#170 終焉の始まり
そういえばこれまで何度か聞こうとしたが状況が状況で先延ばしてきた。だがここではっきりさせておかなければならないな。
「今更かもしれないんですけど現状の魔王のこと分かる人いますか?」
『確かにその話をしたことはなかったわね』
「してなかったのねあなた達」
「すっかり忘れていたがてっきりしていたのじゃと...」
『そういう説明は私が担当じゃないし』
『聞かれなかったので答えることもありませんでしたね』
呆れ顔をしつつ母さんが机に手を当ててどこかの空に大きな城が見える映像術を出てきた。そしてそれが地面に施された術式に吸い込まれていった。術式が浮き球体上、造形ランク一相当のボールに似た形となりこちらに寄ってきてスクロールにしまわれた。
場面が変わってノレージ様に対してスクロールが開かれていた。術式が刻まれた球体が寄っていき身体に吸い込まれ顔に刺青のようなものが浮き出た。だが今のノレージ様の顔には刺青はなかった。
「まず私達は魔王城から脱出して術式で一時的に封印を施した。その後ノレージの所に向かって完全なる封印を施したのよ」
『魔王城だけならばスクロールに封印すればよいのじゃったがな。何せ中にはまだあやつがおったからな。命を秤に載せ価値を同じにしたのじゃよ』
次にノレージ様が机に手を当てると場面が変わった。映し出されたのはエルドリア城の玉座の間、その前には仮面を着けた1人のウィンガルがいた。これは戴冠式か、初代国王であるノレージ・ウィンガルからルメガ・ゴース・ウィンガルへと王位が移る時だった。
ノレージ様の身体から球体が出てきてルメガさんへと吸い込まれていくと首に刺青が出現していた。どこかで見たことがあると思っていたがルメガさんの首に刻まれていたからか。いやそれならば確かルメガさんの身体は確か消滅したから...まさか!?と自分だけでなく他の人も数人ネモリアさんの方を見ていた。
「つまりその封印は最後は父が持っていたということは...」
『いや残念ながらそうでもないみたいよ』
『あなたがヒルドリアに来た際に検査したでしょう?でも封印を示す刺青はあなたの身体のどこにもなかったのよ!』
とここにはいない映像術越しのミュリル様が机に手を置くと場面が切り替わる。一瞬見えてはならない、薄着のネモリアさんが移ったような気がしたが自分は何も見ていない。ということを主張する為目を瞑り顔を背けていた。
「おいミュリル姐!」
「ちょ、何見せてるんですか!?」
「ソール見ちゃダメだよ!」
「み、見てないよ!何も見てない!」
『あらごめんなさいね、つい感情的になってしまって...』
『でもいい身体してるじゃない、見せて減るものじゃないんだから。一国の姫がそうかっかしないの』
「こういう所も勇者一行て感じがするわ」
脱線しかけたがハウゼントが机に手を置いたことで映像術が閉じ皆正面へと向き直った。ネモリアさんの顔はまだ少し赤いような気がするがそれもしょうがないだろう。自分達は仕組みが良く分からないので止められなかったが止めようとする人が誰もいなかったな。
高笑いしていたノレージ様が咳ばらいをしてもう一度机に手を置くと何の変哲もない一つの島が映し出された。段々と拡大されていくにつれてそこには術式が刻まれ、その真ん中に刻まれていた紋章が刺青と全く同じ模様があった。
「この場所はどこですか?」
「場所は三大陸のちょうど中心に当たる所に存在する地図には記されていない島。そして魔王城があったたところでもあるわ」
『まさかとは思っていたけどやっぱりここに戻っていたのね』
「魔王軍にもおそらくこの場所はバレているからの。魔王が復活するのは時間の問題じゃろうな」
非常に不味い状況だということが分かった。ならばこの場所を守り切るのがいいのかと思ったが今の戦力差では難しいのかもしれない。かつて魔王を撃退した勇者ゴレリアスはおろか、彼を除いた中で現世界最強であるエクスキューションジャッジマスター、ガッシュ・バグラスもいない。勇者一行であるノレージ様、フィオルン様、ミュリル様がいるにしてもかなり厳しい戦いになるだろう。
ハウゼントが団員手帳を取り出し中を開いた後突然立ち上がった。手帳を机に置く手が震えておりその表情からもあまりいい知らせではないことが分かった。そこに映し出された言葉を見てハウゼントが驚くのも無理がないと思った。
いつもご苦労だ、三闘士のハウゼントよ。私に重大なことを任せてくれた王家の者達よ私は失敗した。ドリューションはなんとか退かせることに成功させたが私も甚大な被害を負った。この後、より加速する魔王軍との戦いに加勢出来ない私を許さないでくれ。そして現勇者一行よ、私が知る限りではかつての勇者一行にはまだ実力が劣っているかもしれないが潜在的な力はお前たちの方が強い。諦めずに最後まで戦ってくれるとうれしい。友に託された約束を守る為に魔王との戦いまでには必ず間に合わせてみせる。
「そうかガッシュが失敗したというか。いや成功ではあるのか」
『ここで彼がいないとなるとエクスキューションは実質ほぼ壊滅と言っても問題はないわね』
「その認識で問題ないです」
『よりこれは完璧な作戦を立てる必要があるわね』
「坊ちゃんここから先は俺達大人同士の話し合いにさせてくれねぇか?次の作戦が俺達の生死を分けちまうからな」
「そ、それなら自分達も、」
「ソール、あなた達は私達と違って明確にやるべきことがあるでしょう?」
母さんの言う通りなのかもしれない。世界最強であるガッシュにも強くなれと言われたんだ。足りないものを補うために自分達は部屋を後にした。数日後、魔王軍との魔王復活をかけた大戦が始まるのかもしれないのだ。少しでも強くならなければ自分達は世界が奴らの物になってしまいまた暗黒の時代が始まる。




