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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
暗黒への序章

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184/246

#183 前に進む為に

 多勢に無勢なので弓での制御だけでなく魔力の制御を行い接近してくる敵を対処する。以前までの平和ボケしていた私ならこのような芸当は無理だ。これもあの戦いでじぃやが裏切り私がやられかけてしまい、皆をピンチに晒していなければここまで鍛え直すこともなかった。かつて以上の力を手にするとは思っていなかったがまだまだ強くなれるものね。

 普通の相手ならばこのまま倒せるかもしれない、だが相手は{リバース}で蘇った無限の力を持つ不死者だ。現段階で倒せる術はほぼないとされている、そこで私はとある手を試してみようと思う。おそらくだがゴレリアスが使っていた{ディスキル}ならば倒せるようになるはず。私が使うこの武器もゴレリアスが触れたことによって魔の力が浄化され英具へと変化した。もしかすればこの武器で攻撃を加えることによって何らかの変化があるのではと考えた。

 並大抵の敵ならばもう既に有効かどうか分かるのだが目の前に立ちふさがっている敵は皆歴戦の猛者達だ。過去の大戦に参加したことがある人は名前を知らぬ人はいない、そんな人達が今人類の敵として私達の前に立ち塞がっている。ここだけではない他の場所でも同じことが起きているはずだ。ここでもし私が倒されてしまったらサピダムは必ず{リバース}するだろう。


「このままだと埒が明かないわね。ならこれはどう!」


 不死者達から距離を取り引き続き狩猟具を飛び回らせる{カーティーン}を発動しながらさらに武器を生成する。弓を構え生成した武器を手に取り弦にかけ魔力を込めて発射、武器術{ストレートロ―}を連続で放つ{チュイ}を発動する。これも新しく使えるようになった武器術、元々私は武器に魔力を込めるのが苦手だったがそれを克服して昔よりも強くなれた。

 強くなる度に旅をしていた頃のミュリルとよく喧嘩をしていたのを思い出す。互いに負けず嫌いでよく手合わせもしていたが段々と次戦う時に何をしてくるかが楽しみにもなっていた。そうして強さを磨いていたから魔王軍との戦いについていけたがもう成長しないと思っていた。

 思い込みは良くないと分かっていた、いや強くなることを諦めていたのかもしれない。魔王を封印してゴレリアスも消えて私は国のことや家族のことで忙しくなってしまった。時間がない、これ以上強くならなくても他の皆がどうにかしてくれる。そう思っていたら私のせいで全てをダメにしてしまう所だった。


「流石に少しは効いてるわよね?」


 傷が回復している様子が見えはしているので被弾しているようにはみえる。一番動きが早い戦場の極星ことローガも回復しているように見えたのでこの攻撃はいいようだ。だがこの現状は圧倒的に決定力不足でこのままではジリ貧だ。もしここにもう1人いるならばこの状況を打破できるかもしれない。こういう時にフィーザー、それかベルゴフでもいればいいのに。






 謎の寒気に襲われ荒手の敵かと思い気を張り直すとくしゃみが出た。誰か噂してやがるな?まぁ戦場で噂する奴なんて大体ロクなもんじゃないとは思いつつ魔族を蹴散らしながら南に向かう。戦場のあちこちで気が消えたり増えたりしているのは命を落としていたり{リバース}で兵が増強されているんだろう。魔王軍も本気でこの場所を取ろうとしているのがよく分かる。そして突然目の前に術式が現れ見覚えのある魔族が現れた。


「あ?お前どこかで会っ、」


 こちらが質問をする前に距離を詰められ拳を振るわれた。それに対して拳を合わせて感触で誰か思い出した。こいつは記憶が確かならば雪山で遭遇したジャックとかいう魔族だがあの時倒したはずだ。感じた闘気とは別に拳を合わせた感触がおかしいことに気づいた。これはまるで鉱石でも殴っているかのような物理的な硬さだ。


「見つけたぞマイオア」


 少し距離を脚を振るってきたがそれに対しても合わせて相殺する。こいつも前よりも格段に練度が上がっているがそれ以上にとても冷たい何かを感じ取った。距離を取り上着に手をかけ上半身を露わにしたジャックの見た目に異様さに気づいた。


「お前なんだその身体は?」

「これか?お前に開けられた傷を治すために魔石を埋め込みさらに強くなったのだ!」


 どうやって倒したかもう覚えてはいないがまさか鉱石と融合しているとはな。闘気で強化した純粋な一撃ではなく物理的な硬さをさらに闘気、いや{纏神}を施しているのか。師匠の話で鉱石の魔物がもし闘気を使えたら厄介だろうと言っていたがまさかここで実現するとはな。いい機会だ、こちらも少し気合を入れるか。視界にいたジャックは姿を消し背後から強襲してきたが難なく躱す。感覚を研ぎ澄まして攻撃をひたすらに躱しすれ違いざまに攻撃を叩きこむが感触は良くない。


「貴様さっきからおちょくっているのか!?」

「いったい何がだ?」

「何故私のことを一撃で屠ったあの攻撃を放ってこない!その腑抜けた攻撃はなんのつもりだ」

「そっくりそのまま返すが強くなったと勘違いしているみたいだがお前の本質は別に変っちゃいねぇぞ」


 速さは俺以上なのは変わりはないし身体が硬くなったのは確かだ。そこが変わったとして拳術士同士の戦いにおいては意味がない。つまり奴が俺に勝つには身体そのものの強さではなく磨かなければならないのは闘気そのものなのだ。そもそもジャックが当てていると思っているのは俺の残像だ。おそらく奴には攻撃を喰らっているにも関わらず傷にならない攻撃を喰らっていると思い込んでいるのだろう。


「いいぞこの前と同じぐらいの一撃を与えるからお前も一番威力のある攻撃をしてこい」


 そう言葉を告げるとジャックも構え、脚に闘気を集中させているのが分かった。なるほどそれほどの闘気を持っていたのか、こちらも腰を落とし集中する。何かが落ちる音がして互いの脚と拳がぶつかりあう。拳が当たっている箇所からジャックの身体が一瞬で砕け散ったのだった。本当に惜しい、もし奴がちゃんと闘気をさらに磨いていたなら、かなりの拳術士となって俺達の前に立ち塞がっていたかもしれない。

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