#219 窮走
呼吸も整い冷静な気持ちになったので周りを見渡し魔王城そのものを確認した。城としての出来は各国の物となんら変わりがない、はずなのに何故か歪という言葉が出てくる。城壁に触れてみると掃除されていなかった棚みたいに埃、いやこれは目に見える魔力の残滓だ。
足を進める度にも地面から噴き出す程ここら一帯は魔の力、漏れ出した魔王の魔力がありとあらゆるモノに沁み込んでいる。この腕輪が無ければ自分やアンクル様でさえも自我を失う恐れ、それどころか魔の力を持っていない他の皆は生きていくことさえ難しい。
「あなた達もう大丈夫かしら?」
「大丈夫です行きましょう」
腕輪によって凝縮された魔の力{瘴気}が自分達の身体を冒さないことを確認も終わり移動を開始し...
「ウェルン!」
どこからともなく何かが飛んできたのを弾き飛ばす。自分達、いや一個人の隙を狙った的確な一撃なのもそうだが、これだけ魔に満ちた空間だからかベルゴフさんのいつもの勘が働いていない。魔力そのものの中にいるという表現が正しいが自分もそうだがおそらくアンクル様も気付いていたようだ。
『ほぉ今のを防げるようになっておるとはな流石は魔勇者といったところか?』
「てめぇその声はサピダムだな!そんな姑息なことしてねぇで正面から戦いやがれ!」
『戦うわけがなかろう下等種族よ。それはそうとよくここまで辿り着いたものよ』
「今一度あなた達を倒す為よ。首を洗って待ってなさい」
『まぁよい。まずは無事にここまで進めるとよいな』
突然地震が起き降りた小型飛空艇の所から地面の崩壊が進んでいた。自分達は急いで魔王城の門へと向かった。崩壊する速度と移動する速度が今のところ同じぐらいなのでこのまま行けたらなんとか辿り着けるはずだ。かなりの距離があり周りを見ている余裕がない、この高さから落ちればただでは済まない。
必死に脚を動かしている中で後ろから誰かが転んだ音が聞こえ振り返った。そこにはキュミーが転んでいる姿が見えてしまった。踵を返して抱きかかえて急ぎだすが腕の中のキュミーが苦しんでいた。どうして苦しんでいるのかすぐに理解をした。腕につけていたはずの{瘴気}を無効化する腕輪が取れていたからだ。
そう簡単に取れるものではないのだが先程の砲撃で傷がついていたようだ。そして地面とぶつかったはずみで腕から取れてしまったようだ。城の中にさえ入れば{瘴気}の影響、多少の時間を我慢さえすれば影響が無くなる。とはいえ地上であれだけの濃さをしていた{瘴気}のに発生源にいる。短時間とは言えどんな影響を及ぼすかは分からない。
さらにキュミーを抱えてる影響で自分自身の速度も下がってしまっている。このままでは2人で一緒に地上へと落下してしまう。他の皆が視界の中に入るが余裕がありそうな人は誰一人として見えなかった。ここで取れる選択肢は限られているが自分の頭の中に真っ先に浮かんできたことを実行する。
「キュミーこれをつけて」
「で、でもこれお兄ちゃんの...」
「大丈夫、ここは自分と同じ力で満たされてるはずだから」
自分が着けていた腕輪をキュミーの腕につけ背中の翼も広げて全力で走り始めた。身体全身を使って走り出すと前方にいた何人かを抜かす程の速さになっていた。戦闘を走るベルゴフさんが扉に手をかけ全力でこじ開け中の道を開いてくれていた。
ただ確実に自分にも異変が起きていることが分かった。{瘴気}は魔王から漏れ出した魔の力ではある為、魔の力を持つ者には良い影響がある側面同時に身体と精神を蝕む毒でもあるのだ。ある者は正気を失い、またある者の意識を落とし最終的には命まで奪う魔王以外の者には過ぎた力、それが{瘴気}。
ノレージ様が作った腕輪無くして、{勇者のオーラ}を扱えず{瘴気}を無効化していない今の状態は最悪だ。{瘴気}が確実に身体を蝕んでていて速度が落ち再び最後尾となり崩壊がすぐ近くまで進んでいるのも分かった。
「ソ...離してください!ミュリル様!」
「駄目よ。あなたが助けに行っても逆にお荷物になるだけよ」
「くそどうにかなってくれ!」
「キュミー、お兄さん急いで!」
あともう少しで中に入れる。崩壊よりも速い速度を出せれば絶対に2人で間に合う。なのにあともう一歩足りない。このままではキュミーも自分も共倒れになってしまい魔王を倒せる確率が落ちてしまう。それだけは避けなければならない。
「お・ちゃ・・・・いって」
「え?」
「私のことはおいていってて言ったの!」
「そん、なこと出来るわ、けないだろ!」
「私よりお兄ちゃんが残ったほうがいい!だってお兄ちゃんは勇者だもん!」
キュミーが自分の懐から離れようと暴れるのを必死に抑える。確かに今ここでキュミーのことを見捨てれば自分は無事に辿り着けるかもしれない。だが果たして仮にも勇者と呼ばれている者が世界の為とは言え目の前の命すらも助けないのか?
「キュミー、お兄、ちゃんを信じ、れない?」
「え・・・?」
「どん、な時でも、諦めないで最後ま、で戦うのが勇者だ、よ」
「でもどう見て...」
「大丈夫、目を閉じて、奇跡を起こ、すから!」
広げた翼に魔力を込めて飛び始めるがそれでも速度が多少上がっただけ、なので目を閉じて集中してとある竜をイメージし始める。家に遺された本に書かれていた、いるかどうかも分からない伝説の竜種である閃光竜種を考え始めた。一度でも姿を見ることが出来ればその者はその後の人生が一生幸せになれるというこの世に存在する竜の中で最も稀有な竜。
その竜は自分とは真逆の聖の力に満ち溢れたいわば神竜と言っても過言ではない。だが今この時だけ、ほんとに一瞬だけでいいんだ。自分の魔力でどうにか具現化してくれお願いだ。最悪自分のことはどうなってもいい、腕の中にいるキュミーだけでも助けてくれ。




