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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
暗黒への序章

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174/246

#173 決戦の刻

 今この島にはヒュード、マイオア、ビース、ウィンガル、フィンシー、そしてデビアと全種族が集結しこの島の防衛作戦が展開されている。各国の騎士団、術士団、冒険者、エクスキューション、皆で協力して砦を形成したりしている。

 最初到着した時はこの見事な砦と人を見て圧倒されたものだ。勇者一行で旅をしていたノレージ様、フィオルン様、ミュリル様、そして母さんもいる。ジューグラさんやサーチャーさんも見かけたし各地で見かけた冒険者の顔もちらほら見える。

 剣が盾に弾かれ体制を崩すがそのまま身体を翻して距離を取る。すると真下から何かが飛び出してきて打ち上げられる。魔王城を封印した島に辿り着いた自分達はそれぞれが思い思いの時間を過ごしていた。ある人は拳を振るい連合軍の兵士達の相手をして、ある人達は術の修練をしたり家事をこなす。そして自分はハウゼントと実践に近い摸擬戦をしていた。

 竜剣の練度や魔力量が上がりその上で色んな敵とも戦って分かったことがある。どうやら自分は時間が経てば経つ程より高い練度の高い攻撃術や武器術を放てるようだ。ネモの様に{全開放}を使い瞬間的に最高の状態へは変われない、思えば今まで戦ってきた相手も長期戦になりがちだった。だがそこまで耐えれるようになったのは魔力量が多くなってからかもしれない。

 今こうやって摸擬戦をしているのはいつ魔王軍が来てもいいように身体を温めているのである。その相手として立候補してくれたのがハウゼントだ。世にも珍しい盾を使った戦い方をするハウゼントが相手なら全力で戦っても怪我をすることは少ないとのこと。実際攻撃にも防御にも使える個能{守護}の力は絶大だ。

 流石はヴァル大陸を任されていたエクスキューション三闘士だ。人々からの信頼が最も厚く人命においては最も守ってきた為、守護天神とも呼ばれ他の闘士の様に慈愛という二つ名がつけられた。これまで何度も手合わせをしてもらったが一太刀もその肌に入れたことはない。目の前に城があると言っても過言ではない程守りも攻めも完璧だ。

 前方から大きな盾が飛来するが魔力を纏わした刃で砕く。過去にベルゴフさんと戦っている時に強化した拳で盾を砕いていた姿を見ていた。自分もようやくハウゼントと同等クラスになれたようだ。急降下しながら荒々しい魔力を込め{渾竜砕(クェイク)}を放つ。防がれてしまうが続けて{渾竜斬(スラッシュ)}も放ち防がれる。さらに続けて{撃竜牙(スティング)}を放とうと魔力を込め直そうとしたその一瞬を突かれて盾で身体を吹き飛ばされる。


「いやー今の攻めは良かった。防いだ腕まで衝撃が伝わって満足な攻撃出来なかったよ」

「それでもあの距離飛ばすのはやっぱりハウゼント強いんだな」

「2人共今治すね!」

「いや大丈夫、これでいいからさ」


 腰のポーチから瓶を取り出して蓋を開け飲む。これはよく魔術師が使う回復剤よりも効果が高い回復薬である。魔力も回復するのに加えて並の治療術をかけられたのと同じ効果を得ることが出来る。これは自分達のような武器を扱う冒険者などが一つは必ず持ち歩いている物。ハウゼントも同じように飲んでいた。

 今この戦場には世界中から集められた人がいて治療術を扱える人達でこの回復薬以上の効果の術使いも多い。その為色んな人が親切心で治療や回復をしてくれようとする。確かに自然と回復するが魔力は一度使えば回復に時間がかかる。なので魔王軍との闘いが始まるまでなるべく魔力を温存したほうがいいだろう。

 いつ来るか分からないそう考えいつ来てもいいように身構えていた。島中に鐘の音が鳴り響き始め辺りの空気が変わった。状況を確認する為自分は空へと飛びあがると同じようにネモリアさんが見えたので近寄っていく。彼女も自分と同じように状況確認の為空へと来たのだろう。


「遂に来ましたね」

「そうみたいですね」

「これはまさに最後の戦いと言ってもいいですね」


 その言葉に自分は静かに頷く、彼女がそう言うのは無理はないし突然鐘の音が鳴り響いた理由も頷けた。地上から見上げると雲一つない何の変哲もない晴れ渡る空が広がっている。術式を囲むように砦が築かれ塀に昇らなければ水平線、今自分達が見ているこの光景は見えない。

 この島を取り囲むように術式が空中に展開されていて次々と魔族が出てきていた。海上にも船が出現していたり色んな魔物の姿を確認できた。この島に対して直接召喚術をされないように結界を貼っていたのは正解だ。もしこの数、水平線が埋まる敵の軍勢が突然自分達の周りに召喚されていたならば勝ち目はなかっただろう。

 自分はネモリアさんと共に地上に降りてベルゴフさん達と合流して塀の外へと向かっていく。この世界を命運をかけた最後かもしれない戦いがもうすぐ始まろうとしていた。だが不思議と緊張はしていなかった。なんならいつもよりも力が出ているような気もした。

 頼れる仲間も人々もいるんだ負けるわけがない。塀の外に出ると視界に入る全員が臨戦態勢を整えていて戦いが始まることが誰が見ても分かった。自分も息を整えて剣に魔力を込め竜剣術をいつでも振るえるようにしておく。これほどまでに調子もいいのもみんなが手伝ってくれたからだ。これで最後にするつもりで全力、相手が誰であろうと揺らがない、自分は...守るべきものの為にこの剣を振るうんだ。

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