#167 窮鼠
壁に衝突する寸前で受け身を取り着地をする。魔の力と{勇者のオーラ}がようやく五分でぶつかった為空中で受け身を取れたので再びを息を整える。だが向こうもそれは同じようで鏡合わせの構えで魔力が込められ竜が具現化していた。
同じ流派で戦ったのは数年前でまだ完全に竜を具現化出来なかった自分とウヌベクスが摸擬戦をしたのが最後だ。そして次の日には忽然と姿を消していてその日から自分は1人で生活を始めていた。冒険者になろうと志したのはどうしていなくなったのかそれを知る為だったのかもしれない。そんな話は一旦忘れてこいつに集中しなければ。
先程から放っている{ライズドラゴン}、{スティンガー}、このどちらも自分が今放てる竜剣術が独自に進化したものだ。普段の魔力を纏わして竜を具現化して放つ剣術に魔の力でさらに覆う。そうすることにより性質を変化させ絶大な威力を放つ。それぞれ元となった竜剣から比べ物にならない程の魔力を消費するので連続で放つと魔力欠乏症になる恐れがある。
「魔力量が多くなってから使ってるけどまだ無くなる気配はないな」
前までは{ライズドラゴン}、{スティンガー}をそれぞれ一回ずつしか放てる分の魔力しかなかった。ずっと魔力を纏わせて戦闘をして尚且つ既にどちらも放っているがまだまだ余裕がある。だがそれでは奴を倒すことは出来ない、こちらの魔力が有限であるのに対して奴の魔力はむげ...いやおかしいな。
ここまでずっと衰えない剣筋と変わらぬ表情で忘れていたけどあいつは自分の力を模倣した存在。つまりいつかは限界がきてもおかしいはずだ。そしてもう一つわかっていることとして奴は自分よりも魔力量が少ないが質で自分と互角に戦っている。同じ剣術でも戦い方でこうも違うとは・・・
「奴と同じ方法で魔力を込めれたらこっちが圧倒的に有利、いや絶対に負けることはないな」
これまでの修練をしてきた中でも質を高めることにも尽力してきたが中々上手くいかない。人には向き不向きがあるからこそ武器術も色んな流派に分かれた。同じ流派でも魔力の込め方が違うからこそ今の戦いがある。魔力量に差があっても質で差を埋められ技量が一緒である奴を倒すにはやはり新しい竜剣、秘技陸の剣をどうにかして編み出さなければならない。
ここまで知識と経験を振り絞り伍の剣まで完成させてきた。元より才能が全てだがこれから先はより努力だけではどうにもならない。そもそも出来なければイメージしようとしてもなにも湧いてこない。でも自分にはようやく形が見えてきたので何か一欠片が足りない。しかし本当に埒が明かないな、今度はこちらから攻めてみるか。
纏わせている魔力を荒くして{ライズドラゴン}を放つ。奴は先程の自分と同じく、今度は{ライズドラゴン}で相殺された。だがここで奴と大きな差が生まれていることに気づいた。それもこちら側にとって有益なことに。それを確かめる為に続けて{スティンガー}を放つと相手は構えるが魔力を具現化させるのに追いついていなかった。さっきまで奴も問題なく放てていたのにどうしてだ?まさかではあるがこのまま魔力量で押し切れるのではないか?と思いもう一度{スティンガー}を放った。
だがその攻撃が当たろうとした瞬間に身体にけだるさを感じた。そして今まで感じたことがない痛みが襲ってくる。何だこの感覚は、だがこのチャンスを逃すわけにはいかない。魔力が乱れ不完全な状態になった剣を振るい{スティンガー}ではなく{撃竜牙}を放つが躱される。
そのまま地面に転がってしまったがすぐに立ち上がるも奴の攻撃が迫っていた。躱せるはずもない、魔力も空の状態、それでも攻撃に対して集中した。こちらも窮地ではあるがまともに{スティンガー}を喰らっているはずなので表情や外見の変化がなくても奴は自分以上に苦しいはずだ。
そう意気込むと不思議なことが起こり始めた。目の前で剣をこちらに振るう自分の偽物のすがたが辺りがとてもゆっくりに見え始めたのだ。もしやこれがそうなのか?この状況ならと思い目を閉じ深い呼吸をして痛む身体に鞭を打ちながら神経を研ぎ澄ます。
頭の中にはっきりとしたイメージが出来上がる。奴が振るう攻撃を一つ一つ丁寧に躱し、そして{ライズドラゴン}を放ってきていたが躱す。そのまま身体を翻しながらその剣に纏われていた魔力を吸収し自分の魔力を回復する。奴が放った攻撃以上の渾身の一撃を込めその攻撃は見事に奴の身体に直撃する。確かな手応えを感じ振り返る。
「改めて考えたけどよく出来た術だったな。まぁ勝つ為とはいえ自分のこと斬るのは気分がいいものではないね」
剣をしまいながら結界術と共に崩壊していく自分の偽物の姿を見る。倒れていたのは自分かも知れない。これからも魔族と戦っていく中でいつ自分が同じ運命を辿るのか一瞬考えそうになった。完全に消滅したのを確認し洞窟の奥に進んでいく。あれだけの試練があったんだきっと何かあるに違いない。




