#188 成長への感謝
ローガ・ビースは踵を返してこちらに攻撃の矛先を向けてきた。じぃやこと戦場の極星と呼ばれていた頃の全盛期を取り戻したローガだけなら私1人でどうにかなるだろう。他の2人をベルゴフが引き付けてる間に展開していた狩猟具を次々と射っていく。通常の矢なら弾くだけでいいが狩猟具は私が全て制御しているので弾いても再び襲い掛かるので狩猟具そのものを砕かなければ永遠と戯れることとなってしまう。
一瞬のスキがあるのでそこを突いて近づいてくることもある。流石に私自身が無防備という事ではないのでもちろん反撃だ。鉈を使いローガの攻撃を受け止めこちらも同じく攻撃を繰り出すと距離を取ってきた。今の攻撃の仕方を教えてくれたのもローガではあるが実は戦うのは初めてだ。戦い方を教えてくれたのは確かにローガ、正確に言えば右脚を失い傷痍軍人となったあとのじぃやだ。
前世界大戦終戦後、私はまた魔王が復活する時に備えて鍛錬を始めその中でじぃやからも戦い方を教わった。私は勇者一行の中でかなり中途半端な立ち位置だった。術においてはノレージやミュリルに劣り、戦いではフィーザーやゴレリアスから見たら荒削りな闘い方だった。尚且つ旅をしている間は1人で戦うことが少なく唯一弓を使え英具がより後方支援に長けていたのもあり遠距離攻撃が主ではあった。
おかげで距離さえ離れていれば大抵の相手はなんとかなった。だがそれ以外の戦いを強いられてしまった時にどうしても苦戦を強いられた。足りないものを補えばまた更に強くなれる、そう思いじぃやからより実践的な戦い方を学んだ。より実践に沿った術の使い方や白兵戦を学んでいくことで元々かなり得意だった遠距離での戦い方も更に磨きがかかった。
そうやって教えてくれたから今の私がいる。あなたに教わったことをちゃんと身に出来たから全盛期のじぃやとも戦えてるし、先代の王達に囲まれても耐えることが出来た。感謝してもしきれないそれ故に裏切られた時はとてもショックだったし、その結果が帰らぬ人となって今こうやって魔王軍の手先になっているのがより残念でならない。
「もし未来が見えたならじぃやの未来が見たかったわ」
そんなことをついボヤいてはいるが攻撃そのものがやむ気配はない。目の前にいるじぃやはかつて戦場の極星と呼ばれビース族の英雄としてもてはやされた頃と姿形は同じでも、記憶も感情も何もかも存在しない傀儡の兵士。そう、そこにこの{リバース}を打破するヒントがあったのだ。
{リバース}の術理論として記憶と感情がないから死人としていられるという誓約に近いものがある。つまりそこの部分を崩すことが出来れば存在することが出来なくなり、もう一度蘇らせようとしても術者が代償とする記憶が存在しなくなるので二度と復活することがないということだ。先程ヒュードとマイオアが消えたのもそういうことだろう。他にもキュミーとフォルの父親が死人として蘇っていたが2人を守るようにして崩壊したというのを聞いていた。最後の最後に自身の娘だと思い出し身体が動きそのまま崩壊したのだろう。
「くっ、理屈が分かっても流石にじぃやは手強いわね!」
このあと私がやろうとしていることは下手をすれば身を滅ぼしかねない。敵対しているローガに対していわば諸刃の剣のようなことをしようとしている。まずは動きを止めなければならないがローガへの有効な一撃を今のところ入る気配がない。
「フィオ姐行けそうか?一旦こっちの相手変わるか?」
「人を変えたところで何の解決にもな、」
・・・そうだわその手があったわ。狩猟具を周囲に展開し直し狙いをローガからお父様へと変え魔力を足に急激に込め接近する。不意を突かれたお父様は私の連続攻撃を喰らい動けなくなっていた所に最後の仕上げとして狩猟具一斉掃射を行う。急激に魔力を消費した為か少し身体に痛みが走るがどうやら成功したようだ。とてつもない紫煙が上がり始めるお父様の近くに行き言葉をかける。
「お父様、私はここまで強くなりましたよ。いづれそちらに参りますので今はお休みください」
その言葉を聞いたお父様の身体は崩壊を始めていた。表情を見ると先程までの無表情ではなくどこか穏やかな表情をしている。おそらくになるが身体を再生している時は世界に散らばった記憶の残滓を集めているということなのだろう。なのでそこに別の記憶を混ぜれば元々と違う状態で身体を再生しようとして前提が崩れるということだ。
そして先にお父様の崩壊が始まった。その光景を見ていたローガが片膝をついて顔を伏せていて同じく崩壊が始まっていた。ローガにも同じように言葉をかけるつもりだったが別の方法で記憶を戻させることにしたのだ。
「そういうことか。その手は確かに有効だなフィオ姐」
「ええ、でもじぃやには悪いことをしたわね。きっとあの世に行ったら私は怒られるわ」
なぜローガ・ビースも崩壊が始まったのか?それは簡単だ。オリジナルが持つ印象が深い光景を再現しフラッシュバックさせたのだ。じぃやはずっとお父様を助けられなかったことを後悔していたのを知っていた。完璧に再現出来ていなくても消えゆくお父様を見れば自然と消えるのではと考えたが当たりのようだ。出来ればこのような方法で決着はつけたくはなかった。これも全て叡智のサピダムのせいだけど、とりあえずあともう1人もどうにかしないとね。




