#216 扉
今向かっているのは慰霊碑があるとされるメルクディン大陸西部。自分達が過去に行ったことのあるメルクディン山脈よりもさらに西、大陸の端っこに存在している。この世にまだ光が溢れている時は定期的に巡礼する者や整備する者達がいたがどこもかしこも魔獣や魔族が蔓延る今ではもう...
荒れてしまった道を進みつつ道中出てくる魔族などを倒していく。かつての勇者一行である3人、それとベルゴフさんとハウゼント達は難なく倒している。自分を含めた通称若人組は苦手とした敵もいる中会話を混じえられる程余裕がある。この光が見えるまで自分達は厳しい修練をずっと積み上げこの日の為に仕上げられたはずだ。
「それにしても懐かしいわねこの道も。最後にここに来たのはあの日以来ね」
「そうねフィオ、私達が再び集まれることを願った時ね」
「本当にだいぶ減ってしまったわね」
そんな会話が聞こえてきた。ネモリアさんを喪った時の悲しみは今でもはっきりと覚えている。だがその思いをアンクル様達は自分の4倍も経験しているはず。誰かを喪う気持ちは味わいたくはないがそれを今もこの世界のどこかで起きている。例え自分の身が果てることになっても負の連鎖は断ち切ろう。
整えられたつつも若干荒れた石道を進んでいき木々が特に薄いところを抜ける。小高い丘の完全に崩壊した慰霊碑へと近づいていく。地面に見覚えのある盾の跡があるのでここで間違いなさそうだ。ハウゼントの報告通り誤って壊れた感じではなく、規則正しく慰霊碑の下に隠してあった階段の邪魔にならないように崩れている。
「なんだか怖いけどこの先に何かあるんだよね?」
「そのはずです。この字は間違いありませんノレージ様のものです」
「それにしたってあの爺さん王家の者や師匠達が定期的に訪れてただろうによく隠し通してたな」
「多分私の{幻}の仕組みをこの場所に組み込んでいたんでしょうね。個人の魔能まで再現してしまうなんて流石はおじさまです」
術の祖、マジックアルケミストノレージ・ウィンガル。前世界大戦時のヴァル大陸を1つにまとめエルドリア共和国を建国し、当時冒険者ギルドというものを立ち上げ冒険者というものをしっかりと職業の1つへと確立させた。その上で基本五術の基礎や応用の分野を発達させ世界に対して大きな貢献をした。
自分も初めて王都メルドリアで出会った時のことを思い出す。かなり昔の記憶ではあるが一番覚えているのはこの人には絶対に勝てないという感覚。魔族などは魔力を常に放出していて力量などが分かりやすい。ただそれは他の人々も例外ではない。
武器術や拳術に精通していなければ身体から魔力が漏れ出す。術士は特に漏れ出しやすいはず、だがノレージ様は魔力そのものを呼吸の様にコントロールしている。術の仕組みを理解したからこそ編み出された混術は相手に合わせて性質も変えられ、簡単な術から至難な術、個人の才能が左右する混術がある。ノレージ様自身が伝える以外ではその術を学ぶことが出来ないように旅の最中に記した術書は禁書扱いとしていた。
そんな人が隠していた研究所への信頼はこれ以上いう事はない程高いだろう。だがここで新たな問題が出てきた。扉を開こうとするが全く動く気配がしなかった。力自慢のベルゴフさんやハウゼントが開けようとするが全く開く気配がせず勇者一行の皆様でさえ開けられなかった。
「どういうこと?おじさまにしてはかなり意地悪な術式を施してるわね」
「やっぱり特定の人にしか開けられないようになってるんですか?」
「あなたが持ってる紋章と理屈は同じで特定の人以外はこの扉は重くなる。力で無理やり開けられないようにね」
{勇者のオーラ}が無ければ開けられないのか?と悩んでいたがまだ全員が試したわけではない。単純に重い扉と思っていたので試していなかった現勇者一行の女性陣達も扉に触れることになった。同じウィンガル族のネモリアさんでも変わらずキュミーやフォルちゃんが触っても何も変化はなかった。だが最後にウェルンが触れた瞬間扉から術式が浮かび上がり扉が規則正しい破片となった。
なぜウェルンが開けられたのかと考えたが思い当たる節が存在しなかった。その答えも求める為に自分達は階段を下っていき坑道を進んでいく。奥に進んでいくに連れて段々と術式を用いた灯りが付けられウィンガルの建築様式の通路に変わっていた。
「かなり進みましたねノレージ様はいったいここで何をしていたんでしょうね」
「あの爺さんはフィオ姐みたいに未来を見る能力がないのに先読み出来るぐらいに頭いいからな。この先にあるものは絶対に期待していいと思うぞ」
知識量とそれらを使った術研究においては今まで生きてきた人々の中、これから先もノレージ様を越える者は現れないと誰しもが納得をする。死ぬまでの間に自分も一度でいいから戦ってみたかったなとは思うが本当に相手にされないレベルだったんだろうな。
対術士の戦い方は心得てるつもりではあるがその考えの根本にはノレージ様の教えがある。術というよりかは魔力に関連する事柄では絶対に勝てない、まさに不変の真理と言えるだろう。かなり奥に進み入った時と同じ扉があったので再びウェルンに触れてもらうが反応はない。
「あれ?何か書いてある。えーと『我が友3人の手を触れよ』」
ノレージ様が言う我が友はもうこの世に彼女達しかいない。フィオルン・ビース、ミュリル・フィンシー、ラ・アンクルの3人の手が扉に触れると音と共に術式が壊れた。ここまでセキュリティーを厳重にしているがこの先に本当に何があるのだろうか。




