#193 術の果てに見る景色
ある程度の規模は予想していたがまさかここまでとは思わなかった。この島にいるはずのない魔獣や魔族を相手にしながら術を駆使し倒していく。翼を広げ上空から戦場を確認し有効的な術を放っていく。英具{フォールンウィング}に貯めた術式は一切使わず効率良く術を展開する。
こうも歯応えのない敵が続くと腕が鈍るとフィーザーなら言うかもしれないが儂みたいな年寄り、いやあやつみたいな脳筋ではなく術士にとってはいいウォーミングアップじゃな。こうも数が多いと術の精度の高さが求められ一匹でも逃してしまえばここから後ろにいる他の者達が相手をしなくてはならない。
異変を感じ儂が向かった島の西側、内陸の方に出現した魔族達は他の者達に任せ、上陸してこようとする低ランク魔族や魔獣達を儂1人で食い止めている。他にも冒険者がいたがこの場所を守るのは1人でいい、そう判断をして内陸の方に向かわせたが間違っていなかった。
こうしている間にも続々とやってくる異常ともいえる敵の数。それもここだけに集中しているのかというぐらいの圧倒的な質より量。本来ならこの場に国規模の術士団か、今内陸で戦っている戦場の6割程の戦力はここに割かれても不思議ではない量だ。それをたった1人だけで抑えることが出来ている。
敵の狙いはこの場所にかつての勇者一行の誰かを釘付けにするのが狙いなのかもしれない。じゃが想定よりも早く処理出来ているのではないか?ようやく敵の数が減り始めたように見えたので英具から五術の球を取り出し混術{エンド}を放つ。敵陣の真ん中に着弾し派手な水しぶきが上がり大穴が出来あがる。
「やはりこの術はこういうところでのみ使わねばな」
五術同士を乱反応させエラプション以上の爆発を生み出し地形など変えてしまう威力があり、そうそう簡単に放つもので混術の中でも最強格な{エンド}。この術を初めて生み出した時に試し打ちとして魔王軍の砦に放ったがここまでのモノとは分からず放った。幸い捕虜などがいなかったので敵を倒しただけで済んだがもしいたら大変なことになっていた。
それから試行錯誤を繰り返し爆発だけでなく、直線のビーム型や球体型の榴弾などに応用させることは出来た。元々がそんな威力を持っているのでおいそれと人に放つものではない。まぁそれも分からず人に放とうとした愚か者にはさらにその上位、混術{ネビュラ}を放ったがあれは本来対魔王として生み出した理論上では最強の混術だ。
術理論の先には単純な破壊力を持っている{ネビュラ}のようなもの、この世の理を超越してしまう{リバース}のようなものがある。それらを実現させるには儂の様に五術の適性が必要だったり、魔能や個能が必要であると思っている。
「む、なんじゃあれは?」
{エンド}で出来た大穴がみるみると塞がり地面が出来上がる。これほどの土の術を行使出来るも...いやこの感じ魔力ではなく魔の力による大地生成じゃな。地上に降りると杖を持った顔のある木がこちらに気づいて振り向いた。
「急に大穴が出来たがまさかお前がやったのか?」
こちらが返答する前に枝が飛んできたので術壁を展開し防ぐ。魔の力を吸った普通の木が転化し魔族となり知性のある木とも言われているフォレスターになる。じゃがこれほど流暢に喋るフォレスターは初めて見たかもしれぬ。ここまで喋るとなるとかなりの高等魔族が元となっているなこやつ。
向こうもこちらの術の練度に気づいたのか弾幕を濃くしながら術式を展開し始めている。今の術壁を見ただけで判断されたと思ったが、もしや儂が誰か気づいたか?試しにとある混術を放ってみる。どれだけ術の知識を持っていようが最初見ただけならこの術を見たら術壁を展開するはず。
「...やはりお前がサピダム様が言っていたノレージという術士じゃな?」
「気づかれておったか、この術を知っているのはサピダムだけじゃからな奴の手の者ならと思っての」
今放ったのは水と風の混術{ソニック}。術でありながら貫通攻撃となっていて術壁などを破壊することが出来る。だがどうみても見た目は術にしか見えないので躱されない限りは初見であればほぼ確実に壁や盾で防ごうとするのじゃが、こやつは見てから術弾を混術に向けて放ち相殺させた。
「サピダム様によって作られ、貴様らに一度は負けたが今度は負けぬよ」
「まさか誰かと戦っておったとはの?お主を倒したのは誰じゃ?」
「貴様らの仲間にいるじゃろう?我々と同じ身でありながらそちらに味方した愚か者を」
同じ身でありながらそちらに味方した愚か者?報告にはこんなやつがいるとは載っていなかっ...そうかこやつシーウェーブにやられた魔族じゃな?アンクルはデビアじゃし敵と言えども様付けしたり下に見ようとはしないから、儂らに味方した魔族はよくよく考えればシーウェーブしか当てはまらない。
「かの伝説の術士が相手なら儂もサピダム様から預かったこやつを使わざるを得ないな!」
フォレスターが展開していた術式から棺のようなものを出現させた。その数は五個、蓋がひとりでに開かれるとそれぞれ、赤、青、緑、茶、黄色の光沢のある人型の何かが現れた。こちらを見据えた人型の何かは見覚えのある構えをとり始めた。かつての勇者一行にも、この戦場にも似た構えをとるものは多いがはっきりと分かる。儂らを苦しめたサピダムと同じ三魔将軍、狂猛のフュペーガと似た構えだった。こやつらまさか全員拳術士ではないか?




