#169 固まる意思
「そうか、時が経って朽ちたのか」
「はい、自分が辿り着いて剣に手を触れたら...」
「まぁよい、収穫がなかったわけではないからの」
雪山から無事帰還しギルドへ状況を報告しに来た。ちょうど他のみんなも集められていたようで自分が勇者の洞窟で何があったかを聞いてもらった。最後に使った竜剣が秘技の領域、自分の竜剣が勇者ゴレリアスや剣神ウヌベクスと同等であること。そして最強の聖剣テークオーバーを手に入れることが出来なかったと伝えた。
最後に振るったあの剣は紛れもなくテークオーバーだったかもしれない。そうであって欲しいがあの後どうやってもこの手に出現させることは出来なかった。幻だったのかと思うがあの場にいたマーチェさんも振るっていたのを見たと言う。それでも自由に扱えない力は自分の物とは言えないので剣は無くなったと伝えた。
勇者の力同様不安定で強大な力、自分が有している紋章もオーラどちらも自分の中に隠れている。今の実力がどれくらいなのかは分からない。竜剣術と{勇者のオーラ}を持った勇者ゴレリアスが相打ち、ならばここに魔の力が加われば倒せるかもしれない。
「それで集まってもらったのはとある報せをする為じゃ」
隣の部屋が開きそこから出てきたのは通称守護天使と呼ばれていたエクスキューション三闘士、ゼク・ハウゼントだった。確かジャッジマスターガッシュバグラスと共に王都を取り返しに行ったはずだ。ここにいることはつまり...?
「ハウゼントさんいつ帰って来たんですか?」
「今朝なんとかね」
いつも着ている鎧姿ではないのはそういうことか。エクスキューションの兵士達は特別な鎧を着ていて階級によって性能が変わる。その中でも三闘士の鎧はジャッジマスターガッシュと同じ術壁と障壁が刻まれそれぞれの意志で呼び出せる。ハウゼントは鎧があまり好きではない為普段から着ていないことが多い。だが特定の状況下では鎧姿でなければならないと本人が教えてくれた。よく見てみたら身体の調子もそこまで良くなさそうだしな。
「なんとか?」
「情けないことに鎧は回復待ちだし王都を取り戻せたかは分からず戻ってきたからな」
「え...」
既に話を聞いていた人とそうでない人で反応が分かれたがそれもしょうがない。王都メルドリア奪還作戦、自分達が雪山のサピダムの研究所を襲撃する為の陽動作戦。ではあったがエクスキューションの残存戦力全てをかけた作戦でしかも世界最強とされているあのガッシュ・バグラスもいた。誰もが作戦成功するだろうと思った。
「失敗したの?」
「いいや分からないらしい」
「分からない、どういうこと?」
王都は既に三魔将軍、夢幻のドリューションによって乗っ取られておりその中を制圧しながら進んだ。城下町の安全は取り戻せた代わりに寄生されてしまった住人達は仕方なく倒すしかなかった。メルドリア城に入り騎士団を無力化しその奥に待っていたドリューションと戦闘。
「・・・でマスターの命令で逃げてきたんだ」
「まさかドリューションがそれ程強いとは思わなかったわ」
「アンクル様にもどっちが勝ったか分からないんですか?」
「ええ、ドリューションは確かにラ・ザイールの右腕と言われていたけど実際の強さは誰も知らなかった。結末を見届ける前にその子は情報を持って帰って来てくれたのよ」
「仮にそこでバグラスが止めているとしてもそれも時間の問題じゃ。こちらも動き始めるとするかの」
スクロールを三枚窓際の鳥につけられるとそれぞれがどこかへ飛んでいった。そして英具{フォールンウィング}をその手に取りだして机に手をかざした。机が術式へと吸い込まれその代わりに世界地図が広げられた机が出てきた。机と共に出た長椅子に腰かけるノレージ様、どうぞと言った感じで手を前に出されいつの間にか自分の後ろにも出現していたことに気づいた。
座ると地図がメルクディン大陸の中央部、メルドリア王国へと拡大された。空席に映像術でここにはいない人達が映し出された。ノレージ様と母さんと同じくかつて勇者一行だったミュリル様、フィオルン様はが映し出された。それでも空席はまだいくつかあり数えるとそれは...
「こんなに席が空いてしまうとはの。儂らに残された時間もう少ないのかもしれないな」
『私達は短いかもしれないけど新しい時代の為にやら...』
「何を言ってるんですか皆さんは自分が絶対に死なせませんよ」
先代勇者一行であるノレージ様とミュリル様がそう言ったのに対して立ち上がり自然と言葉を発した。これまでも自分達に託していった人達のことを忘れたことはない。次は絶対に自分が助けると何度も思っては叶えることが出来なかった。でも今の自分なら出来るはず、いや自分達ならもう失わずに前に進めるはずなんだ!
「私はどこまでもついていくつもりですし、ゴース家としてもエルドリアの名にかけて守りますよ」
「そうだよ!ゴレリアス様達が戦っていた時に比べて私達もいるよ!生きることを諦めないで!」
「坊ちゃん達の言うとおりだ。あんたらは昔不可能と言われた時代を変えたんだろ?ここに師匠がいたらきっと姉御達にキレてるんじゃねぇか?気合が足りねぇってな」
「お母さん!」「お母さま!」
「ふぉっふぉっふぉっ、これは失礼したな。確かにまだ始まってもないのに儂らが生きることを諦めてどうするのかの」
『そうね、フィーザーがいたら間違いなく拳が飛んできてたわね。あの人男女平等でちゃんと殴ってくるからね』
『ここでやられたら駄目ね。この子達がどう成長するかも見届けたいもの』
「やっぱりこっちについて良かったわ。あのまま魔王軍にいたらこの光景は見れなかったわ」
少し重かった空気が軽くなったような気がする。絶対にここにいる誰も失わずに平和な時代を迎えるんだ。勇者ゴレリアスよりも素晴らしい戦果、魔王完全討伐を絶対に成功させようと心に誓った。新旧勇者一行に挟まれたエクスキューション代表であるハウゼントもいつになく真剣な眼差しだった。




