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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
闇の中

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213/246

#212 始まり

 当時共に旅をしていた皆が驚いた。それは当然のことでこの前まで命を、いや世界を懸けた戦いをしていた敵、それを勇者一行のウヌベクスが助けた。このことに対して一番感情を出したのは他でもない親友のゴレリアスだ。

 一行の誰よりもゴレリアスと旅を、旅どころか小さい時からずっと一緒に暮らしてきた幼馴染が突然裏切った。自分の身で考えるとウェルンが突然裏切ってジャックを助けてどこかに行ってしまった。・・・考えるだけでもうあまりいい気分ではなかった。

 一方で助け出されたアンクル様はウヌベクスによって介抱されていた。これまで何度も命のやり取りをしていたのにどうして助けたのかと。勇者一行とはよく戦っていたがその中で一番戦っていたのがウヌベクス。その度に感じていた違和感にもこの時ようやく気づけたという。


「でもまさかよね、初めて見た時からもう既に惚れていたから全力で剣が振るえなかったて言われたもの」


 ウヌ、父さんは一目惚れだったから何度も戦ってあえて倒さないようにしていたのか。コルロのことを斬る覚悟が出来たのはまだ親友だったからかもしれない。もしこれがウェルンだったら父と同じことになっていただろう。


「で回復した後に寝込みを襲って問い詰めたら愛を囁かされたそうよ」

「いいわねーそんなこと私もされたかったわー」

「うるさいわよ本当に...」


 いじけ顔をする母親の顔を見て笑っていると目の前に魔弾が飛んできた。こういうのはベルゴフさんがよくやられていたが何で女性はこういう感が鋭いんだ?てそろそろ港に着くけどここまでずっと走ってたベルゴフさん大丈夫か?

 気になったので後ろを見て見ると狼の少し後ろを走って追いかけてくる白金色の塊がそこにはいた。ここに来るまでの道中休憩をしていないのに若干汗をかいている程度なのも恐ろしい。汗をかいていること自体まず初めて見た気がする。


「あんた本当にフィーザーみたいなったわね」

「こりゃ中々いいランニングなったわ。」


 間違いなくベルゴフさんはかつての勇者一行と同じぐらいの実力を持っているとは薄々思ってた。個能が開花したネモリアさんも十分な力を持っている。ウェルンは魔の力に対してとても有効な力である聖の適性を持っている。そしてかつての勇者一行だった御三方の実力は問うまでもない。

 ただここで問題となってくるのは自分とキュミーとフォルちゃんの実力が足りているのかというところだ。どうしてそのようなことを気にしているのかって?この船は元の大陸に戻らずに魔王城へと向かうことになったからだ。本来はあと少しだけ修練を積んだりしてから行く予定だったが状況が変わったとのこと。

 その詳細をこの港に残された通信具でこれから聞くところだ。ハウゼントが魔力を流して聞いていて青ざめた顔をし始めた。それほど急を要する事態になってしまったのか?ここに来るまで団員手帳が光り輝いた。エクスキューションの一般兵の手帳では連絡事があると光り輝くのだが幹部クラス、ハウゼントは三闘士だったので極めて緊急性のある連絡以外では光ることがない。つまり連絡してきた相手は...


「マスターから連絡がありました。魔王軍が全世界への侵攻を始めたとの連絡が」


 その言葉を言い終えた瞬間近くで落雷が落ちたと思ったら突然嵐となった。そして海から海竜種の群れと共に魔族が港に上陸してきていた。その数はこの大陸で2度魔王軍と戦った時とほぼ同じ量だ。この規模の魔王軍が全世界のあちこちで襲っているとなればこの世の終わりの始まりと言っても過言ではない。

 見たところ数が多いだけで魔王軍の幹部クラスの実力者がいるわけではない。最終決戦前最後の修練ということにさせてもらおうではないか。剣に魔力を込めると魔術剣の刀身はこれまでで最も優美で艶のある黒紫色へと変化した。


「坊ちゃんも中々練度が高くなったな」

「お兄ちゃんの剣って本当に綺麗だよね」「ねー」


 この時どうしてだか分からないが自分は魔力を量の手に込めるのではなく左片方だけに込めた。今なら呼び出せるような気がした、ただそれだけ。何を呼び出せるかと言われるとただ予感があっただけ。目を瞑り右手を天に掲げとあるものを願った。かつての勇者だけが持っていた伝説の剣のことを願った。

 拳を握ると確かに何かが握られたような気がして目を開けるが何もなかった。何故か今ならまた再び自分の前に現れるような気がしてしまった。本当にどうしてかは分からなかったし、右手には何もないはずなのに、自然と自分は二刀流の構えをとっていた。


「これまでその構えしていたところ見たことないですがすごい様になってますね」


 今日までよく模擬戦等をしてくれたネモリアさんがそう言うのも無理はない。


「ソール懐かしいね、小さい時にそんな構えとってたよね」


 今自然にとったこの構えは竜剣を学び始めた頃に少しだけ使っていた間違った構え方。ウアブクスから矯正された構えだ。でも今ならこの構えで戦えるような気がした。本当に理由はよく分からないがそんな気がした。自分に対して2体同時に跳びかかってきたので魔術剣を握る左手と何も握っていない右手を十字状に振るう。

 当然右側跳びかかってくる魔族には攻撃が絶対に当たる訳がない。だがその敵は輝く剣筋が現れ霧散した。これまでこれと同じ光景は見たことがある。それはウェルンの聖術が魔族に当たってとどめを刺した時だ。左の魔術剣で斬った方はただ倒れているが何故か右の何もない、剣を握っているフリをした方もそうなっている。

 自分の前に握っているフリをしていた右の手を持ってくるとその手には光沢を放つ刀身の剣、紛れもなく{テークオーバー}を握っていた。

 再び構え直して次の魔族へ戦いを挑んでいく、この構えを馴染ませる為だけでなくいつか消えてしまうかもしれないこの剣を使って敵を倒す。その戦いが終わるまでその手には{テークオーバー}は握られていたが終わりを告げることなく突然消えていた。

 他の皆も自分が持っていたことは確認しているが全てが終わった後に呼び出そうとしても来る予感が全くしなかった。再びこの手に戻ってくるのはいつなのか考えるだけ無駄な気がした。またいつの間にか戻って来てくれるそう信じて自分は前に進むのであった。

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