#192 その翼は護る為にある
矢を弓にかける一瞬、私は父上の懐に詰め短剣を取り出し攻撃する。虚を突けたらしく肩部分を負傷させるが翼に魔力を込め衝撃波を放たれまたも距離を取られてしまう。有効ではあるが致命傷には繋がりはしない、そんなところだろう。
こちらから動くと言っても一瞬しかない、その隙に私が出来ることは魔力を矢に込めて攻撃に備えるか、今みたいなことをする以外間に合わなすぎる。父上が衝撃波を放つ為までの時間を含めても私は鳥弓術で攻撃が出来るとは思えない。
私は冒険者として旅をする上で多少の近接の心得を習得した。父上に見せたことがない姿を見せればそこに光明を見出せるかと思ったがそれも難しそうだ。ここまで隙がなく圧倒的に格上の相手とは何度も当たってきた。それでも他の相手とは違い相手がしてくることを理解しているのでまだ戦えている、いや抗えているの方が正しいのかもしれない。
「お姉ちゃん危ない!」
キュミーの声を聞いて後ろを振り返ると色んな色が混じった光線が迫っていて躱すが放った矢を手元に引き寄せる術具が壊されてしまった。よく質問されることとして弓と矢で戦う人は何故途中で弾が切れないのか、と聞かれるが答えとして今壊されたような術具で自分で飛ばした矢を回収するか、先程の父上の様に魔力で矢を生成するの2パターンが大体だ。
これで私は放つ矢を回収できなくなり残すところ12本となってしまった。ここには父上だけでなく兄上もいてそちらはキュミーとフォルが戦っている。たまたま放った術が私に当たりかけた、いや兄上のことだ2人のことを狙ったように見せかけた攻撃だろう。あの人はそういうことが出来る人だ。
さて残された矢だけで父上だけでなく兄上も相手する可能性が出てきたことに私は焦りを覚えてしまう。そんな私の隙を見逃す程甘くない父上の矢が私の右肩を貫通していく。次の矢に対抗しようと矢を弓にかけようとするが残された本数を考え、躱そうとするがそれすらも考慮された矢の放ち方をしていた為翼を負傷してしまう。
幸い参ではなく壱の弓である{連鳥}だったので、まだマシな負傷と言えるかもしれない。もし今当たった全てが{育鳥}だったなら私は生き残ったとしてももう何も出来ない身体にされていただろう。
「お姉さん、今処...きゃあ!」
「フォルちゃん!うわぁ!」
何の術かは分からないがキュミーとフォルが爆発系統の攻撃を喰らってしまう。私が少しでも気を抜いて一瞬をこの2人に与えてしまったが為に、兄上と父上の攻撃をまともに喰らってしまった。私はまだ少し動けるが他の2人はかなり辛そうだ。そんな絶望的な状況の中、私が目にしているのはこちらに向けて矢を放つ父上の姿と兄上が何かの術を放つ姿だった。
今この状況で出来る最善の手は、兄上もしくは父上の攻撃どちらかを相殺しキュミーかフォルのどちらかを諦める。それか私が2つの攻撃の盾となり2人を守ることだ。そんな考えをしていながら既に身体が動いていた。そして2人の前でありったけの魔力を込めて術壁を展開していた。
「お、姉ちゃん?」
「お姉さん・・・」
2人も私が何をしようとしているか理解してしまったようだ。私としても取れる選択肢のどちらもが誰かが悲しむ未来でしかないことに怒りを覚えた。どうして私は兄上の様に術の才に恵まれなかったのかと、父上から受け継いだ鳥弓術をうまく扱えないのかと。
でも私はこの選択に悔いはない、これでようやく私も父上と同じ立派に守ることが出来た。守護者としてエルドリアを守る姿を背中を見て育った私、でもその役は兄上が引き継ぐのだろうと思っていた。何故なら私には戦う為、誰かを護れる力を持っていないからだ。
魔能はあるとされていて術も風と土の二術の才はあった。だが何の魔能かも分からないままこの20年生きてきたし、基本造形もウォールが限界で尚且つ魔力量は並程度。それに比べて兄上はノレージ様と同じく五術を使えるし、基本造形も最高であるエラプションまで使えて尚且つ応用まで出来る。棍棒術も扱えて本気の父上と摸擬戦をしていたぐらいだ。
風と土で作ったウォールに兄上の術がぶつかりなんとか防げてはいる。だが威力は衰える気配はなくこのままでは壊されてしまう。例え防げたとしてもその次に父上の矢、{育鳥}が私の身体に直撃してしまう。
「やっぱダメか。でもあなた達は私が絶対に護るわ」
「ダメだよお姉ちゃん!」
「まだやれることが...」
「もう遅いわ、あとは頼んだよ2人共」
万が一が無いように両翼を広げ2人を包みこみ抱きかかえて攻撃に絶対当たらないようにする。私は他のウィンガルと比べてもかなり大きい翼を持っている。私の中で唯一誇れるのは母上から引き継いだこの綺麗な翼、実際これだけ立派な翼を持っているのは私だけだと色んな人から話を聞いた。
最後にこうやって鑑賞する以外で役に立てたならこの翼を持って生まれて本当に良かったと思う。冒険者になって出来た大事な友人達を護る為にこの命が散るのであれば本望だろう。壁が砕ける音が聞こえ私は覚悟を決め目を閉じる。腕の中で涙を流して泣いてくれている2人の音が聞こえる。死ぬ直前だからかな、世界がゆっくりになっている気がする。
私がここでやられてしまってキュミーとフォル、2人になってもきっと誰かが助けてくれる。個々の近くにはかつての勇者一行の誰かがいるはず、きっとその人が助けてくれる。ソール、ごめんね。私は先に行くね、ウェンを絶対幸せにするのよ。もし私の後を追いそうになってもあの世から現世に追い返してあげるから。




