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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
闇の中

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212/246

#211 決断

 自分もそうだが魔の力が薄れると一時的に魔族的特徴が薄れヒュード族と同じ見た目となる。少女、いやルヒルと暮らしていく中でもそれは起きていてデビア族と気づかれた。ただ気づいたところでルヒルは歳の離れた姉のように接してくれた。

 その時にはもうこのままこの子と暮らしていくのも悪くはないと思い始めていたという。力を追い求めていたアンクル様にとってはようやく訪れた平和な時間。そう思い始めた矢先だった。

 その日は魔の力がようやく回復した身体を動かす為に少し遠出をして帰りが遅くなっていた。帰路に着く中で見つけた少女の名前の由来であるルーヒール草という珍しい花も持ち帰っていた。小屋に辿り着くと魔獣や魔族が小屋の周りにいて寒気を覚えた。辺りの魔王軍を蹴散らして中を確認するとそこには血だまりと肉片が散らばり恐怖の表情で固まったルヒルの首があった。

 変わり果てた姿になった少女を見て初めてアンクル様は涙を流したという。生まれて初めて零れ落ちた物に戸惑いながらもようやく理解をしたという。下等種族として扱っていたヒュード、マイオア、ビース、ウィンガル、フィンシーとデビアという同じ人種なのだと。仲間で私を逃がそうとしたのは決まってデビア族で魔族ではなかった。生まれた時から魔族として育てられたアンクル様はそこでようやくデビア族となったという。


「ってこの話は魔王軍と関係ないわね。本題に...」

「いやどうせなら話してあげたらアンクル?」

「これまで私達、ゴレリアス一行として旅した人以外にもちゃんとあなたを知ってもらいましょうよ」

「フィオ、ミュリル...もう少し話を続けるわね」


 その言葉に対して自分だけでなく他の皆も頷いていた。長話があまり好きではないキュミーとフォルちゃんもそうしていたのは意外だったが。

 アンクル様は近くの魔王軍の前線基地へと向かう。そこには捕らえられた五種族達がいてキマイラの糧にされかけていたという。以前まで彼らの表情を見てもを見てもなんとも思わない、地面を蟻が這うように気にしていなかったが気になってしまった。

 そしてその場にいた魔王軍に手を出すなと命令をした。だが次の日の朝を迎えると捕らえられていた人々は皆キマイラに食されていた。アンクル様は度重なる失敗はしていたが、あくまでも実力社会な魔王軍ではそんなこと如きでは権威は落ちていなかった。なら何故彼らは餌にされたのか答えは簡単だった。

『こうやると楽しいから』

 人々が死ぬ姿を見て喜びを覚える、それが今までなら普通だった。強い者を逃がす為に弱き者が逃がすのに理由はない、それも普通。下等種族は魔族にとって道具で娯楽の一部でしかない。そんなことを普通と思っていた魔族としてアンクル様はもういなかった。デビア族として倒さなければならない巨悪だという認識をもう持っていた。

 次の瞬間にはもう魔王軍は同胞ではなく倒すべき敵として鎌を振るっていて基地ごと壊していた。1つだけでは気が収まらなかったので片っ端から基地を襲っていた。目的のない破壊行為は全世界にまで巡り当時駐屯していた魔王軍は皆アンクル様が全て倒してしまったのだという。その矛先は魔王城にも向けられたが三魔将軍によって捕縛された。

 これが決定打となり魔王軍はアンクル様をキマイラへと変化させ地上全てを手中に収めようとした。この知らせは五種族の中でも驚愕のこと。そもそも勇者一行も各国どころか冒険者すらも魔族が急に減ったことに対して調査しようとしていた矢先の出来事。内部崩壊ではとノレージ様が予想していたが全くその通りだったということだ。

 アンクル様に何があったにせよ魔族は魔族という認識を持っていた。なので阻止しようと勇者一行が戦いに行った。本目的としてはその場にいる魔族の殲滅そして魔王に挑む足掛かりとする為。作戦は概ね成功したが当時誰しもが予想しなかった誤算が生じた。


「本当にあの時はびっくりしたよねフィオ」

「ええまさかウヌベクスさんがあんなことするなんて」

「えっ何したんですか?」


 自分の本当の父親でもある勇者の親友で代々竜剣を継承していた最強の剣士、剣神ヒュード・ウヌベクス。彼が進んで魔の力を封じ込められ抵抗する術を持たなかったアンクル様にとどめを刺す振りをしてアンクル様を抱えて逃走したのだ。その戦いでは三魔将軍が来た際の対抗手段としてサポートに徹していたがそれは全てこの為だったという。


「どうしてそれまで戦っていた父、ウヌベクスはアンクル様を連れて行ったんですか?」

「・・・」

「アンクルお姉さん?」「黙っちゃった」

「・・だったからよ」


 急に声が小さくなって何を言っているのか分からなくなったアンクル様。なのでもう一度聞くことにす、いやここはあえてミュリル様に聞い、


「やめさないソール、ここにいる他の人に聞こうとしてるでしょ?」

「な!?」

「やっぱりねそういった考えをするところも本当似てるわね...」

「そんなこと言ってると私達が答えちゃうわよーいいのアンクル?」

「・・・あぁもう!彼が私のことを好きだったからよ!」


 アン、いや母さんのあんな顔は初めて見た。いつも凛々しい表情で余裕がある感じを出している人と同じとは思えない可憐な表情をしている。

 実の母親のこういった表情は初めて見た。自分の父親であるウヌベクスが好きになった理由がなんとなく分かったような気もした。

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