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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
加速する世界

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169/246

#168 握るのは何か

 奥に進みながら先程の剣術を何と呼ぶかと考える。今までの竜剣術は魔力を纏わせてからそれぞれ対応する竜を具現化させ放っていた。だが発動条件が厳しい上に命の危険もあるが反撃の一手にもなる。諸刃の刃ともいえる剣術だ。今回に関してははっきりとしたイメージがまだないので竜を具現化出来ていない。それでも{ライズドラゴン}、{スティンガー}より威力がある可能性を秘めている。

 角を曲がると雪が少し積もる広間へと辿り着いた。足を踏み入れると明かりがついたと思ったら色鮮やかな様々な水晶から光が発せられた。そして一番奥には見覚えのある黄色い水晶の下に祠の様なものがあり剣が突き刺さっている。もしかしなくてもあそこにあるのが...


「あれが{テークオーバー}?」


 歩みを進める度にそれに反応し水晶の光が無くなり辺りが暗くなる。祠の前に辿り着く頃には上から一筋の光が差し込まれた黄色い水晶以外輝きを失い微かに淡い光が剣から出ていることに気づいた。これは魔力、つい先程戦っていた自分の偽物が放っていたものと同じだ。つまりこの剣は正真正銘勇者ゴレリアスが使っていた世界最強の聖剣{テークオーバー}となる。

 さっそく抜こうと手をかけようとするが止まってしまう。自分にもゴレリアスと同じ力があってこの剣が扱えるということは頭で分かっていた。だが心の底で本当に自分がこの剣を使っていいのかと内なる自分が邪魔をした。

 自分達がかつての勇者一行と肩を並べられているかと聞かれたらはっきりとした肯定的な意見はまだ言えない。未だにベルゴフさん、フィオルン様、ノレージ様、ミュリル様、アン...母さんの助けを借りてなんとか魔王軍と戦えているのが現状。自分達が三魔将軍は愚か復活する恐れのある魔王ラ・ザイールに勝算はない。

 この剣に頼らなくても今使っている魔術剣でも十分なのかもしれない。元々この剣は大悪魔が使っていた{ヘルディザスター}という魔剣だった。もし自分が触れたことによって元に戻ってしまったらどうしようとも考えた。だが変化してしまっても今使っている剣よりも強いことは確かではある。






 目を瞑り深く呼吸をして魔力を手に纏わせ覚悟を決める。ここまで来たんだ収穫が剣術一つだけではなくさらに大きな成果を持ち帰ろう。手をかけ抜きにかかるが微かに動く気配しかしない。


「これは封印術?いやこの剣が重たいのか?それとも自分を拒んでいるのか・・・」


 更に魔力を込め抜きにかかると少し動いたような気もするし動いていないような気もする。さっきの戦いで消耗したとはいえかなりの魔力を込めている。それとこの場所に来てから自然と力が戻ったような気もする。ここの水晶には何かしら特殊な力があるのかもしれない。

 動かないのならばそれでいい、だが動く気配はするのだ。あれだけ大変な戦いを越え、あとは一本の剣を抜くだけ。また更に力を込め呼吸も荒くなるがその代わりに荒々しい魔力へと変え、剣を引き抜きにかかると自分の手と傷口から血が滲み始める。痛みと少し剣が動いたのを感じより一層力を込める。






 抜けろとただ剣に願い続ける。込められる魔力もそろそろ限界が来てもおかしくはないし少し視界が霞んできた。最悪出血多量または魔力欠乏症、どちらかでこの場で力尽きてしまうかもしれない。それでもこの剣を引き抜こうとさらに込める魔力を増やす。動いているかどうかも分からない、そんなことを考えている暇がない程に痛みが強くなってきた。

 完全に感覚がなくなってもただひたすらに魔力を込め続け剣を引き抜くことだけに力を使う。どれだけ動いたのか見ようと目を開けようと一瞬考えた刹那、グリップ部分を血で滑らせてしまい手を放してしまった。後頭部を床にぶつけ意識が戻り身体に鞭を打ち立ち上がり剣に手をかけようとするがそこには何もなかった。

 恐る恐る目を開けると先程までそこにあった剣はなかった。祠の周りを見るがどこにもなく後ろを振り返ってもそれらしきものは見当たらない。自分の手の平から溢れる血を見て幻ではなかったことを確認し布を巻き始める。いったいどこにいったのかと思考しようとしたら地面が揺れ来た道が崩落してしまった。

 唯一外に出れる可能性のある上から差し込む光に向け翼を広げ飛翔する。落石を躱しながら光へと飛び込むとどこかの山の上に飛び出した所で限界が来て雪の上に不時着する。


「今の揺れは一体...?」


 飛び出したであろう方向を見ると分かりやすく雪が沈んでいた。これだけの揺れで次に起こることも予想出来る。それに対して動こうとするが脚がもつれて転んでしまい後ろを振り返る。自分に迫る雪の壁、雪崩が迫ってきているのを確認し手を前に出しウォールを作ろうとするが魔力も底を尽きていた。万策尽きて諦めて背中から倒れ込み手を空へ掲げる。


「こんなところで旅が終わるなんてやっぱり勇者ではないな。最後もこの手で何も掴めなかったんだな」


 眩い太陽から避けるように目を閉じ悔しさを噛みしめるように拳を握りしめる。











 何もないはずの固めたこぶしの内側に違和感を覚え目を開くと太陽が何かによって隠されていた。身体を起こし自分の手に握られた陽の光で光沢を放つ刀身をもつその剣は紛れもなく{テークオーバー}だった。


「ソールさん!」


 声がした方に振り返るとマーチェさんがこちらに向かってきてきていた。手綱から手を離し自分に差し伸べてきたのでそれをがっちりと掴む。意外と力持ちなマーチェさんに後部座席へ座らされる。雪崩から逃げるように全速力で狼ゾリは駆けて距離が出来ていきなんとか生き残ることに成功したのだった。

 助かったと安心して自分の右手を見るとそこにはもう剣はなかった。自分が見たのは何だったのだろうか。分からぬまま瞼が重くなり視界が暗くなっていった。

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