#182 かつての者達
聖獣に乗り弓の弦を弾き背後に浮かぶ武器を発射し上陸した魔族を倒していく。私の使う英具{マスターオブアームズ}、かつて魔軍十将と呼ばれていたアルドリアを侵攻した魔族が使っていた鉈、斧、槍、などの狩猟具。その際アルドリアで私の帰りを待っていた家族、いやアルドリア王、そして女王も殺されてしまった。
私はその知らせを聞いて単身でマクイル大陸に向かい各所の魔族を衝動のままに倒し武器を奪った。でも何も考えずに手にした武器は魔の力で染まっていた。それのおかげでゴレリアス達の元に帰ってからも私はしばらく苦しんでいた。そしてある時魔の力が暴走して他の皆に襲い掛かってしまった。
その時にゴレリアスが触れたことによって英具{マスターオブアームズ}に生まれ変わった。元々魔の力で行使していた英具の力も自身の魔力で行使できるようになり魔族と同様に特異な能力を使えるようにもなった。それが血による武器増殖でそれらすべて自身の力で操ることが出来る。例え壊されたとしてもオリジナルが壊されない限り、ここは戦場なので次々と生成可能だ。
「ありがとうございますフィオルン様。ここに来て下さってなかったらいまご、」
「何を言ってるの?あなた達ヒルドリア騎士団がいたからこの場所を突破されずに済んでいるのよ?」
と騎士団長であるジューグラに対して言葉を返す。彼女とその仲間達がいなければ内地から荒らされていただろう。私が来たのはアンクルとは真逆に位置する島の海岸線だ。フィンシー族のような水中戦闘等が得意な人達が警備にあたっている。今のところ{リバース}によって蘇った猛者は見ていないがそろそろ出てきてもおかしくはないだろう。
術者はあのサピダムなのだから誰が出てきてもおかしくはない。もしかすれば私の知り合いばかりがここに来るかもしれないが迷うことはない。それにしても私が来るまでもない程戦況は押し返せているような気もする。飛行してくる魔族は{重力操作}で地に落とされ、船で上陸してくる魔族も数は多いが強いわけではない。
「サーチャーそちらは大丈夫ですか!」
何かを言おうとしていたヒルドリア騎士団副団長サーチャーは地面の下から出てきた何かに上半身が消滅した。突然の事態に頭の処理が追いついていなさそうなジューグラの元に何者かが襲い掛かってきていた。私は間に入り何者かの攻撃を防いでようやく正体に気づいた。こういう時の私の予感は当たりやすいがまさか...
「あなたが相手なのね。じぃや、いえ戦場の極星ローガ・ビース!」
「・・・」
目の前から姿を消したと思ったら背後から攻撃を仕掛けてきていた。その攻撃をギリギリ躱すとまた別の所から攻撃を仕掛けてきた。聖獣が跳びかかりその攻撃は不発に終わり少し離れた距離へと立っていた。父であった前アルドリア王に仕え、長年アルドリアを支えてくれた国の英雄ローガ・ビース。
かつての大戦で左脚を失い弱体化し国の為私を支えてくれた良き相談役。だが魔の力に魅せられてしまい私達を裏切り転化しアルドリアを乗っ取ろうとしたが勇者ソールによって倒された。あの時の歳老いて尚且つかつての大戦で左脚を失くした傷痍軍人ではない。脚を失う前の父が生きていた頃の全盛期の姿のローガ・ビースがそこにはいた。
「これが報告にあった、三魔将軍叡智のサピダムの...」
「そうね、ここにも遂に{リバース}の手が来たようですね」
ローガの足元に術式が出現し1人はフィンシー族、そしてもう1人、またも私が知っているビース族が現れた。かつてマクイル大陸を武力で抑え魔王軍との闘いで命を落とした初代アルドリア王、つまり私の父親だ。他のビースとも二回りも三回りも違いマイオア族と同じ程の身体から繰り出される鈍重な一撃で砂漠を開拓しアルドリアを建国したという。
「あなたはもしやヒルドリア王なのでは...」
もう1人のフィンシー族をどこかで見たことがあったが現海底王国ヒルドリアの女王の父親、ミュリルのお父さんだ。水術において歴代最強と名高いとされている最強のフィンシーだ。そしてまた新たに上空から何者かが飛来し私達の後ろに降り立った。ここまで歴代の王達が来ている、正面にいる顔を知らないヒュード族、マイオア族もおそらく歴代の国王なのだろう。このままではここの戦場は王達に蹂躙され突破されてしまう!
「ジューグラあなたこの子と一緒に他の場所に向かいなさい」
「そ、それではフィオルン様が・・・」
「この5人見たところ狙いは私みたいなの。この場所以外にも同じようにきっと現れているわそちらの援護に向かいなさい」
他の場所にも{リバース}の手は来ているだろう。この場所に私を狙う為にこれだけ実力者が集まっている、ならばここの周辺に現れた他の敵はジューグラ程の実力者がいれば大丈夫のはずだ。聖獣に指示をしてジューグラを連れて行ってもらう。目の前の強敵達を見て魔軍十将と闘った時を思い出した。震えているのは相手から感じる魔力の圧で怯えているのではなく武者震いだろう。意識を更に集中させ周りの死体から武器を生成し自身の周りに大量に追従させる。
ここ最近情けないところしかなかった、全盛期以上に身体を鍛え直していたが早速その機会に恵まれるなんて...なんて運がいいの。私がゴレリアス一行として旅をしていた時、何故人々から獣の中の王、{グランドビースト}と呼ばれ、魔王軍から{血飢姫}と呼ばれていたのか。その力を今ここで見せてやろうじゃない。




