#194 長き年月
正面にいた5人いや五色の水晶体はいつの間にか儂を取り囲み拳を突き出した。術弾のようなものを放出したので儂は術壁を展開して防ごうとするが五方向から既に拳が繰り出され防御を余儀なくされた。闘気が込められた拳、そして術弾が着弾してそれぞれが色通りである、魔族が使えないはずの火、水、風、土、聖の術が炸裂する。
「いつかやるとは思っておったがぬしが作ったのか?」
「いいやこれは我らが師サピダムが作り出した色術兵じゃよ!」
この世には術は儂らがよく使うような火、水、風、土、聖の基本五術と呼ばれるもの、そして魔族以外が持っていることは稀な魔の適性がある。魔族は基本五術のどれも使えない、それが儂ら術士にとって唯一の対抗策とされている。
じゃがこやつらは魔の力、色に対応した術の耐性を持っているかもしくは術そのものに耐性、それに加えて術士の天敵である拳術士が使う闘気も使うようじゃな。それも生半可な威力ではないのが先程防御したはずの箇所が痺れているので理解した。
「そのようなものまでここで出すとはの、やはりぬしらにとって魔王はやはり大事なのじゃな」
「カラージャックに囲まれながらもこちらに質問をする余裕があるとは、下等種族とはいえ流石サピダム様が認めるだけのことはあるな」
「その下等種族に一度は敗れたのは貴様らじゃろう?」
癇に障ったのかこちらに術弾、シューティングに似た何かを放ってきたが術壁で全て防ぐ。カラージャックの攻撃も最初は虚を突かれ喰らってしまった。だがこやつらよりも格段に強いフィーザーという拳神の動きを知っている儂からすれば、5人まとめてかかってきても対処など容易だ。それに加えて混術、正確には魔の力で再現した魔術は開発した儂に通用するわけがない。
そんなことも分からぬまま攻撃をし続けるフォレスターとカラージャック達の動きを観察し研究する。情報はあって困るものでもないし今後同じような敵が出てこないとも限らぬからな。儂の見立てではカラージャックはこれから先遭遇する機会がかなり増えると考えている。今のソール君達の敵ではないとしても気を抜けばやられる可能性もある。
「何故じゃ、何故当たらぬ!」
「確かにぬしも水晶共も中々いい動きをしているが、相手が悪かったとしか言えないの」
「っ!これならどうじゃ!」
杖を地面に刺し太い根の様な物が生えその1つ1つから術式が展開され術が乱射される。フォレスターが扱える{植物操作}に加えることによって攻撃術を複数展開するとは中々考えたの。じゃがそもそもの話をしようではないか、こやつの術の練度では儂に致命傷を与えることは不可能に近い。先程から術壁で防いでいるがこれは儂が使う中で高速展開できる最も薄い術壁なのだ。
そして儂にはこんな芸当も出来る。英具{フォールンウィング}を開き術に対して手を翳し攻撃を吸収する。その隙を狙ってカラージャックも懐に入ってきたが既に展開していた術式からそれぞれに合った術式が飛び出し水晶の身体にヒビを入れ破壊する。
「ば、馬鹿なあれだけの密度の攻撃を無傷じゃと・・・」
「驚いている暇ではないぞフォレスターよ、ほれお返しじゃ」
翳していた手とは逆の手を翳して放ってきた攻撃術をそのままお返しする。ついでに辺りに散らばった魔石を魔力で制御しフォレスターに向け全弾発射する。根と術壁で防御しようとする努力は見えたが防ぐことなく全てが身体を貫通しフォレスターは倒れた。
「これで終いじゃよフォレスターよ」
「き、貴様が、我ら魔族から{死神}と呼ばれていたのも納、得よ」
地面に溶けていくようにフォレスターは消えていったが儂は念の為地面に手を当てる。すると魔の力を吸収したのでそれを英具へとしまい自身の魔力へと変換した。特定の魔族は死んだように見えても逃げることが多い。腐葉土の様に栄養分として地面に溶けたように見えてもこやつのように魂の本質的には生きていることがある。
「魔王との最後の戦いに儂がいれば今このような世の中にはなってなかったのかもしれぬな」
勇者一行ではあったが儂は魔王城には行けなかった。ヴァル大陸で深刻な問題が起きてしまい帰らざるを得なくなってしまった。フィオルン、ミュリルがサピダムと戦い勝利を収めたがそこには儂も加わる予定じゃった。結果完全に倒せはしなかった為に今このような事態が起きてしまっている。
儂は戻るべきではないと思いはしたがゴレリアス達が俺達に任せてくれという言葉、何よりもそれまで旅をした仲間達なら必ずやり遂げてくれると信じていた。じゃがその理想は甘えじゃった。儂がヴァル大陸での全てを終えエルドリアを建国し、仲間達が魔王を倒したという話を聞いて安堵をした。
魔王城での戦いについてや討伐について話をする為儂は仲間達がいる宿屋へと向かい。魔王は倒したのではなく魔王城ごと封印したことを知った。その事実に打ちのめされた儂達じゃったし、その次の日の朝はゴレリアスが姿を消した。
それから48年もの時間が経過しそれぞれの道で再び来るであろう力を貯め今現在へと至る。儂もこの間227歳となり改めてこの世界のことを振り返った。辛いこともあったがそれ以上に儂はこの世界のことを愛していることに気づいた。残り少ないこの命を燃やし尽くそうではないか。




