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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
暗黒への序章

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176/246

#175 一転

 戦場のあちこちには術式が展開され各々の攻撃術、砲台からも弾が発射され矢を放つ、それら全てをこの島を取り囲む魔王軍に対して放っていた。同じようにネモとウェン、キュミーが術で攻撃し自分とベルゴフさんも斬撃を衝撃波を飛ばしたりしている。

 攻撃が当たっているのか海に落ちていく敵の姿も目に入る。魔王軍もこちらに向けて魔術を放ってきたが相手が魔族なのに対策していない訳がない。ノレージ様が貼った術壁に攻撃が吸収され砲台のエネルギーへと変換されるのだ。これで奴ら全てを倒せるなら楽なのだがそう上手い話はないだろう。今のところ優勢なだけでこのあと魔王軍が何をしてくるかは分からない。


「みんな大丈夫?」

「おいおい心配するのは分かるがまだ始まったばかりだぞ坊ちゃん!」

「そうだよお兄ちゃん、もしかしたらこのま、」

「キュミーまだ油断しちゃ駄目だよ!」

「フォルの言う通りですよキュミー、でもその調子でずっといてくださいね。段々と余裕が無くなってくるはずですから!」


 雑談する余裕があるぐらいには皆言葉を交わしている。常に遠距離攻撃をしている自分達は魔力を常に消費している。特にネモリアさんは鳥弓術の中でも最も威力が高いが魔力の消耗も激しい{翔鳥(フライ)}を連発している。矢を放つ度に風切り音が響く程の強烈な威力を休むことなく撃っていてとてもこちらに構っている余裕などは本来は無い。

 こういう無茶がこの場にいる全員が出来るのはとある仕掛けがあるのだ。この戦場にいる人達に腕輪が着けられておりそこから魔力が供給されている。刻まれた術式によって各国から集められた魔力壺があり、そこから常に腕輪を通して供給されており使った途端に全回復する。疑似魔力源と言ってもいいがサピダムが持つ魔能と違いもちろん限界はあるし温存するべきかもしれない。こうしているのは自分達と魔王軍の圧倒的な差がありそれを埋める為に仕方なくやっているのだ。

 事前の作戦会議で伝えられた魔王軍との兵力差は少なくとも十倍以上と予想された。一人の一人の腕が勝っていても流石に物量で押し切られてしまう。なので上陸するまでにどれだけ敵兵をどれだけ削れるかがこの戦いの命運を分けると言っても過言ではない。

 それを承知の上で皆全力で攻撃しているが減っているようには見えぬまま島へと近づいてきている。終わりの見えない地獄が続いて精神的にやられてしまっている人達もちらほらと見受けられる。魔力切れを引き起こしてもすぐに回復し攻撃をし続けなければならない。だがそのことが分かっても身体が言うことを聞かなくなるのは分からなくもない。


「分かっちゃいたがよキリがないなこりゃ!」

「とか言ってちょっと楽しんでるでしょ!ベルゴフさん!」

「こんな敵がいるのに楽しまねぇわけねぇだろ!ほらあちらの嬢ちゃん達もちょっと楽しんでるようにも見えるぞ」


『術壁を破り何者かが侵入。戦える者は武器を取って応戦を、その他の者は引き続き周辺の魔王軍に向けての攻撃を続けてくれ』


 遂に侵入されたか、術は防げても魔族そのもの達を上陸するのは防げはしない。今この島のどこかで戦闘が始まったのだろうがとりあえず自分らの周辺ではないようだ。この弾幕をかいくぐって上陸出来るのは攻撃に対して耐性を持っている何...


『侵入した地点に移動術式が開かれ続々と魔族が侵入している!至急対...』


 聞こえていた音声が途切れ魔力の供給が止まったのを感じたと思ったら腕輪が壊れた。自分達の前にも術式が開かれ1隻の船が上陸してきた。その上から大量の魔族が降りてきてようやくそこでとあることに気づ、いや先に気づくべきだった。何か違和感はあったんだ、そう明らかに敵の数が多すぎるとは思った。仮にも味方が倒されているのにあのサピダムが何の策も講じてこないことにも。

 海上に見えていた敵の姿が霧散しているのが見えた。幻で大量にいるように見せられてまんまと自分達はそれに釣られてしまい、懐が甘くなり大量の魔族の侵入を許してしまった。これだけの範囲に練度の高い幻術を張り巡らせることが出来る魔族などサピダム以外にはいない。


「ソール!」


 少し考え事をして敵の接近を許していたが攻撃を難なく躱し攻撃をして倒す。一体一体はそれほどでもないみたいだ。全員この実力なら問題はないが事前情報通り数が多いので気をさらに引き締めて剣を振るう。他の皆もなんとか倒せているようなので目の前に現れる敵達に集中する。剣を振るっていると他の所から悲鳴が聞こえてくる。そこにはヒュードの人達が追い詰められていたが敵が多くて助けに行けない。


「ソール避けなさい!」


 後ろから聞こえた声に反応して後ろに跳ぶと真下を鎌が回転しながら敵を蹴散らしていく。ヒュードの所まで鎌が辿り着いたと思ったら鎌を握った1人の魔族、いやラ・アンクルへと変わった。手を翳すと魔力の塊を両手に作り出し腕を広げて魔力砲を回転しながら放つ。取り囲んでいた魔族を一掃したので冒険者達に駆け寄る。どうみても再び戦えるようには見えない1人の女性が倒れている、おそらくこの人達の仲間だろう。


「あ、ありがとうございます!」

「もうあなた達は下がりなさい」

「ま、まだ俺達は戦えます!」「そうです私達も力になりたいんです!」

「その子はどうするの?見殺しにするの?今は下がって怪我を治しなさい。あなた達もその傷で戦っても無駄死にするだけよ」


 興奮して周りが見えていなかったのかそれとも我に返ったのかは分からないが女性を連れて急いで下がっていった。母さんが今使ったのはなんだ?全く見えなかったぞ。というよりかは瞬間移動でもしたみたいに突然現れたな。


「アンクル姐、他んところは大丈夫なのか?」

「ええ、違う所にノレージ達も向かったから大丈夫のはずよ。でも嫌な予感がするわあなた達、ここは私に任せて他の所に救援に行きなさい。ここよりも他の場所が不味いわ」


 そう言うと鎌を振り回し敵をなぎ倒しながらどこかに行ってしまった。ここに母さんが来ているということは他の場所にもノレージ様達が向かっているはずだ。その上で他の場所の方が不味いと言ったということは...


「坊ちゃん俺はここから一番遠い南に行くから頼んだぞ!」

「それじゃ私は西に向かいます」

「私も行きます!」「私もー」

「それじゃソールと私で東に行くよ!」

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