#2 全てが崩れ出す
ありふれた凡庸な魔能ではなくゴレリアスの個能で約50年前に魔王ラ・ザイールを倒した勇者ゴレリアスが持っていたとされる個能。詳しくは本人以外知らない為憶測が混じっている、例え話をするならゴレリアスが使ってたとされる剣には魔族・魔獣・竜への特攻効果があった。元々この剣は大悪魔が使っていた{ヘルディザスター}という魔剣だった。だがゴレリアスが持った時姿を変えて世界最強の聖剣{テークオーバー}へと姿を変えた。
その武器はこの世界のどこかに存在し勇者が身に着けていたとする装備すべてが何故かは分からないが誰も使う事が出来ないのである。持とうとすると人の身では持てないほどの重さに変化するのでもし引く抜くことや身に着けることが出来たらその者は勇者の力を受け継ぐ者となる。自分の父親は全くゴレリアスと関係がないのだがそれでもやはり勇者には憧れるものだ。
「まぁ王都に着いて検査受けたら分か、」
「ソール待て・・・知らない気配だ」
その言葉に場の空気が固まる。コルロの表情がいつにも増して真面目な顔をしている。この表情は狩りをする時や本当に不味いことが起こる時の表情だ。
「コルロ、数は?」
「正直多すぎるのといつも相手にしてる魔獣とかと違う明らかに強いやつらが紛れ込んでやがる」
「村の人達を避難させないといけないけ、」
「いやもう手遅れだ囲まれてる」
誕生日とは思えないほど不幸ではないか。それよりもおかしいなんでこんな辺境の村が襲われなきゃいけないんだ?そこが一番引っ掛かる。そしてコルロは左手首を抑えつつ目を泳がせていた。
「どうするんだ?」
「一方向だけ気配が薄い、そこを一点突破するのがいいな・・・」
「分かった、私村の人達に知らせてくるね!」
「頼んだ!じゃあ俺らも準備...」
「コルロ、さっきの話は嘘だろお前囮になる気だろ」
「なんでそう言いきれる?」
「何年一緒に暮らしてきたと思ってんだ嘘つく時の癖ぐらいわかるさ」
コルロは隠し事や嘘をつく時は左手首を抑えながら話す癖がある。今も抑えたままということは嘘をついているか自分達に何か隠しごとをしているのだ。
「そうか、じゃあここだけの話だこの村の大人達はみんな知ってるからな」
「なんで狙われるんだ?ここに何かあるのか!?」
「この村の井戸の底に勇者様の紋章が保管されている祠があるんだ」
今まで生きてきた中で一番驚いた。あのゴレリアスが身につけていたとされる勇者の紋章がこの村にあるのか!?勇者の紋章、アスラファイトという特別な希少な鉱石で作られた首飾りだ。装着者のあらゆる状態異常を無効化するマジックアクセサリ。これも他の勇者の装備と同じように例外なく信じられないほどに重たいらしい。
「じゃあ、狙われるのはそれが理由なんだな?」
「そうだ、狙われるならそれぐらいか、もしくは・・・」
「そんな話をしてる場合か?コルロ、ソールよ」
「「村長!」」
「事態は一刻を争う、早くこっちに来い」
「どこに行くんですか?」
「裏山に繋がる井戸はもう壊されてしまったが我が家に森を抜けられる裏道がある、 村人達で魔物を食い止めるからお前達はそこから王都へ迎え」
「村長!俺だってこの村の守人だ!守らなきゃいけないのは俺だっ、」
「いいから黙って着いてこい!!お前にも役割はある!着いたら話す!」
現村長は先代村長から推薦され村長となった元は守人として村を守っていた。信頼感も厚かったので村人の中に反対する者もいなかった。比較的温厚な性格で自分の父親とも知り合いでよく稽古をつけてくれた人でもある。だが今日は何か焦っているというか何かを悟っている顔をしている。
村長の家へとたどり着くとリビングへと案内されたそこには不安な表情のウェルンもいた。コルロはそのまま村長と一緒に違う部屋に入っていきしばらくするとコルロだけ戻ってきた。何かを決心したような表情をしている。
「村長が言うには暖炉の火は幻術でその中に祠への道があるらしいんだ、そこから俺らは脱出する」
「いいのか?守人として村を守るんじゃなかったのか?」
「・・・あぁ、村長の話を聞いて納得したんだよ」
「じゃあコルロも一緒にメルドリアに?」
「そうだよウェルン、みんな一緒さ」
「嫌!みんな一緒に逃げようよ、安全なんでしょその抜け道・・・」
ウェルンにとってこの村の人達はみんなかけがえのない人達なのであろう。身寄りのなかった彼女のことを皆可愛がってくれていた。そして今その人達が若者を逃がす為に命をかけているそんな状況で逃げたくないのだろう。確かにそれは誰しもが思うだろうがそれでも行かねばならない。
「ウェルン、みんなの思いを無駄にしてはだめだ、行くぞ」
「・・・うん、分かった」
と言って抜け道へと入るが言葉をかけたコルロの手は震えていた。
「ソール、俺らはこの村の人達の犠牲に無駄にしちゃならねぇんだ」
と言ったコルロと共に抜け道へ進む。あまり整備されていない道をしばらく進むと光が差し込む広間に辿り着いた。その光は台座にはめられたペンダント{勇者の紋章}を照らしていた。