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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
闇の中

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211/246

#210 昔話

 自分達はアルドリアを後にしメルクディン大陸に戻る為北マクイル港を目指していた。合流したフィオルン様がデザートウルフをベルゴフさんを除いた(重さに耐えられるデザートウルフがいなかった為)人数分調達してもらった。相変わらずの暑さだが地面からの照り返しがないだけ行きよりかなりのペースで移動できている。話す余裕が出来た自分は今まで聞くのを忘れていた、いや聞く暇がなかったことを聞くことにした。


「アンクル様」

「何、魔王軍絡みのことでも聞きたいの?」

「えっ」

「私達もねそろそろ話さないとって思ってたのよ」

「雑談に花を咲かすのも旅の醍醐味だけど流石にそろそろよね」


 と言ってかつての勇者一行だった御三方は過去の魔王軍との戦いについて話し始めて、まずアンクル様と勇者一行についての話が始まった。

 アンクル様もデビア族ではなく魔族として、魔王ラ・ザイールの娘として世界を支配せんとしていた。弱者は強者に喰われることが道理、力だけが存在価値、などのようなことを教えられ育てられた。侵攻が始まった最初の方、まだゴレリアス一行が魔王軍に認知される遥か前から何度も偵察任務で各国を観察していた時もあったという。ん?遥か前...?


「ちょっとソールあなた一瞬変なこと考えてないわよね?」

「んぁ、いやぁ!?全然!全然!ソンナコトハ、ソンナコトハ」

「はぁまぁいいわ、そういうところウヌベクスと似てきたわねほんと」

「あぁー確かに言いそうだよね彼なら」

「でそんな人に惚れたのはどこの誰かなー?」


 アンクル様は大きな咳ばらいをして話を切り続きを話し始めた。斜め前を走っていて顔は一部分しか見えないが赤みを帯びているように見える。だがここで茶化そうものなら術弾が飛んできそうなので黙っておく。

 魔王軍が侵攻を始め世界征服というものが一度は完全に成されしばらくが経った頃に異変が訪れ始めた。魔王軍、魔族から見た五種族はおもちゃでしかなかったのだが段々と魔族が押され始めた。そう、それが勇者ゴレリアスが魔王軍との戦いの始まりを意味していたのだと言う。

 魔族以外は下等種族で我々を脅かすことなど何年経とうがありえない。そんな中で魔王軍が勇者たちの存在に気づいたのはメルクディン大陸アレイア荒野での出来事だった。それまでも何度も冒険者一行や討伐隊を編成してきた五種族は皆気にならない程の損害しか与えていなかったので娯楽としてみていたがその戦いによって変わり始めた。

 荒野に広がっていた大型研究施設、魔族による合成魔獣つまりキマイラの繁殖施設が存在したがここを破壊しようと乗り込んでくる者達は皆返り討ちにしていた。その後襲撃してきた五種族は逆に餌や苗床として利用していた。だがゴレリアス達は施設内の魔族やキマイラを倒していた。人々を逃がすことに成功し繁殖施設の完全破壊に成功したという。

 それまで起きるはずのなかった流石の事態に魔王軍はアンクル様が率いていた死神部隊を派遣する。そこでアンクル様が勇者一行と対峙した。その時はまだゴレリアス、ウヌベクス、フィーザーの3人、そして相手は魔王軍でも世間的にもかなりの強さと噂をされていた死神部隊の衝突。だが結果を言うなら惨敗、アンクル様以外が生き残ることすら出来なかった。

 その後も魔王軍と戦い続けその度に勝利を手にしてきた勇者一行。その活躍は大陸を越え各地に光を届けそこから世界全体へと広がっていった。仲間も増え次第に勢力を増していく中で遂に三魔将軍と魔王が動き出した。その手始めに度重なる作戦失敗から魔王軍としても魔族としても信用が地に落ちていたアンクル様を最強のキマイラへと変化させようというものだった。実は作戦失敗だけではなく別の要因でもこのような事態に発展していた。

 それはアンクル様が魔族の生き方について疑問を覚えたからだ。勇者一行と各地で戦う度に魔王の娘だから、強者だからと我らより生きる価値があるとされ同じデビア族らによって生かされた。魔族として非情な生き物ではなくデビア族として、仲間を喪う悲しみを背負い続け遂には戦う意味を見出せずにいた。 

 彼女はその意味を求める為に単騎で本気の力を開放して勇者一行へと戦いを挑んだ。流石に多勢に無勢で勝てるはずもなく何とか森の中へと逃げ、廃屋のようなものを見つけ逃げ込むとそこには1人の少女が暮らしていた。命運尽きたかに思えた次の瞬間驚くことが起きた。

 なんとその少女は彼女のことを隠したのだ。当然追っ手に勇者一行が来たが少女は知らないと答えた。勇者達がいなくなった緊張の糸が途切れたのか意識が落ちた。次の日朝、彼女は包帯のようなものを巻かれ、つまり手当てをされた状態で目を覚ました。その状況を確認した後昨晩の少女が外から戻ってきてアンクル様が起きたことに安堵している様子を見せた。

 最初こそ何かの罠かと疑ったが目の前にいる少女の振る舞いを見てその疑いはすぐに消え去った。私が起きたことに対してうれしいと答え、少女は傷が治るまで一緒に暮らそうと言ったのだ。それまで敵でしかなかった、下等種族と蔑んでいた五種族から施しを受けた。どうして助けたのかとそのあとすぐに聞いて返ってきた答えによって魔族として生きてきた彼女の考えは全て崩壊したのだった。

『困ってるなら助けるのに理由なんていらないよね?』

 それから少女と傷が癒えるまでの間しばらく暮らしていくようになった。その中で両親や親族は魔王軍との戦い、つまりは戦争で亡くなっていることを知る。アンクル様が味わった気持ちと同じものを体験し、彼女のこと、魔王軍のことを憎んでいてもおかしくない。それなのに手を差し伸べ助けたのだ。

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