#199 親と子
互いの刃が触れ甲高い音が鳴りひたすら打ち込み続けるが全て合わされてしまう。そして触れる度に違和感が膨らみようやくウアブクスがどういう状態なのかを理解出来た。そんなことを考えていると魔力に剣が集まり竜が具現化しようとしていたので同じように具現化する。これは地竜種が激しく爪で攻撃するようなイメージで、そして自分は翼竜種が高速で飛び回りつつ爪で攻撃するイメージ。それぞれ同じ伍の剣ではあっても元となる竜種は違ったりする。
見事予想が当たり相殺には成功するものの蹴りを入れられ吹き飛ばされ次の攻撃が入りかけた。そうしようとしていたウアブクスが突然後ろへ飛んだ。その場所に{バーティカルソード}が突き刺さりさらに先回りをしていたキュミーとフォルちゃんの攻撃も躱した。さらにその場所に間髪入れずベルゴフさんとハウゼントの攻撃も入れていた。だがすぐさま剣に魔力を纏わせ弐の剣を放ち2人を引き離した。
「大丈夫ソール?」
「うん、ただの蹴りだから大したことないよ」
「おい坊ちゃん!強すぎやしないかお前の父親は!」
「多人数との戦いにおいては今までのどの相手よりも強いんじゃないですか?」
「速すぎだよー」「当たらないよー」
全力を出した姿を一度も見たことがなくても分かる、おそらくだがこれは...
「確かにあれはウアブクス、自分の育ての親ですが同じ人であっても中身が変わってる」
「ふぉふぉふぉよく気づいたな魔勇者よ」
「またてめぇの仕業かサピダム!」
ウアブクスの後ろに降り立つ三魔将軍叡智のサピダム。先程からウアブクスと同じ太刀筋であっても感じる魔力の本質が自分に近い感覚だった。元々魔の適性を持っていて偽装していた可能性がないのは自分が一番知っている。何故ならウアブクスが持つ適性は風のみと知っているからだ。今の彼から感じるのは風を再現した魔の力で剣に魔力を纏わせ竜剣を振るっているからだ。
「コルロ、竜騎兵と同じ仕組みで動かしているんだろう?」
「ほうよくそこまで分かったな褒めてやろうではないか」
そう言うと剣を天に掲げ魔力を荒々しく込め竜剣を放ってきたのでこちらも同じく参の剣を振るう。同じ太刀筋ではあるのだが根本的な魔力の質が風から魔へと変わり、鋭い攻撃から破壊力のある攻撃へと変化している。
ウアブクスもコルロと同じく亡くなっていてその身体に魔の力を込められサピダムの操り人形として復活したのだ。だから外見の変化もなく魔力の性質だけが変化している。だがコルロと違う点として完全に自我がないというところだ。つまりコルロの様に最後の最後に記憶を思い出すこともない、自分達の様に感情によって実力が変動することもないただ純粋に強い魔族ということだ。
「でもまさか勇者と同じ剣術を使う者に出会えるとは思えなかったのじゃよ」
「ウアブクスはお前が倒したのか?!」
「そうじゃなあれはここに来る前のことじゃ、その愚か者が突然儂らの隠れ家に殴り込んできたのじゃよ」
「隠れ家そん...いや報告でそれらしきものは上がってはいたが魔が濃すぎて調査も出来なかったあの場所か!」
「まぁ儂らにとって居心地が良い場所でも貴様らからすると猛毒じゃというのにそいつは乗り込んできたのじゃよ」
「でもなんでそんな危ないところにおじさんが」
「おかげで各大陸の墓所から頂戴し完成した魔人形が全て壊されてしまったがな」
各大陸の墓所に眠る英雄達をそんなことに使っていたのか。もし今目の前にいるウアブクス級の魔人形、それがこの島のあちこちに出現していたら?と考え{リバース}で蘇った死人も合わさり大変なことになっていただろう。自分達が知らない所でそんな大事なことを1人でこなしていたのか。
「まぁフュペーガが出ていってようやく収まったところで気づいたのじゃよ、こやつを魔人形にすればとんでもない奴に仕上がるのではと思ったが予想以上じゃったわ」
{リバース}にしても、魔人形だろうと命をなんだと思っているんだ。寿命で死ぬ概念がない魔族だからこその倫理観だからこそこんなことが出来るんだ。剣をさらに強く握り魔の力を込めて距離を詰め肆の剣を振るう。それに対して参の剣で相殺を図るウアブクス。だが自分が続けざまに放った参の剣には対応できず術壁を貼り衝撃をいくらか和らげはしたものの吹き飛ばすことに成功する。
術壁を貼られはしたが手ごたえはあったのでウアブクスを見る。すると攻撃を受けた箇所を気にする素振りを見せていた。やっぱりだ、記憶がなくても本能がどう対処すればいいか自分と同じように分かっているんだ。でもそれはあくまで竜剣術の話で、さっきのような参と肆を続けて放つ{ライズドラゴン}などの独自発達させた竜剣には対処出来ないんだ。
少しだけこの戦いに光明が見えた気がする。今のような隙が少しだけ見えはしたがここで慢心してはならない。そういえば忘れていたがウアブクスは剣神ウヌベクスの弟だったんだ。強くないわけがないし彼の強さは自分が誰よりも知っている。
ウアブクスありがとう貴方が教えてくれなければ自分はここまで強くなれなかった。アンクル様、いや母さんに頼まれてあなたの子供じゃないのに熱心に育ててくれてありがとう。でもまさかこんな形で成長した姿を見せなければならないなんて。旅を続けてまさかこの果ての地で敵として再会するとは思わなかった。やっぱり知ってる人を斬るのはあまり気分がいいものではないし早く終わらせたいものだ。




