#179 親しき友よ
ノコギリの様になった刃で竜騎兵の負傷している箇所目掛けて斬りかかる。魔族の弱点である聖術をもろに喰らっている奴は多少身体をズラす抵抗をしていた。一撃目は狙いとは違う所になったが顔を歪めていたので流石に堪えたのだろう。今使っている剣術の元になった壱の剣、{撃竜牙}は普段振っている通常の竜剣術よりも振りを速くして尚且つ威力も高い、まさに竜剣の基礎ともいえる武器術だ。
ここから弐、参...と剣術を生み出していく。最大の特徴でもある竜種を具現化させて放つことにより攻撃範囲と威力を向上させている。ただの武器術よりも優れているのは型の数と魔力を形にして強力な物にしているからだ。そして自分はそこに魔の力で性質をさらに上乗せし{スティンガー}や{ライズドラゴン}といった独自進化させることにも成功させている。
二撃目も再び負傷している箇所を狙うが魔剣を出現させ軌道を逸らされる。ウェルンがなんとか作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない、だが守りに徹し始めた竜騎兵はとても堅く中々狙い通りにはいかない。それならば削れるだけ削ってやる!三撃目にいかずにそのまま振った反動から回転攻撃を放つ。普段の回転攻撃より貫通力を増したドリルのような攻撃を残った魔力を全て込めた。
「ぬおぉぉぉぉぉ!」
「負けるかぁぁぁぁ!!」
この攻撃ならば竜騎兵といえど流石に軌道を逸らすことは容易ではないはず、そう読んで攻撃を放ったがどうやら当たっているようだ。今までとは比べ物にならない厚さと大きさの術壁を展開して防御している。
この術壁を破ることが出来れば、そう思いさらに魔力を込め螺旋回転攻撃を継続させるが一瞬頭の中で鋭い痛みが走る。これ以上この攻撃を続けるのは自分の身体にとって良くないことだと分かったがそれでも濃い魔力を込め続けた。
ウェルンが回復剤を刺して無茶をしてこのチャンスを作ってくれたことを思い出したからだ。限界を超えた先でもし竜騎兵にやられたとしても今の自分なら後悔しない。すると覚えのある聖の魔力を感じ始めさらに螺旋回転攻撃の威力が増した。
「ば、馬鹿な。な、なんだ、こ、この力は!?」
自分も魔の力を持つデビア族、聖術の攻撃や魔力は毒と一緒のはずだ。ウェルンは先程の攻撃でかなり消耗したはずで回復していない。となるとこの力は自分の中に眠り続けていたあの力しかあるまい。さらに威力を増した{スティンガー}の螺旋回転攻撃は、竜騎兵の術壁を見事に砕き遂に奴の身体に突き刺さった。確かな手応えと共により深く突き刺し螺旋回転攻撃を当てそのまま身体を貫通し反対側へと着地する。
自分の見立てでは良くて相討ちもしくは術壁を破ることが出来ない。このどちらかになる算段でこうやって意識を保って立っているのはありえなかった。だが忘れていた、魔族にとって最悪で自分達にとって最高の一手を持っていることを。今身体に満たされているこの魔力は{勇者のオーラ}だ、間違いない。この大事な時に目覚めてくれた。
「ソール、やったの!?」
「あ待ってソール!?」
驚くのは無理もない身体に穴が開いた竜騎兵がこちらに大量の術式を展開しているからだ。あれだけの攻撃を喰らったのだ立っているのもやっとのはず。そんな奴の眼からは殺気、いやこれは執念や色々な物が混じった恐怖を感じる。だが何もすることはなくそのまま膝をつき術式が消える。もう一度立ち上がろうとするがその口から大量の血が吐き出される。
その姿を見てつい自分は駆け寄ってしまった。ここまで敵と割り切って戦っていたが親友と同じ顔をした何者かが苦しんでいて手を差し伸べないのは人としてどうかと思う。それはウェルンも一緒で駆け寄っていて自分は倒れる奴の背に手を回して支えていた。
「何のつもりだソール。まさか最後の最後に情でも移ったのか?」
「ああそうだよ!お前は知らないだろうけどよ、自分達からしたら一緒に育ったコルロっていう親友なんだよ!」
「なんで!なんで、コルロがまた死ぬ姿を見なきゃいけないの!それならもういっそ私は敵になってもいいから助ける!」
ウェルンは持ってきていた回復剤を刺そうとするが竜騎兵がその手を止め首を振る。ウェルン、竜騎兵共に譲らないのが分かる程、両者の真ん中で回復剤が揺れている。竜騎兵は最後の力を振り絞ったのかウェルンの手を振り払い回復剤の中身が地面に飛び出す。
「そうだ、それなら最後にお前達に話すことがあるんだよ。聞いてくれるか?」
その言葉に自分達は頷く。回復が出来ないならせめて竜騎兵の最後の言葉ぐらい聞いてもいいだろう。触れてる部分の熱が段々と下がってきていて竜騎兵の死が近づいているのを物語っていた。
「ソール、お前の攻撃を喰らって自分がようやく何者かを思い出した。だがその名を語るのはお前達にとっては良いことであり良くないことでもあるのは承知している」
「そ、それって...」
「私も魔族の端くれだ。このような記憶は不必要な物、戦いの邪魔になると分かっている。だがそれでも最後は人として発言してもいいか?」
「あ、ああいいぞ竜騎兵・・・いやコルロ」
いつぶりかは分からないが笑顔で昔共に村にいた頃の彼に向けて名前を呼んだ。それに答えてくれたのか腕の中の人物は笑顔になったがそのまま何も発することなくコルロは力尽きた。自分にやられたというのになんていい顔で死んでいるんだ。まるで寝ているようにも見えるじゃないか。静かに地面へと下ろし目から落ちかけていた水を拭き取る。竜騎兵は倒した、あとは壁向こうにいるハウゼントを助けに行かなければ。




