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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
闇の中

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218/246

#217 遺したもの

 暗がりに歩みを進めると部屋の照明が自然と点き部屋が照らされる。壁一面に敷き詰められた本と机に広がる術式が書かれた紙。ノレージ様がここを離れてからこの場所に立ち入ったものはいないはず、なのに最近まで誰かがここにいたと言っても疑いがしないほどの綺麗さだ。

 部屋の中心にある先端が丸い術具のようなものに触れると何かが投影された。自分達がよく使っている情報卓を作ったのもノレージ様なのだからこのようなものがあっても驚きはしない。改めて見渡してみると見慣れた物が多かったが形が微妙に違うものが多かった。これらは皆試作品だったりするのだろうか?


「こんなに術に関連した物があるってことはきっと間違いないよね」

「そうだね、ここはノレージ様が自分達や世界の人々の為の研究をしていた部屋だね」

「流石にここまでありゃ、あの爺さんの部屋にちがいねぇな。こんだけ術術してるとちっと頭痛くなって気もするな」

「おじさまらしい部屋ね、ほんと」

「ここにある術書は見覚えがあるわ。旅の途中にこれと同じものに術式を記録してたわ」


 そんな話をして投影が終わるのを待っていたがいつもの情報を移す平面の映像術ではなく、形が徐々に人型を帯びていき見覚えのある、いやノレージ・ウィンガルの姿へと変わった!これほどまで精巧な映像術を映せる術具はこれ以外にないだろう。色が映像術特有の水色なだけではっきりと空中にノレージ様が投影された。






 まずはみんなに謝らなければならないことがある。すまない、こうなることは儂は読めてしまっていた。だからこそこの場所を稼働し続け来たるべきに備えていた。おそらくではあるがこの言葉を聞いている中に儂はいないな。これを聞いている時でなくとも儂はそれまでの間に寿命を迎えておるからじゃ。

 まぁ寿命で死ぬようなことはないように儂に残された魔力をすべて使ってでもここで作っているものが完成するのが間に合うのを祈っておる。意図的ではなく自然にここへの道が現れたのであれば魔王ラ・ザイールを倒す手助けとなるものが出来ておるはずじゃ。

 儂の見立てでは{瘴気}が濃すぎて魔王城に近づけずに困っておるはずだと読んでいる。その{瘴気}を無効化しつつ聖の力や{勇者のオーラ}なくとも自由に動けるようになるモノがその本棚を動かした先にある。仮に{瘴気}でなくとも空中や水中へと魔王城が移動していてもついでに作ったモノを使えば大丈夫のはずじゃ。

 おっとどうやらそろそろ術具が限界じゃな。先立つ儂からあえて言わせてくれ、勇者達よどうか美しく楽しいこの世界を守ってくれ。儂が約230年もの間生きてよかったと思えるこの世界を元に戻してくれ。フィオルン、ミュリル、アンクルよ、先に行ってフィーザー達と共に待っておるがすぐに追ってくるのではないぞ!






 ノレージ様が作っていたモノがあると言っていたがどこにあるのか。部屋のあちこちを探し始めると本が1つも抜けない本棚を見つけベルゴフさんに壊してもらうと新たな道が現れた。自分達はさらに奥へ進んでいくと開けた空間に辿り着きそこには小型船のようなものが5隻あった。小型船を1つ1つ調べていくとその内の1つから図面と共にメモが添えられていた。


『こいつは儂が研究の末に完成させた空を飛ぶ船じゃ。完成しない限りはこの場所には入れないはずじゃがこいつに名前はない。自由に命名するといい、使い方は感覚でなんとかなるはずじゃ。』


 これまでありそうでなかったものとして上げられるのが飛行する物体だ。ある程度の高さまで浮遊するものやウィンガルやデビア族の様に飛ぶことが出来ても、自由に空を飛び回ることは出来なかった。どの国でも躍起になって開発を進めていた。ノレージ様でさえこの大きさで開発するのが限界だったのだろう。

 小型船を調べていると腕輪のようなものが人数分見つかった。それと共にまた同じようにメモが添えられていた。どうやらこれは魔の力を無効化することが出来る代物らしい。これで魔王城で聖術をかけられてなくても自由に動けるのでかなり楽になった。


「おじさま、本当にこれ程のモノをよく作りましたね」

「本当にいつも先を行ってしまうわね」

「これ余った1つ一応私が持ってていいかな?」

「どうし、あっもしかして...」

「マスターもきっと来てくれる。だからその時の為に」


 全員が腕輪をつけて小型船に乗り込むと船体が宙に浮かんだ。自分とウェルン、ネモリアさんとハウゼント、フィオルン様とフォルちゃん、キュミーとミュリル様、ベルゴフさんとアンクル様のペアだ。アンクル様だけは狭いと最後まで文句を言っていた。

 5隻が飛び上がると真上に穴が開いたのでそこから魔王城へと向かい出した。かなりの速度、自分やネモリアさんとかが飛ぶのとはまるで訳が違う。全速力で馬車に乗っているのと同じ速度、いやそれ以上の速さだ。あっという間に魔王城近くの海域まで辿り着いてしまった。

 速すぎて辺りを確認する余裕がないが羽が動いている音が複数聞こえているのでおそらく大丈夫。腕輪の効果がちゃんと機能しているのも後ろで自分の腰に掴まっているウェルンを見ればよく分かる。

 遠くの空に魔王城が見えてきたので船体を持ち上げて同じ高さまで上昇して停止する。他の皆も停止してくれたので全員の無事を確認する。この暗き時代を終わらせる為に遂に自分達は魔王城、魔王討伐をしにいくが成功する確率は正直低いのかもしれない、だがそれでも挑まなければならないし自分達にしか出来ないことだ。

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