#205 邂逅
翌朝目覚めるとまたも老人の姿はなかったが朝食が用意されていた。小屋を出て辺りを見渡すが山の静けさが身に染みるだけだったが、お腹は空いていたのでありがたく頂戴することにした。かつての戦いで傷痍兵となり、このような人里から離れた山奥で暮らしているのにも理由があるのだろう。機会があればもっと話をしてみたいものだが今は自分のやるべきことをしよう。
支度を整え一礼して小屋を後にする。目的地である王都メルドリアへと向けて翼を広げて大空へと飛びだった。この前の戦いでより魔の力を感じれるようになり魔族などが近くにいるのが読み取れるようになっていた。おかげで自分のことを狙ってくる奴らがいても容易く対処できるようになっていた。
山林を抜けしばらくして見覚えのある道へと辿り着き根元が折られた看板があった。やはりこの道は商人さんと共に王都へ向かった際使った道だ。道の先に見える街が城下町だと言う事も分かったのでここから歩いていくことにした。
「元気にしてるかな商人さんとセリルちゃん。無事だといいんだけど」
商人さんが居なければ自分は今ここに立っていないといっても過言ではない。あの村を出たところでウェルンを置いて先に天へと向かっていただろう。そうかあれから1年も経ったのか、今日は自分の誕生日じゃないか。逆に言えばここまでで1年しか経っていないのか。
『闘いに身を投じていくにつれて日常が薄れていく』とウアブクスにも言われていたが本当だったな。竜剣が使えるようになって時の進みが早い気がしなくもない。それまで逆に長いとまで感じていたのに使えるようになった後から変わったな。
などと考えていたら後ろから猛速で何かが近づいてきているのが音で分かった。後ろを振り返るとこちらを轢く勢いで馬車が迫ってきていた。果たしてこれが意図的に自分を轢きに来ているのかは定かではなかったのでとりあえず突進を躱す。
宙ですれ違い際に様子を確認すると手綱を握っているがどこか慌てている様子だった。これは暴走してしまっているのではないか?あの馬を落ち着かせるか。再び翼を広げ馬の背に向けて急降下をして魔力を過剰に浴びさせで無理やり気絶させ馬車が止まった。
「あ、あ...」
「怪我はな、ってセリルちゃん?!」
「え?・・・あ!なかなか起きないお兄ちゃんだ!」
あれから少し時が経ち馬が起き上がり落ち着きを取り戻した。セリルちゃんも王都に向かっていたらしかったので馬車に乗せてもらった。セリルちゃんは今日まで何があったのか話してくれた。商人さんは持病が悪化したので引退しセリルちゃんが代わりに各地を巡るようになったという。今も変わらずあの家で3人で暮らしているようだ。
数週間前にエクスキューションとメルドリア軍で全面戦争が起きてしまいメルドリアは戦場へと変わった、それも復興作業等を進めていたにも関わらずだ。魔族や魔物が出現するようになり各地で被害報告も上がり人々が世界中から集まりだしたという。
「それで王都の様子を見に行こうとしたらあんなことになってたの」
「なるほどね、それにしても偉いね、しょ、お父さんの仕事を継ぐなんて」
セリルちゃんの頭を撫でると照れた様子を見せた。自分が見ない間にすっかり成長していたようだ。他愛無い話もしながら道中現れる魔族等を倒していく。1年前にこの場所を通った時はそもそも魔物や魔獣にすら会わなかったのに本当にどうしてしまったのだろうか。これも王都に行けば分かると信じて警戒をしながら王都へと向かっていく。
「お兄ちゃん、メルドリアが見えてきたよ」
風化しているようにも見える城壁、かつて見たことのあるメルドリア城は見えない、だがここはメルドリアなのだろう。かつて城門があったところは無残に壊されておりその代わりに色んな鎧と種族の兵士がいて、メルドリアだけでなくサルドリア、アルドリア、エルドリア、ヒルドリアの王家、そしてエクスキューションの紋章、それらがあちこちに掲げられていた。
今この状況で魔族と似ているデビア族である自分がここを通ろうとしたらおそらく止められただろう。馬車の荷台に潜み王都へと侵入することに成功した。誰かほかに知っている人に会えたらいいんだが...上着を羽織ってデビア族の特徴である鱗などを隠しながらセリルちゃんと別れる。(ちなみに商品だったのでお金はちゃんと取られた)
「さてどこに行けばいいのやら...」
「君ちょっといいかい?」
辺りを見つつ思考していると呼びかけられた。少し厳格そうなマイオア族の兵士っぽい人に声をかけられた。まさかもうバレてしまったのか?
「やっぱりそうだ!君は勇者ソール様だろう?」
「え、どこかでお会いしたことありましたっけ?」
「自分はマイオアであなたを逃がした元エクスキューションの者です、覚えてなくてもしょうがないでしょうが...」
ああ、あの時の!そこまで言われてようやく気づいたが無理もないだろう。顔はうっすらとしか覚えていなかったが服装がまるで違うのだ。エクスキューションの特徴的な黒鎧を着ていないから全く同じ人物とは思えなかった。
「きっと仲間の方を探していますよね?こちらです貴方を待っている方の所へご案内します!」
でもまさかここまで過去に会ったことがある人達と偶然出会えるとは思わなかった。セリルちゃんはまだしもエクスキューションの彼がまさか生きていたなんて。自分達の歩んだ道はどうやら正しかった、各地を旅してきて本当に良かったと思う。




