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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
先触

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#22 叡智、そして狂猛の将

 いったい何が起きてるんだ。今見ているのは現実なのか?目の前にいる魔族は先程壁に打ち付けられて再起不能になったはずだ。それがどうしてまるで何事もないような顔して立っているんだ。まさか魔族特有の何か、いや個能なのか?それとも・・・


「ベルゴフ、急いで仲間を連れて奥へ行ってくれ」

「どうしてだ!俺ら4人でやればどうにかなるって!!」

「無理だ、何があってもあいつ、サピダムは倒せん」


 あの勇者ゴレリアスの盟友とも呼ばれた拳神様がそんなことを言うなんて。例えどんな生物でも死は来るはずだ。それは魔族とて例外ではないはずなのになぜそこまで言いきれるんだ。『あいつは倒せない』なんて。


「いいかあいつは{自己再生}の魔能を持っているんだ」

「{自己再生}ってあの低魔能のですか?かすり傷程度しか直せない?」

「そう、あまりにも消費魔力が多すぎて使い物にならないはずの魔能を奴は使える」

「どうしてですか?」

「それはあいつがもう1つ魔能、いや個能を持っている...その名も{魔力源}」

「それってもしかして魔力が常に湧いて出てくるとかですか?」


 ウェルンの質問に拳神様は黙ったままだった。つまり答えはそういう事だ。自己再生の魔能はよく聞くもので外れ魔能の代表例としてあげられる。自身の意に介せずとも勝手に傷を直す。だが即時に治せるのは軽症のものだけで、小さな傷を治すにも魔力の消費が著しいため意味を成さない物とされている。しかも仮に実践的に術を使える程魔力を有していても傷を負うと即{自己再生}が始まり魔力を枯渇するという前例が後を絶たない。

 そんな外れ魔能の欠点を見事に解消されてしまうともうどうしようもない。理論上だとやつの腕を切り落としたりしても無限に溢れ出る魔力によって再生が止まらない。{自己再生}によって寿命以外で死ぬことは到底ありえないということになる。さらに魔族に寿命というものが存在するのかすら分からないので実質、叡智のサピダムは不死身ということになってしまうではないか。


「そんなのどうやって倒すんだよ!」

「もう待つしかないのだ、新たな勇者が覚醒するのを待つしか・・・」

「勇者様なら倒せるんですか?!」

「ああ、相棒だったら魔能を封印出来る技が使えたんだ」

「そんな技があるんですか?!」

「そうだ、あいつだけが放てる{ディスキル}って技で魔能を封印してやつを撃退したんだか・・・」


 勇者様はそんな技も使えたのか...いや待て冷静に考えてみろ。要は勇者様だけが使えた技ってことは自分も使えるのではと。そんな強力な技を個能すらまだコントロール出来ていない自分が使えるのか?いや、やらないで後悔するならやってから後悔しろ、あの時の気持ちを思い出せ。


「うおぉぉぉぉぉ!!」

「おい待てお前!今言ったばっかだろ!やつには攻撃...「ソール!!!」」


 コルロがやられた時を思い出しながら勢いだけでやつの懐へと飛び込む。サピダムは不敵な笑みを浮かべて左手で掴みかかろうとしてきた。その時確かに自身の身体に変化を感じた。何かが身体の底から湧いてきたのだ。サピダムが後ろへと転移したため自分の振りは空振りに終わった。


「なっ、貴様!その力は、貴様の忌々しいその力はまさか!?」

「この前お前に名前を言えてなかったから教えてやるサピダム!ヒュード・ソール、メルドリア王より授けられし新たな勇者の名だ!!」


 だ、出せた!遂に出せた!初めて自分の意思で出せたぞ!個能{勇者のオーラ}を、あの時以来出せなかったこの力を!!


「ここまで辿り着くのは容易じゃねぇとは思ってはいたが、まさか新しい勇者だったとはな」

「あれが勇者の力か、確かにいつもの坊っちゃんとは思えねぇ気になったな」


 そういえばベルゴフさんも初めて見るのか。前回サピダムと戦っていた時はこの力を出せなかったし確か爆睡していたからな。とか思い出してる場合じゃない。自分だって勇者ゴレリアスと同じ力を持っている、だから同じ技を使えるはずだ。


「{ディスキル}!!」

「ぐっ、しまった!!」

「よし今なら!いけ...」

「待て!くそっ!!」


 またも勢いよく飛び出したが拳神様が自分を捕まえそのまま横へと飛ばされる。次の瞬間自分のいた場所で衝撃波が発生した。なんだ何が起こったんだ?痛む右半身を抑えながら周りを見渡す。ウェルンが自分に回復術をかけてくれた。

 そして拳神様が煙の中から飛び出してきてその顔は先程戦っていた時と同じとても厳しい顔をしている。とても真剣な顔だ。煙の中に拳神様よりもまた一回りいや二回り程大きい何かがいる。


「ゼハハハハハハ!!やっと復活できたと思えばなんだぁ?いきなり好物があるじゃねぇかよ!!」


 拳を地面に叩きつけまるで岩の波のようなものが自分達の方へ襲いかかってきた。


「{激震}!!」


 波は目の前で粉々に砕け散り自分達は無傷だった。だが技を繰り出し止めてくれたベルゴフさんの左腕から血が滴っている。


「な、なんて練度の闘気なんだ。まるで師匠を相手にしてるみたいな、ぐっ...」

「今応急処置します!」

「なんだよぉせっかく大好きな弱いやつの血が見れるかと思えば、面白そうなやつがいるじゃねぇか!」

「やめろ!お前の相手は儂だけでいいだろ!凶猛のフュペーガ!」


 あれが凶猛のフュペーガだって?!復活してしまったのか!拳神様の言う通りにするんだった。奥に行って自分達で阻止していれば・・・奴の姿はまるで大きな山かと思えるぐらいの存在、いやこれは威圧感だ。

 あまりの気迫に自分達は立てないでいた。本能がもうダメだと言っているが、それ以上に拳神マイオア・フィーザー様の圧の方がとんでもなかった。本当に同じ世界に生きている人間なのかと疑いたくなる豪然たる姿だ。


「これでここにいる必要性は無くなった、そろそろ引くとす、」

「あぁ?何言ってんだやっと動けるようになったってのに引くのか?」

「フュペーガ、貴様の気持ちも分かるが今の力であやつを倒せるか?」

「あ?」


 拳神様の様子が先程と明らかに違いすぎる。全身が黄金の輝きを放ち拳神という言葉通り神の様な神々しい黄金の戦士となっている。これが先代勇者一行の一員だった拳神マイオア・フィーザー様の本気。


「今度は魂と身体の分離などさせんぞフュペーガよ」

「師匠!加勢す、」

「こいつとはタイマン張らせてくれベルゴフ、お前らはそっちのもう片方を頼む」


 もう片方つまり叡智のサピダムを自分らは相手をしようと言うのだ。でも今の自分の力なら倒せる気がするなぜなら勇者の力を解放できているのだから。


「ベルゴフさん、ウェルン、サピダムを倒そう、最悪倒せなくても時間稼ぎをしよう」

「そうだね、私達じゃ拳神様の邪魔になっちゃうもんね」

「ああ俺らだってやらなきゃならねぇよな」


 自分らはサピダムに対して身構える。数的には三対一で数的有利、しかも相手は術士なので近接特化の自分ら剣(拳)術士に分があるはずだ。ここでこいつを倒すんだ!コルロここでお前の仇をとるぞ。

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