#20 術仕掛けの泥人形
「暑いぃぃぃ溶けるぅぅぅ」
「そうか?まぁ嬢ちゃん達ヒュードには暑く感じるか俺一応マイオアのハーフだからなー」
自分達が暮らしていたメルクディン西部は暑くもなく寒くもない気候帯だ。メルクディン東部は少し軽く運動すると汗をかく温かい気候帯。しかも今は火山内部の天然の洞窟を進んでいる。暑くて当然なのだか...て、あれ?考えてみるとそいえば全然暑くないような気がするな。
「いいなーソールはー紋章のおかげで暑さも軽減されてるんでしょー」
あっそういえばそうだったな。勇者の紋章は身に着けた者にとって不利益をほぼ全てを無効にする能力をもっているんだった。そんな大事なこと現所有者が忘れててどうするんだ。
「いやー改めて考えたらそいつの効果はホントヤバいな、流石は勇者の紋章だな」
「そうですね、でも・・・」
「勇者としての力が使いこなせてないって?まぁそのうち使えるようになるだろ、なぁ嬢ちゃん?」
「そうだよ、ベルゴフさんの言う通りだよソールならきっと使いこなせるようになるよ!」
そう、自分には勇者の力、すなわち個能{勇者のオーラ}がある。だがこの紋章を初めて触れた時にしか発動していない。逆になんであの時発動できたのかすら分かっていないが、今まで使えると思ってもなかった能力が自分の個能なのだ、すぐに扱えるわけがない。
もし、使いこなせるようになったら三魔将軍に太刀打ち出来るのだろうか・・・そんなことを考えていると何かが後ろから飛びついてくるのを察知するのに反応が遅れてしまった。攻撃を喰らいそうになるも代わりにベルゴフさんが倒してくれた。
「坊ちゃん危ねぇぞー考え込むのは良いが一応魔物とか魔獣とかは出るんだから気をつけろよー」
個能に近いものならベルゴフさんの能力も中々の能力だ。名前は特に決めておらず能力としては魔能{気配感知}の上位互換にあたるもの。
気配ではなく気や魔力を感じ取り相手が今どういう状態かを感知するものらしい。後ろから魔獣が襲いかかってきている時は殺意の気を感じられる。気配感知では誰か何かがいる!と感じとることが出来るだけで何をしてくるかは予想しづらい、だが相手が何をするかの予想も立てられる為対処がしやすい、その代わりに効果範囲はかなり限定的で大体15m程らしい。なので遠距離からの高速魔法などを感知した時には自身の身を守ることで手一杯になってしまうので頼りきりには出来ないのだ。
「いや妙だな」
「はい?どうかしましたか?」
「師匠がこの先に行ってるとしてあんな程度の魔物を倒し洩らすか?」
「確かにあの大臣さんの話だと拳神様とその他数名の精鋭でここに入ったんだもんね」
「そうそう、あと入る前まで感じていた師匠のなんとなくの気配すらしなくなったんだよ」
確かにどちらも変だな。魔獣など拳神様が見逃すはずないだろうし、ここまで魔獣に襲われそうになった回数はもう数えていない。。僅かに感じられた気すら感じられなくなってしまったということは・・・!?地面が揺れる、今の大きな揺れは?ウェルンもベルゴフさんも感じたようだった。いや今のは火山に関することじゃなくて何かと何かがぶつかり合った感じの揺れ具合だな。
「急いだ方が良さそうですね!」
「そうだな!もしかしたらもしかするかもしれねぇ!!」
自分達は奥に急ごうとしたが魔物が地面から出てきたこいつらは確か鉱物に魔力が混ざって魔石にならず魔物化した魔動物ゴーレムだ、しかも形が揃ってるということは天然物じゃない人工ゴーレムなので
「確実に意図的に配置されてるなこいつらは」
「そうだね、こういうのやりそうな心当たりも思い当たるしね」
こういうことを仕掛けるやつなんて叡智のサピダムの仕業に違いない。目の前のゴーレムは不気味な声を上げながら襲いかかってきた。剣を抜くが盾は構えず動きやすさを優先させる。重い攻撃を受け止めるより躱した方がいいと判断したからだ。動きは鈍い、これなら!!その振り下ろした腕に斬りかかった。
「はぁぁぁ!!」
鉱物でできているはずのゴーレムの腕を軽く切り落とせた。フレイペントの牙と鱗で作った新しい剣{ドラグネイル}の切れ味は抜群だった。今度は盾を構えて竜剣術を試すこいつにはそうだなこの技がいいだろう。
「{壱の剣、撃竜牙}!!」
腕、脚、そして胸の核へと連撃を決める。な、なんだこ、これは・・・前使っていた剣より確実に切れ味と魔力の馴染みやすさが違う。確かに家にあった使い古された剣ではあったがここまで違うのか。近くで破壊音が鳴り響きベルゴフさんが相手していたゴーレムも崩れ落ちた。
「こっちも終わったぞ、ったくめんどくさいなぁ」
改めて思うがやはりベルゴフさんは本当に強い拳術士だと思う。師匠が拳神様なのだからこれぐらい出来ても不思議では無いのだが、自分は今の戦いで竜剣術を使ったのに対してベルゴフさんは闘気を使わず腕力でゴーレムの核を砕いたのだ。仮にも奴の身体を構成しているのは魔石のはずなのでとても硬いのだかなんて力だ・・・
「ねぇ!待ってゴーレムが崩れて何か出てくるよ!?」
「こ、これは!!」
「どういうことだこりゃあよ」
中から出てきたのは人、それも先に火山に入ったと言われている精鋭の方じゃないか。どうなってんだ本当に・・・まさか拳神様に何かあったんじゃ!?自分ら3人は急いで奥へと向かっていった。




