#177 可能性
突如としてハウゼントと自分達二人の間に城壁が現れ分断された。自分達の前には竜騎兵、そして向こう側ではエクスキューション三闘士が揃っている。もちろんこんなことが出来るのはここにいる六人の中でただ一人だ。
「何してるの!?」
「いくらハウゼントさんでも二人の相手は...」
「同じ三闘士だったからある程度の手の内を知ってるから大丈夫だ!それよりも一刻も早く{リバース}の対処法を見つける為にそいつを倒してこっちを助けに来てくれ!」
若干透けていた城壁が見えなくなり完全に隔離された。竜騎兵がこちらを怪訝そうに見ているがこちらを攻撃してくる様子がない。いや何かを考えているのか?こっちにとっては好都合だ、少し話をして情報を引き出そうとし...
「ねぇ本当にコルロじゃないの?」
「む?」
「顔も声も全部コルロだしそうやって、だって・・・」
「戦いの場に他の感情を持ち込むのはどうかと思うぞヒュード」
「え?」
「仮にも戦士としてここにいるのだろう?私は貴様達から学んだ、人間達は情によって弱くも強くもなるがそれによってかつての魔王軍は敗れた」
突きを繰り出してきた竜騎兵の攻撃を防ぎウェルンを抱えて後ろに飛びウェルンを降ろす。今の攻撃は突然ではあったが先程までのウェルンならば躱せない攻撃ではないだろう。ウェルンの場合は知り合いと摸擬戦はあっても、自分は愚かキュミーよりも命を懸けた戦いをした経験は多くない。実力があっても全力を出し切れない、そのことに関しては誰よりも分かっているつもりだ。
「ウェルン戦えそう?」
「...大丈夫、今ので目が覚めたよ。あれはコルロじゃない、倒すべき敵なんだね」
その言葉に頷くと杖を構えて{バーティカルソード}を展開させた。それだけでなく魔力が溢れ出している様にも見える、どうやら迷いは吹っ切れたようだ。自分も剣に魔力を込め竜剣をいつでも放てるようにしておく。術式が出現しそこから魔剣が飛び出してくるも展開していた{バーティカルソード}で相殺している間に自分は攻撃を仕掛ける。
竜騎兵は自分とウェルンが連携が出来ないように自分の攻撃をいなしながら術式を展開している。今まで手を抜かれていたことを戦いながら知ることになるとは。だがこの状況をどうにかして打破しなければ、壁の向こうで戦っているハウゼントさんもいくら守りに特化していても長くはもたない。
「流石は勇者だな」
自分の、いや勇者の為に身体を張って守ってくれたコルロ。何かを得るために何かを犠牲にしなければならないというのはよくある話だ。人を守る為に人が犠牲になりそのおかげで自分もウェルンも生きている。もしあの時今と同じ力を振るえていたら力を使い果たすことなくコルロの亡骸を持っていくことが出来ただろう。そうしていたら今こうやって目の前にいたのは全く違う人かもしれない。
これまで何度か戦ってきているが一度たりとも一人で追い詰めたことはないし、魔の力を開放した今の自分一人でも勝てる気はしない。ウェルンも戦えているがこのままでは{全開放}が切れてしまいピンチに陥るだろう。解放出来る魔力量が増えたとはいえあくまでもヒュードとしてだ。
各種族ごとに得意なことがある、マイオアは身体が大きく火の適性を必ずと言っていい程持っているなどあるが、ヒュードは他種族に比べていろんな面で劣っていることもあるが特異な能力や術の才に目覚めやすい。実は武器術を開発したのはヒュード族だったりするし個人が持つ特別な魔能である{個能}も最も多い。
ウェルンは何かしらの能力を持っていることは分かっているがどの魔能にも当てはまらず{個能}持ちとされている。そろそろ能力の兆しが出ていてもいい頃だと思っていたら、魔族が使えた技術である{全開放}を使えているのでそれがウェルンの個能なのだろう。
「ウェルンまだいける?」
「うん、全然大丈夫。なんならまだ出力を上げられるよ」
こいつには多少無理をしてでもどうにか、いや退かせることさえ出来ればハウゼントさんと合流することが出来る。こうやって考えながら剣を振っていて互いに致命傷となる攻撃が当たっていない。ウェルンの方もまだ余裕があるようにも見える。さらに濃い魔力を纏わして練度を高くして剣術を振るう。それに気づいたウェルンも開放する魔力を最大まで上げたのが背後から伝わってくる。
「あれ行くよソール!」
「分かった!」
かなり前から練習していた混術を放つ準備をする。自分は伍の剣、竜獄爪を放ちながらウェルンはその剣の振り合わせて{バーティカルソード}を複数本操り同時攻撃をする。自分の振った軌道に沿うように聖の塊があり何度も失敗を重ねてようやく出来るようになった。
聖と魔は互いに反発するので少しでもズレが生じてしまえば自身に傷を負ってしまう、だがそれは竜騎兵にも言えることだ。流石に苦しくなったのかウェルンに対して行っていた魔剣の射出をやめ自分の攻撃に集中していた。だが流石に防ぎきれなくなってきて攻撃が当たっている!このまま押し切る!
「くっ、小癪な!」
地面に術式が展開され衝撃波で吹き飛ばされ竜騎兵が骨竜に跨っていた。コルロが本気を出すときの表情と全く同じ顔をしてこちらを見下ろしていた。竜騎兵と呼ばれているにも関わらずこれまで一度も乗らずに戦いこちらを圧倒してきたが、ようやく本気で自分達と戦うべきと判断したということだ。




