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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
闇の中

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222/246

#221 間違いはなかった

 翼を広げどうにか上昇しようともがいても辺りに漂う魔の力の重さに負け落ちていく。高くなればなるほど大気は魔力の濃さで重さを帯びていく為飛行制限というものが生まれた。一番高く飛べた人でも港にある灯台ぐらいでそれは魔族も一緒。今の自分はそれよりも遥かに高い場所で力を使い果たしているのだ、この背にあるモノは飾りでしかない。

 抗えぬ運命を受け入れながら仲間の無事と共に世界の命運を心の底から願った。出来ることなら自分もその場所にいたかった、だがそれ以上に守りたいものがあった。

 あのままでは自分とキュミーは運命を共にしていた。危機迫る中で脳裏で2つ選択肢がよぎってその内の1つをすぐに実行した。まず1つはキュミーのことを置いて自分だけが助かる方法、そして自分を犠牲にしてキュミーを助ける方法だった。

 自分にもっと力があればあの場所に自分もいたのかもしれない。強くなったつも、いや違う強くはなったんだ。ソールという1デビアとしては強くはなっても自分は勇者として強くなったわけじゃないんだ。そもそも{勇者のオーラ}さえ完全に使いこなせていればさっきの事態そのものを簡単に回避できたはず。

 でももういいんだ、自分がそんなことを考えなくても。あとはみんながどうにかしてくれる。身体の中を巡る魔の力が暴走しないようにただ抑えることに集中する。ここで{瘴気}に身を任せてしまえば想像もつかない別の何かに変わって皆を襲ってしまうかもしれない。せめて邪魔にならないように消えよう。

 後悔は全く無いが心残りがないと言えば嘘にはなる。だがそんなことを思っても{瘴気}に侵され動かない身体ではどうすることもできない。このあとの自分の身に起こることに覚悟を決めて目を閉じ段々と速度を増しながら落ちていく。






 自分の身体を誰かに抱えられる感覚がした。自分のことを放さないようにしっかりとした力で誰かが。覚悟を決め閉じていた両眼を開けるとそこには見知った顔がすぐ目の前にあった。


「ネモリアさん!?」

「もう本当に何してるんですか?さぁ戻りますよソール」


 そう言って巨大な翼を広げて羽ばたき始めた。まさかあの場所まで飛んでいこうとしているのか?


「なんで来たんですか!?自分達の翼はあそこまで高くは飛べないんですよ!」

「ソール、あの時の約束覚えてますか?」

「あの時?」

「2回目のアルドリアで女心を知る為に私とデートをするっていう」


 そんなことを言っていたような気がする。自分のことすら分からないのにそんなことをする余裕はないと思ってひたすらに修練に打ち込んだんだった。


「こんな大変な時にですけど私の我儘聞いてくださいね!」


 物凄く羽ばたこうとして上に飛ぼうと必死になっているが真っ逆さまに落ち続けていた。このままでは2人共というかもう既に手遅れか。傍から見れば心中に見えなくもないな。


「どうして来てしまったんですか?誰にも止められなかったんですか?」

「多分止めようとはしてたとは思うんです。でもその前にソールを助けようと翼を広げてました」


 あぁそうかネモリアさんだもんな、頭で無理だと分かっていても身体が動いちゃうんだな。そうでなければあの時にキュミーとフォルちゃんを守るために身を挺したりはしないもんな。ネモリアさんは自分よりも頭がいい、だからそういう行動をした後に余計やっては駄目なことだと分かるはずだ。


「ソールも今までやってきたことに後悔はしてないでしょ?」


 その言葉に静かに頷く。垂直に落ちていた自分達の身体が回転し始めて段々とその速度を増していた。周りの音も置き去りにし始めているぐらいには速度を増していてあれだけ高くいたはずなのに海面が見えてきていて終わりを示していた。


「大丈夫、今の私、この翼、聖獣ウィングガルーダと同じ翼を持つ私なら!」


 確かにこの世界で翼を持つのは自分達だけではない。魔獣や聖獣などもいてそれらの生物は遥か高いところを飛ぶ能力を持っている。それらを参考にして日々研究を費やしてはいるが自分達が乗ってきた小型飛空艇が限界だ。魔能ですらそんな前例がなく、ましてや人の身であそこまで飛ぶなんて絶対に不可能だ。






 でも不思議なことに、何故かは分からないけど今の自分達は飛べる気がした。






 水面ギリギリを掠り水しぶきを上げながら高く飛び上がった。回転が収まったと思ったら大きな翼を使って羽ばたき始め上昇をしていた。空を飛んでいるのか?これは確かに真に飛んでいるという言葉が合っている気がする。自分の頭の中でよくイメージをしていた空を飛んでいる竜種のように軽々しく飛んでいる。


「飛べる保証はあったんですか?」

「ううん、全然なかったですよ。ただ...」

「ただ?」


 顔が近づいてきてその唇が自分の唇に触れた。あまりに突然のこと過ぎて呆気にとられてしまったが今もしかし・・・


「ただあなたを助けたかったんです。あ、今やったことはみんなには内緒ですよ」

「は、はい」

「短いですけど少しだけ私と飛行デートに付き合ってくださいね」


 先程まで重かったはずの身体がいつの間にか軽くなっていて力が入っていた。もしかしなくてもネモリアさんの個能{ウィングガルーダ}は{勇者のオーラ}と同じく魔の力を無効化する力を持っているのではないか?

 激しいプロペラの音を鳴らし上昇していた飛空艇と違って、いつも通り翼を使って飛んでいるのであまり音もなく周りを見渡せる程余裕があった。{瘴気}にまみれていた空などあまりちゃんと見たことはなかったがこの空はまた別の美しさがあるように見えた。

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