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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
目覚めの時

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196/246

#195 全ては叶わない

 ここは戦場、今もどこかで誰かが戦って命のやり取りが行われている。これまでも自分にとって大切な人達が散っていった。シーウェーブさん、ゴルドレスさん、キール様、ルメガさん、フィーザー様、そしてコルロ。全てが突然の出来事でもし自分に力があったらとどれだけ思ったことか。

 大切な人を守る為に自分は旅を始めたが行く先々で出会いと別れを繰り返す。それが人生なのかもしれない、自分はまだこの世界を20年程しか生きていないのでそういうものだと割り切れるような器はまだない。

 コルロを倒し別の場所に向かおうとして何か嫌な予感を感じてしまった。それが嘘か本当かは分からないが直感的に不味いことだと伝わってきた。それを感じた瞬間ウェルンとハウゼントのことを置いてとある方角へと急いだ。その方角とは自分達が向かった逆方向、ネモリア、キュミー、フォルの3人が向かった方向。

 3人とも竜の子供で何度も手合わせをしたので自分が一番実力を知っている。あの方角にかつての勇者一行の誰が向かったかは分かりはしない、その人と共に戦っているはず、やられることはないそう信じている。だが自分の心が何かを訴えてくる、苦しいのかよく分からない感情に襲われてその真相を確かめる為に自分は向かっている。

 近づくにつれて段々と3人の魔力の流れを感じ取れるがその内の一つだけ段々と弱まっている。近くにとてつもない魔の力を感じているがそちらも弱まっているのでおそらく倒しはしたのだろう。きっと魔力切れで一時的に弱ってしまっているのだろうと思っていたが現実は違った。


「ネモリアさん!」

「お兄さん!」「お兄ちゃん!」


 こちらに泣きながら駆け寄ってくるキュミー、懸命に治療術をかけるフォルちゃん。そして横たわってか細い呼吸をしているネモリアさん。彼女の背中にはウィンガル族から見ても羨まれ自分も初めて会った時に見惚れた立派な翼が生えている。だが今の彼女の背にはまるで枯れてしまった木のように爛れ腐った翼だった。


「あっ、ソール、ごめ、んね、こんな情、けない姿を見せて」

「喋らないでネモリアさん!今は治療に集中して!」

「そうだね、私治、さないとね、みんなの、為に」


 おそらく何者かと戦い相打ちとなった、それかキュミーとフォルちゃんを守る為に身代わりとなった、そのどちらかであることは確定だ。遅れてハウゼント達も到着し状況を把握した瞬間ウェルンも治療術をかけ始めた。


「絶対助けるからねネモ!」

「うん、ありがと、ね、ウェン」


 身体の一部である翼が完全に欠損しているにも関わらず自分達を心配させないように微笑んでいる。無理して笑っているのは分かるが自分でも同じようなことをしただろう。このまま術をかけ続けて助かるのかどうかは自分には分からないが相当危険な状態なのは分かる。

 2人がかりとはいえここまで回復しないのを見...いや諦めては駄目だ。他に治療出来る人がいないかを探しに...ウェルンに服を掴まれその表情から何かを察してしまうがそれでも探しに行こうとしてハウゼントさんに止められた。


「もしかしたら助かるかもって思ってないかソール?」

「少しでも可能性があるなら最後まで諦めたくない!手が届く場所にいるなら差し伸べ、」

「ソール!もうネモは、ネモは・・・」


 嘘だ。


「お姉さん・・・」


 嘘だ。


「起きてよお姉ちゃん!」

「嘘だ!」


 微笑んでいるネモリアさんへと近づくと先程までと違いかなり安らかな力の抜けた表情をしていた。こんないい顔をしているんだ、きっと寝ているだけだ。いやこんな状況で寝ることが出来るなんてすごく肝が据わってるなネモリアさん。眠りを覚ます為にその身体に触れ揺らすが起きる気配がない。なんて深い眠りについているんだ、


「ソール、ネモは、」

「分かってるよ!もう生きてないのは!でも、でも!」


 身体を起こしてネモリアさんを抱き寄せて肌で体温を感じ冷たくなっているのを再確認してしまう。身体を揺らしていた時にはもう分かってた。信じたくなかったんだ、あのネモリアさんが亡くなったという事実を。もっと早く駆けつけていたなら助けられていたのかもしれない。なのにどうしてもっと早く気づけなかったのか。

 これまで共に旅をした記憶が頭の中を駆け巡る。どんな時も真面目で自分達のことを引っ張ってくれたネモリアさん。でもまさかウェルン以外の同年代女子と仲良くなるとは思っても無かったんだ。

 一番印象に深いのはこの間のアルドリアでの大戦前夜に共に話をした時のことだ。ウェンのことが好き、そのはずなのにあの時のネモリアさんはより綺麗に見えたんだ。ウェルンが女子なら、ネモリアさんは女性という言葉が似合う。今もその時と同じような笑顔をしているがその身体からは温もりを感じられない。




 身体を地面へと寝かせて立ち上がり翼を広げ別の場所に移動する準備を始める。


「行こうみんな」

「いいのかもう?」

「うんもう大丈夫。きっとネモリアさんならこんなとこで立ち止まろうとはしないはずだから」


 その言葉にウェルンも涙を拭いながら首を縦に振った。キュミーとフォルちゃんも涙目になりながらも首を縦に振ってくれた。みんな辛いのは分かってはいるがここは戦場で今もどこかで誰かが戦って命のやり取りが行われている。この世界を守る、その一つの意志の為に。本当は弔い気持ちはあっても今はやる時じゃない。思いを胸に秘め別の戦場へと駆け出していった。

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