#214 魔王城
辺りが段々と騒がしくなってきた。空模様も波も荒れてきて船の揺れも激しくなっている。魔王城へと近づいているのが分かる。甲板に出ている船員の人数も減ってきて交代で見張りをしている自分とベルゴフさん、落雷等から船を守るために盾を張っているハウゼント以外は船室で待機している。
「坊ちゃん交代の時間だぞ」
「もうそんな時間だったんですね」
「そうだな、思った以上に時間喰ってるみたいでよ。俺やハウゼントみたいに体力あるやつならいんだがあまり外にいすぎても良くないらしいからな」
「体調があまり優れないとかそういう話ですか?」
「あぁそうなんだけど坊ちゃんはなんか元気そうだな」
船室で待機している他のみんなは慣れない船旅が続いているのに加え、濃い魔の力{瘴気}によってかなり体調を崩してがちだ。自分も日を重ねるごとにつれて動きが悪くなってもおかしくはない。だが逆に力が満ちているような気がするのは何故かと考えた。
何日も見張りをしていて思ったのだが普段よりも調子が良く感じるのは辺りの魔力に多く魔が含まさっているからだろう。現に自分とかアンクル様は顔色を変えることなく過ごしていたり魔に対して耐性のある聖の適性を持つミュリル様、ウェルンは大丈夫そうで、適性があっても魔力量の少ないフォルちゃんやそもそも適性を持っていないネモリアさんとキュミーは少し辛そうだ。
こんな状態で魔王城に行って大丈夫なのかと思ったがその時には魔の力を無効化する術をミュリル様がかけくれるそうだ。それまで魔力を温存する為に今は待機してもらっている。
「やっぱりあなたも大丈夫よね」
「アンクル様」「アンクル姐」
「私達はデビア族だからここら一帯の方が調子が良かったりするのよね。これもとう...ザイールと同じ力を持って生まれた運命と言えるわね」
「それで考えるとベルゴフさんは元気ですね」
「うん?まぁ俺は鍛えてるからな!ちょっと動きづらいがいざとなりゃこうすりゃいいからな」
{纏神}をして白金色に一瞬だけ変わって元に戻った。ベルゴフさんやハウゼントの様に闘気を扱えれば大体どんな環境下でも動けるらしい。その理屈で言えば武器術使いである自分以外の人達もそういうことが出来ても不思議ではないのでは?と疑問が出てくるがその答えとしては完全に違うと言える。
闘気を扱う拳術士はガントレットや盾のように手の平や拳が密接していないと闘気を纏わせることは出来ない。そして剣術士は魔力を纏わせる対象が完全にそれぞれに適したモノでなければ力を発揮することが出来ない。
魔力を闘気に変換して戦う拳術士と魔力を武器に纏わせて戦う武器術使い、傍から見れば似ているというか同じに見えるがその道に準じた者達にしか分かり得ない苦労がある。拳術士は闘気に変換する才能がなければなることは出来ないが、武器術は少しでも魔力があれば簡単なものならば誰でも使える。
「ハウゼントのもすごいわね、ゴレリアスの{勇者のオーラ}に似てる気がするわ」
「やっぱそうなんだな。俺みたいに別に闘気の練度が高いわけでもないのに、今力を存分に発揮できてんのはやっぱそういうことだったんだな」
確かに言われてみればハウゼントがベルゴフさんのように闘気で身体そのものを変えているところを見たことがない。別に聖の適性を持っているわけでもないのに{瘴気}が満ちている環境で汗1つかくことなく魔能を展開している。自分が{勇者のオーラ}を扱えてた時と同じ雰囲気を常に感じられるような気がする。
その姿を見ていると本当に自分が勇者の力、個能{勇者のオーラ}を持っているのかと不安になってきてしまう。だがハウゼントは勇者ゴレリアスが使えた特別な術などを使えないので完全にオリジナルの魔能、個能であるとは証明されている。この間自分の手に聖剣テークオーバーを呼び出せたり、{勇者のオーラ}を持っていなけば身に着けられないこの紋章がある限り、やはり自分が持っているのかもしれない。
かつての勇者は呼吸するかの如くその力を行使することによって人々を救っていた。同じ武器術、竜剣を扱う親友と共に切磋琢磨もしながら魔王軍を倒していたという話。だが自分は別に自由に{勇者のオーラ}を扱えるわけでもなく似ている点は竜剣を使えるという事だけ。
とこんなことを今考えてもしょうがないが決戦が近づくと思うと心配で考える。不安を拭おうと修練を積んだりベルゴフさんと摸擬戦をさせてもらったりもするがその一瞬しか気が休まらない。体調的に元気でも精神的にはこの船の中の誰よりも弱い可能性がある。
「坊ちゃんあんまり気負い過ぎるなよ」
「え?何のことですか」
「いやぁなんとなくだよ。俺も怖くはあるんだよ流石にな。」
「そうなんですか?」
「そらそうだろ、あれだけ強いって言われてる師匠達が唯一取り逃した敵んとこに行こうとしてんだぞ?」
新勇者一行では1人だけ約20も歳が離れている頼りがいのある大人。もしいなかったら自分達はここまで成長も出来ていないで志半ばで力尽きていた可能性もある。自分達を支えていた大黒柱でもあり精神的支柱、それがベルゴフさんだ。ここまで共に旅をしてきてベルゴフさんの真面目なところは見たことはあるが、初めて弱音を聞いたような気がする。
「ソール、ベルゴフ!みんなを呼んできて!」
アンクル様の言葉に従い自分達は船内で待機していたみんなを呼んでくると帆が畳まれ魔力で動いていたオールが動きを止めていた。
「何かあったのアンクル?」
「ええ緊急事態よ、前方のあれが見える?」
指を差した方角、全員が身体を向けるとそこには宙に浮く城が見えた。おそらくあれが魔王城なのだろうが聞いていた話と違う。事前の話ではこの船で上陸し魔王城に突入するはずだった。だがあれだけの高さに浮いていられてはここにいる誰もが辿り着くことが出来ないだろう。




