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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
闇の中

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214/246

#213 雲行

 魔王城に向かう船の上、木剣を2つ持っていつも1本で行っていた竜剣術を振るっていた。ウアブクスから教えられた竜剣は剣と盾を持って戦う守りに特化し、相手の攻撃に対して対応することを重視にしたもの。自分もその型に沿って修練してきた。

 ただ習い始めた最初の頃自然と2本の剣を持ち竜剣を振るおうとしていた。その頃はなんとなくだった、すぐに正しい竜剣を教え込まれウアブクスと同じ型になった。それから数十年してようやく壱の剣を出せるようになり旅をする中で竜の子供、竜剣についてのことを学んでいくうちに1つの考えが自分の中に芽生えた。

『自分に合った武器術があるのでは?』

 そもそも自分で編み出した竜剣の派生剣術が出来ている時点で、もう自分も竜ではなく子供の1人になっていたのかもしれない。剣に魔力を纏わせて竜を具現化させ放つのが竜剣、その更に上から魔力を纏わせてより威力を高め別の剣術にしていた。言うなら魔竜剣だ。


「おう坊ちゃん精が出るな」


 会議を終えたベルゴフさんが船倉から出てきた。そのタイミングで自分は休憩をとることにした。木剣を置いて座るとベルゴフさんも隣に並んできた。そこで自身の利き手について聞かれた。この間2本の剣で振るっていたのを見て疑問に思ったらしい。

 その答えとして自分は両利きだ。もちろん普段から使うのは右手なのでそちらだけ鍛えればいいのではと自分も思った。なのでウアブクスに聞いた。もしいつも使ってる右ではなく左だけでしか攻撃出来なかったら等の緊急時、どんな時でも竜剣を振るえる為と言われて納得していた。

 今になってようやく分かったがウアブクスは今のこの状態、剣を2つ持つのを見越していたからなのかもしれない。思いつきでやったにしてはかなり、いや呼吸するかのように馴染んでいた自分の新たな可能性。魔王城に着く直前に気づけて良かったしこれで自分も自信を持って戦えるだろう。


「坊ちゃん休憩しているところ悪いが...」

「?ああ、いいですよ。ただあまり激しく動いて船を壊さないようにやりましょう」


 自分の手により馴染ませる為にベルゴフさんと摸擬戦をする。だが途中でアンクル様達に止められた。思いのほか熱が入り過ぎていたらしく船全体が揺れ、備品だけではなく船そのものが沈む恐れがあったらしい。ベルゴフさんは壊した箇所の修理、そして自分は甲板の掃除を罰として受けた。

 一見平和そうだが自分達はもう少しで世界の命運を懸けた戦いが始まるのだ。キュミーやフォルちゃんも最近は遊びではなく摸擬戦が多く普通に負けることもある。今の自分達の実力ならもしかしたら行けるのかもしれない。






 岩石を持ち宙に上げ叩き割り壁に破片を打ちつける。サピダムの野郎が何か企んでいて見張っていろと言われたが流石に魔王城には来ねぇだろ。退屈過ぎて城の周りに浮いている岩石を拾ってはこんなことをしている。しっかし本当に何してんだ?あいつがわざわざ俺に言うぐらいだからな。相当邪魔されたくねぇんだな。

 そういえばドリューションとも手合わせしてみたいもんだがな。まぁ流石にあんな状態の奴とは戦っても面白かねぇだろうな。あそこまで手負い、いやロイヤルスリィの姿を曝け出してたら魔王様以外は勝てねぇだろうな。

 サピダムが入ってきて三魔将軍とか言い出す、そして尚且つあいつがまだ下等種族の真似ごとをしていない遥か昔。俺も聞いただけの話だが魔王様にボコられて手負いになった後に奴の首を狙った魔王軍の愚か者達は皆養分にさせられ翌日には完全回復していたという。


「こんなところで何をしているフュペーガ?」

「うん?なんもしてねぇよ。今回は鎧野郎か」

「まさかザイール以外であの姿まで追いつめられるとは思わなかった。しかもまさか仕留めそこなうとはな」


 下等種族で言うところの感情が漏れているのか拳を強く握り過ぎてスリィの液体が隙間から出ている。それにしたってドリューションが仕留めそこなうなんてあいつ、えーと確かガッシュて言ったか?戦ってみたいもんだが聞いた話だと痛み分けだって聞いたからな。しばらくは回復しねぇだろうな。

 勇者でもねぇのにそこまでの強さを持っている奴がいるのもそうだがな。そんな実力を持ってる野郎がなんで今更になってようやく出てきたんだ?そんな奴が前の戦いの時にいたら下手したら俺ら滅ぼされていたかもしれねぇのにな。


「で何をしているんだフュペーガ」

「俺は奴に言われてただここにいるだけだし何やってるかは知らねぇ、待ってたら分かるだろ」


 で本当に何してんだ?この間の魔王城を取り戻してからずっと籠ってやがるが1回も出てこねぇな。実験失敗して出てこねぇんじゃねぇか。まぁ入ったっていいだろ、扉に手をかけると空間が変わる。にしたってやっぱ下等種族の何かしらが転がってて気色悪いなこの場所。

 だがおかしい、奴の魔の力を感じられねぇ。まさか本当にくたば...いや待て誰かいやがるな。サピダムしかいるはずのないこの場所になんで下等種族がいやがる。しかもあいつは・・・


「なんでてめぇがいやがる翼野郎」

「・・・」

「おいてめぇどうやって入ったんだ?答えろ!」


 拳圧を飛ばして攻撃する。だがそいつが展開した術壁は俺らが使う魔の力で構成されていた。しかも見覚えがある術壁でこいつの正体が分かった。そうかこいつも俺と同じように最適な身体を手に入れたのか。散々身体なんてどうでもいいって言ってたのにな。これからやってくるであろう勇者一行もまさかかつての英雄が敵となって立ち塞がるなんて思わねぇだろうな。

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