#176 再会
あの村にいた頃の自分達に今こうやって一緒に空を飛んでいることを話しても信じないし、そもそも自分の背に翼が生えてくるなんて思いもしなかっただろう。『魔力はどんな形にもなり無限大の可能性を秘めている』ノレージ様か誰かが言っていたが、でもまさかウェルンも飛べるようになるとは...{全開放}で強化されるのは身体能力はもちろんだが術の練度も高くなるのでそれのおかげらしい。
「ソール見てあそこ!」
そこらじゅうで魔王軍との戦いが起きている、侵入を許したのならそれは当たり前のことだ。その中で一際目立つ魔獣、いや竜種が目に入りまた1人誰かが握りつぶされる瞬間だった。ともかく身体が大きく厚い脂肪で覆われていて他の竜種に比べて破壊力、耐久力に飛び抜けて優れている巨竜種だ。
過去に戦ったことはあるが皮を被った偽物だったが今回の相手は正真正銘の本物。あの魔族は身体を使っているだけだったのでそうでもなかった。とても優れた武器だけでなくそれを使いこなす為の技術などがなければ効果的に使えない。周りで武器術や攻撃術を放っているがものともせず次の一撃が放たれた。
土埃が上がり衝撃波で何人かが飛ばされ奴によってまたも...視界が晴れてくると巨大な手と地面との間に光り輝く盾があった。巨竜種の重い攻撃を防御できる人の心当たりは一人しかいない。そのまま盾を押し出して空中に打ち上げると巨竜種は大きな翼でゆっくりと着陸する。
「ハウゼント!」
「二人とも丁度良かった!手伝ってくれこいつの相手は流石に盾が壊れる」
すぐさま剣に荒々しい魔力を込め竜剣をいつでも放てる態勢に入る。見た目に似合わぬ速度で移動をする巨竜種の攻撃が飛んでくるがハウゼントが盾で防いでくれる。止まった一瞬の隙を突いてウェルンが魔力の柱で囲う。唯一逃げられる上空へと翼を広げ逃れようとするが{渾竜砕}でその翼に攻撃を与える。
切断することは叶わないが傷をつけると体制を崩して地面へと背中から落下し自身の重さにより力尽きた。咄嗟とはいえ互いの長所を活かした連携が出来た。それにしてもウェルンが{全開放}をしている時は別人みたいになるな。
「二人共ありがとう、でもどうしてここに?」
「アンクル様に言われてここに来たの」
「今みたいな敵は他にはいないのか?」
「いや分からないな。とりあえず目についた所にき、」
ハウゼントが話してる途中で突如辺りに壁を展開させると見覚えのある魔剣が突き刺さった。忘れることもないこの攻撃は...巨竜種の体内から何かが飛び出したかと思ったら骨竜に跨った竜騎兵がそこにいた。竜騎兵の姿はこれまでと違い顔を隠しておらずコルロの顔が露になっていた。
「やはりお前だったか魔勇者」
「コルロ!」「コルロ!?」
「あいつが魔王軍の幹部竜騎兵か、って知り合いなのかソール達は?」
「うん、これまでに何度か戦ったことがあるだけ」
コルロに似てるけど違う、そう分かっていても親友と同じ顔と声が聞こえてくるとついその名で読んでしまう。ここに来る前に絶対に戦うだろうと思い自分とウェルンは覚悟をした。コルロを魔族から開放して安らかに眠らせてあげようと。心配になってウェルンの方を見たが特に問題はなさそうだ。
竜騎兵は地上に降りると骨竜が地面に溶けていきその代わりに何者かが召喚された。ハウゼントと同じ鎧に身を包み兜の部分だけが違う。一人は杖を二つ合わせたかのような魔術棍、もう一人は両手斧の様な刃がついた巨大な片手斧を両方の手に持っている。エクスキューション三闘士ザガ・ギルガバースとドーガ・ベレイスの二人だろう。
「先輩達も出てくるなんて思いもしませんでしたよ」
「・・・」
「これが噂のサピダムの{リバース}ってやつか」
「そうみたいですね」
状況的には三対三、一人一人着実に対応すれば勝てない相手ではないだろう。だが仮にも相手は三闘士二人と魔王軍最高幹部、そう簡単には勝たせてはもらえないだろう。聖の適性を持つウェルンとハウゼントがいるのでどうにかなるとは思いたい。
だが一番の問題は{リバース}で蘇った死者がどうやったら倒されるのかという事だ。ある程度まで攻撃を与えることが出来れば行動停止には出来るだろうが相手は無限の魔力を持っている。何回行動不能にすればいいのか、それとも聖の適性を持つ者なら消滅させられるのか。情報が集まりきっていない中で試行錯誤をしながら竜騎兵の相手もしないとならないのか。
「まだ{リバース}の対処法は分かってないんだよね?」
「サピダムの{魔力源}で魔力量は無限で尚且つ{自己再生}を持ってるところま...」
「もうそこまで分かっているんだなお前たちは」
「分かってはいなかったけどお前のおかげで分かったよ」
あくまでノレージ様の憶測で{リバース}がどんなものかを解析していたが合っているらしい。術理論を理解できてもノレージ様では再現出来ない、となると必然的にノレージ様になくてサピダムにある何かが鍵となる。
そんなサピダム個人が扱える最強の魔術{リバース}、奴は完璧と言っていたが弱点が存在しないのはあり得ないという。可能性としてありえるのが繋がり、魔の力を一度完全に断ち切らせれば倒す手立てはあると言われた。少しでも魔の力が残っているからサピダムの力が作用して傷が治る、無限に魔力があるように見えるが瞬間的に回復をしているだけ。今回の戦いにおいて鍵となるのは自分以外の二人が魔の力を消し去ることが出来るかだ。




