#21 それぞれの都合
まさか、ただあいつの身体を復活させに来ただけだったのじゃが、こんな大物と出くわすとはの。儂には骨が折れるわい。
「いやまぁ互いにもう長く生きたはずじゃろ関わらんわけにはいかないか?」
「そりゃもちろんだ、だってお前さんを野放しにしたらまたあの最悪の時代に戻るだけだろなぁ、サピダムさんよぉ!!」
こいつは儂の同士であったフュペーガを倒した者。その名をマイオア・フィーザー、拳神、サルドリア帝とも呼ぶ者もいる。まぁ儂とて多少なりともバレる危険性は承知してはいたが、いざ対面してみて分かった。仮に儂の今持てる力を全て出しても倒せはしない。やつは昔戦った時とは違いまた数段と強くなっているのが伝わってくる。
今の儂の不完全な力では対抗出来そうもない、仮にもし今フュペーガが復活出来ていたとしても良くて共倒れだ。儂も時を重ね力を蓄えて回復させたが、それも完璧な回復ではなく本来の力から程遠い不完全な回復だ。儂は魔術を行使することは容易となったが、禁忌術を連続で使うにはまだ魔力が足りない。
フュペーガにしてもやっと自我を持った魂へと戻せたのだ。尚且つ身体は未だにこの火山に封印されたまま、当然ではあるが勝てはしないし、万が一があった時に最後の三魔将軍とも連絡が一切つきもしない。そんな不完全かつ不安定な状態で動き出したのには理由がある。今は目的を完遂する前に我が命がつき果ててしまう。それだけは何としても避けなければならないのだ。
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なぁ兄弟今どこで何してるんだ?もういいだろ充分だ早く帰ってきてくれよ。また世界が暗黒に包まれて人々を闇に怯えながら生活させるのか?今目の前には過去にお前が葬ったはずのサピダムの野郎がいるんだぞ。ここに来たということは、俺らがやっとの思いで倒して封印した{凶猛のフュペーガ}だけじゃなくてあのくそ魔王に関係しているはずだ。だがそれを知って来たマイオアの連中も俺だけ。他の仲間は皆道中でやられてしまった。
国を守るため命を懸けたと言えば聞こえはいい、だが道中で死んでもらって助かったとも思っている。不安というものがどこから広がるかは分かったものじゃない。
例えそれがこの世界に関わることでも知ってていいのは昔を知る人達だけでいいと思っている。あのパーティーにいた戦友とあとは各国の王族だけでいい。俺は世界の人々にはまだ知らせなくてもいいと思っている。魔族共にも一番知られてはいけない事もある。それは兄弟、いやゴレリアスの勇者の力ではもう魔王には及ばないことだ。それだけは何があっても隠していなければならない。とりあえず俺のやるべきことをやろう。ここでこいつを倒す。
「はぁぁぁ!!今だウェルン!!」
「{バーティカルライト}!!」
ウェルンが自分の動きに合わせて魔法でゴーレムの核を貫く。あれから急ぎながら奥に進んではいるがゴーレムとの遭遇が増えた。これで8体目か・・・奥に行けば行くほどだんだんと強さが増していくゴーレム。
倒す度に身体から出てくるのは決まって先に拳神様と入ったはずの精鋭達だ。ここまで遭遇したゴーレムの数と突入した精鋭達の数は一致しており。今のところ生存者が1人として確認できていない。
もう少しで最深部に辿り着くのだが、もう全員分かっていること。奥で自分らが相手に出来ない程の強さを持った何かがいることに。それが果たして拳神様なのか、はたまたサピダムなのかは分からなかった。
「師匠!!」
何かを感じとったベルゴフさんは先に行ってしまった。自分達も急いで後を追い高エネルギー反応の場所と思われる地点に辿り着く。だがそこにはベルゴフさんしかおらず先に入ったはずの拳神様がいないのだ。
「行き止まり?」
「それらしく見えるけど師匠の気は感じるんだよな...師匠!師匠どこにいるんだ!!」
ベルゴフさんが大声を上げて拳神様のことを呼んだが洞窟内を声が反響するだけだった。いや待てなんで二見つめている。
「ねぇこの溶岩の滝本物?」
「嬢ちゃんどうしたんだ?何か分かったのか?」
「いやなんだかここの裏から風が吹いているような気がするんだよね」
自分も壁から流れ出る溶岩に目を凝らす。すると辺り一帯の溶岩が全て消え、滝の裏から抜け道が出てきた。この先に拳神様もしくはサピダムまたは両者がいるのか。
「皆さん準備はいいですか?」
「あぁもちろんだ!」
「大丈夫!」
覚悟を決めて抜け道へと入っていくと何かと何かがぶつかり合う音が段々と大きくなってきた。そこには前見た時より明らかに傷を負っているサピダム、それと飛んでくる魔術を全て拳で打ち消して距離を詰めるマイオアがいた。
「これでどうだ!!」
マイオアの拳がモロに決まり何かが吹っ飛んでいく。吹っ飛んだ先を見るとそこには何とか立ち上がるサピダムの姿があった。なので奴を吹っ飛ばした相手は必然的にあの人となる。
「師匠、お久しぶりでございます」
「おお、久しいなベルゴフ会うのは免許皆伝以来か」
やはり拳神マイオア・フィーザー様だ。英雄と呼ばれてる程の有名人を目の前にするとなんだか猛烈に緊張してきた。サルドリアで同じマイオアを見たがフィーザー様はその人達と比べても一周り半、身体が大きい。
ぶっちゃけ一瞬ギガンテスとか、サイクロプスに見えてしまってもしょうがない体躯ではあった。ひしひしと伝わってくる圧倒的なまでの強さに自分は萎縮していた。
「あれが拳神様なんだよね?本当に大きいね」
「そうだね、流石はゴレリアス様の盟友と呼ばれる人だ」
「うん?ベルゴフお前連れがいるのか?」
「ああすみません紹介してませんでした、こちらの男の方が」
「いや待て、嬢ちゃんお前さんどっかで会ったこたぁねぇか?名前は」
「わ、私ですか私は・・・」
「危ない!」
術が飛んできたので剣で受け流した。なんて速さの攻撃術だ、もう少し遅れていたらウェルンの肩辺りが撃ち抜かれたぞ。
「ふぉふぉふぉふぉ、歓談に水を刺して悪かったのぉ」
「サピダム!」
そこには先程吹き飛ばされて深刻なダメージを負ったはずのサピダムが平然と立っていた。様子がいつもとおかしいことにすぐさま気づいた。奴の身体から黒い何かが漏れだし、平気な顔をしてこちらに杖を構えていた。




