一瞬で叶わぬことが叶わなくなる恐れもある。だからこそ伝えられないことが大体なのだ。互いにそのことを頭で分かっているがそれでも知りたいんだ。
普段通りそういった思考をして支度が終わって進み始めた。ベルゴフさんが開けていた扉が完全に閉まった。このあと来る可能性がある人はあんな扉なんてモノともしないから大丈夫だろう。心配すべきなのは自分達の方かもしれない。
進み始めてしばらく経っているが今一体自分達がどこらへんまで来ているのだろうか?廊下に窓はあるが外の様子は全く見えるわけではない。むしろ扉になっている時もあるが別にその道が正解とは限らないしそもそも前に進んでいるかも定かではない。道はあるが道なき道を現れる敵を倒しながら進んでいく。
「みんな大丈夫かしら?」
フィオルン様の言葉に対して首を縦に振る人はいない。体感で半日以上は動き続けている、いやそんな気がするだけ。同じような道と似たような敵としか遭遇しないのも相まって余計時間が経過しているようにも思える。
だが実際のところは2,3時間しか経過してない。精神的にも身体的にも余裕があって動きやすくて大変助かるが、自分達だけだったらどうなっていたかは分からないが考えない方がいいだろう。
「埒が明かないわね。前回入った時に比べてかなり複雑化しているわね」
「本当に同じ所を回っているみたいですね」
「でもまだまだこれからだよね頑張ろうソール!」
なるほど、今はっきりと事前に言われていたとある言葉を思い出した。そうか、これが本気を出したサピダムの力なんだなと。剣と盾を構え魔力を込め竜剣を放つ態勢を整えて元来た扉に向かって攻撃を行う。すると聞こえるわけのない紙の音がして世界が崩れ始め縦に長い楕円形の扉のようなものが現れた。
そこをくぐると所々に様々な色の血がこびりついた研究室のような場所に辿り着いた。だがただの研究室にしては天井も高く奥に左右に広がる螺旋階段がありその椅子に黒コートの誰かがいた。自分だけじゃなくて先にいた何人かと遅れてこの場に足を踏み入れ合流を果たす。
「おぉ儂の作った魔の回廊を抜けたか流石じゃのう」
黒コートの人物から聞き覚えのある憎い声がした。先程までの趣味の悪さ、場所の雰囲気からしてもここまで嫌悪感を抱く魔王軍の奴など1人しかいない。これまでに何度会ったのかは分からないし、遭遇する度に逃げられ自身の力の無さにどれだけ悔いを覚えたか。
「サピダム」
「そう、その通り。お前らと同じ下等種族として生まれ、そして魔族という至高なる存在になった三魔将軍、叡智のサピダムとは私のことだ」
「そこまで言ってないよ?」
黒コートで顔が見えない状態ではあるが確かに叡智のサピダムという事には間違いない。コートでは隠し切れない禍々しい魔の力が漏れ出している。特に三魔将軍達の魔の力は特別で漏れ出す魔力が色を持っている。サピダムの色は虹色ではあるがどこか紫がかっていて汚い虹と言っても過言ではない。
「ハハハハ!どうやらここまで来るので疲れて呆気なくやられるのではと思っていたぞ」
「あんな子供騙し聞くわけあるかよ!」
「騙されなかったよ?」「なんのこと?」
「違うわよヒュリル、フォルちゃんそういう意味じゃないのよ」
アンクル様が術弾を放つと黒コートだけがその場に残り宙へと飛び上がったサピダム。だがその姿を見て更なる怒りを覚えてしまった。確かに奴はサピダムであるということに間違いはないのだがその容姿は全く異なる者になっていた。
「さぁかかってくるがよい勇者達よ。更なる力を得た完全体となりかつての私よりも素晴らしき存在になった私を楽しませてくれ」
声は三魔将軍叡智のサピダムなのだが、その姿はこの世界を誰よりも長く生き世界の為に貢献したとある1人の英雄と同じになっていた。この前の戦いで亡くなってしまった大英雄、ノレージ・ウィンガルがそこにいたのだった。




