#198 教えられたこと
『今から教えるもの、それをお前がどう成長させていくかは分からないが少なくともこれからの世界で必ず必要になるはずだ』
『俺が唯一出来る父親らしいことで甘えさせたい気持ちはあっても学ぶ、鍛錬すると決めたならば俺も越え世界で一番の剣術士になるんだぞ。例えその剣を振るう相手が俺だったとしても守るべきものがあるなら迷いなく振るんだぞ』
自分が剣術を教えてもらう際育ての親であるウアブクスがかけた言葉を思い出す。教えてくれなければここに自分は立っていないし今の攻撃も防ぐことは出来なかった。そこまで重要ではないと思い聞き流しがちだったそんな言葉を突然思い出した。
いくつの頃かは覚えていないが冒険者を志したきっかけを与えてくれたのはウアブクスだった。村の外に行ってお土産を持って帰ってきて行った先々で起きた話を聞く、村の中では味わえない刺激があっていつか自分もと思いどうすればなれるかと聞いたら竜剣を教えてくれた。
それから何年も剣を振りようやく基礎が身についた頃、いつもと同じように冒険に行ってそれ以来帰ってこなかった。世界のどこかで旅をしているんだろうなと思い同じように旅をすればいつか再開できる。そんな思いも持って全ての大陸を巡った世界の果てともいえるこの島でまさか敵として出遭うとは。
「えっおじさん?」
「坊ちゃんに似た感じがするがなにもんだ?」
「あれはウアブクス、自分のことを育ててくれた親であり竜剣を教えてくれた師でもあります」
「だからあの剣戟を防げたのか、突然過ぎて盾の展開が間に合わない所だった...」
「てことは味方ってこと!?」
「でも攻撃してきたってことは・・・」
自分が着ている服と似た軽装服に身長の2倍はある刀身を持つ剣、記憶の中と同じいつもの格好と雰囲気、そう何も変わっていないのだ最後に見たウアブクスと。だがサピダムが{リバース}で復活させたわけでもなく誰がどう見ても普通のヒュードにしか見えないのだ。
「竜剣術、」
「またなんかやって来るぞ!」
あの構えならばこちらは...即座に剣に魔力を込め剣を高速で振るい攻撃を相殺する。今のはウアブクスが使う竜剣の伍の剣で基本的にそれに対応した剣術を振るえれば対処が出来るはずだ。あれだけの長さの剣を使っているのにこれだけ正確に剣を振るえるのはウアブクスの腕が本物だということを物語っている。ここまではいいが問題はここからかもしれない。
「ベルゴフさん」
「ん?どうした坊ちゃんて何か訳アリ顔してんな」
「はい、ウアブクスの剣は確かに自分が無力化は出来はするんですけど...」
「言いたいことは分かってるよ。隙が見つからないんだろう?」
「あれだけの攻撃をしているのに全く隙が見つからないどころかこちらから噛みつこうとするものなら反撃される感じがするな」
先程から攻撃の機会を全員伺っているが隙が見つからないのだ。それらしい瞬間があっても本当に一瞬過ぎるのだ。長い隙でも瞬き程長ければいい方かもしれないがますますどうしてだ。仮に操られているのならば方法が分からない。強いのは分かっていたが全力で戦ったことが一度もない。敵だとしてもまさか剣術をぶつけ合える程まで自身が成長したことに驚いた。
「こりゃ骨が折れるな」
「通してくれそうにないね」
「みんなでかかれば大丈夫だ、」
キュミーがウアブクスから視線を外した瞬間距離を詰め斬りかかろうとしていた。それに気づいた自分だったが間に合いそうになかった、その隣にいたフォルちゃんも気づいて咄嗟に防御しにいくが魔力を纏っていない剣では防ぎきれず2人まとめて飛ばされてしまう。
自分と同じ竜剣でもここまで違う、もはや別の武器術と言っても過言ではないだろう。自分のは相手の攻撃に合わせどんな状況にも対応する万能型ならばウアブクスが使う竜剣は速度型だ。彼の使う竜剣にはベルゴフさんの様な一撃必殺になりうる強大な威力を持っていない。剣のリーチと速度を生かした攻撃で相手に攻撃を許さないのが基本的な戦い方だ。
それだけの力を要していながらもウアブクスの竜剣は伍の剣で終わった。それでもここまで強いのは鍛錬を積むことをやめなかったからだろう。武器術の才とは別に彼には物事を続ける才があったが為にここまで強くなったのだろう。
確かに才能の良し悪しで成長のしやすさは違うかもしれないが諦めない、積み重ねが重要だという事をいろんな人に教えられた。これまでにもそのような人を何人か見てきて総じて言えるのはその当時の自分達よりも強かったということ。だからやめることは簡単でも続けることの難しさは誰よりも知っているつもりだ。
だが正直自分はウアブクスが秘技の領域である陸以降の武器術が使えないわけがないと思っている。仮にも正統剣術の継承者なのだ敵をだますのはまず味方からという言葉もある。十分注意して戦わなければならないと自分の本能が告げていた。
ウアブクスが隠し事、嘘をつくのが上手いのも共に暮らしてからよく分かる。旅を始めて真実を知るまでは本当の父親だと思っていたからだ。自分が信じすぎていた、純粋だったのかもしれないがそれでも自分にとっては育ての親ではなく本当の親だと思っていた。そう思わせるほどに彼は物事を隠し通すのが上手いのだ、きっと自分が知らない武器術を土壇場で放ってくるそう思いながら剣に魔力を込め距離を詰めた。




