#165 本来ならば
「それでは気をつけて」
一夜が明けようやく該当する洞窟に辿り着くことが出来たのでマーチェさんには先に帰ってもらうことにした。壁に露出している魔石が不気味に光る道を進んでいくと勇者ゴレリアスと同じ紋章が刻まれた結界術が見えてきた。
あの先には勇者ゴレリアスが使ったとされる聖剣{テークオーバー}があるらしい。見ているだけで寒気がしてくるのは魔の力と相反する聖の力。それを証明するかのように結界に近づく為に一歩進める度、身体に重みを感じる。後数メートルのはずなのに遥か遠くに感じるのはやはり自分が魔の力を持つデビア族、もしくは{勇者のオーラ}を完全に会得出来ていないからかもしれない。それでも自分はあの先に行く為前に進む。
やっとのことで辿り着いた結界、恐る恐る触れ魔力を込めたが特に変化はない。剣を取り出し竜剣を放つも壊せそうになかった。ありとあらゆる方法を試したが結界が解けることはなかった。
「ようやく見つけたと思ったのに、この先に行ければまた強くなれるかもしれないのに、自分にはその資格がないのか...やっぱり{勇者のオーラ}使えないとか」
勇者の紋章を握りしめ{勇者のオーラ}を引き出そうとしてみるが応えることはなかった。自分には何も出来ない、その事実を受け入れ力が抜ける。外から入ってくる冷たい風をより一層冷たく感じさせる。魔族に偽勇者、魔勇者と呼ばれてきたが間違っていないのかもしれないな。
自分の中に眠り続け、たまに目を覚まして力を貸してくれる{勇者のオーラ}。あの力を最後に使ったのはいつなのかもう記憶に残っていないし、自身の意志で使うことが出来ない{勇者のオーラ}を自分の力と思えなかった。自分は勇者ヒュード・ソールではなく、デビア族魔王ラ・ザイールの甥ラ・ソールがやはり正しいんだ。
だがその時握りしめていた勇者の紋章から不思議な光を放ち始め熱を発し始めた為地面に落としてしまった。あまりの熱さに若干火傷を負ってしまったがそれ以上に結界術が段々と薄くなっていき消滅した。輝きを失った紋章を拾い再び首にかけ立ち上がる。
「進めってことだな」
ここから先の情報はないので剣と盾を構え常に竜剣を放てるようにしておく。道中やはり魔物や魔獣が出てきたが特に問題なく倒しつつ洞窟を進んでいく。少し開けた場所に辿り着くとそこには術式によって閉ざされた道が存在した。触れてみると術式が動き始め広間に人型の何かが召喚されていく。
「最後の関門てところだな。こいつを倒して先に進...これは驚いたな、まさか自分と戦うってことか?」
そこに現れたのは見覚えのある背格好、顔、翼、ソールという人物と同じ姿の青年が現れた。その手に持つ剣と盾も全く自分と同じように見えた、ただ全てが自分と同じではなく利き手が逆で勇者の紋章を身に着けていない差があった。こちらが右に動くと奴も同じ方向に動いたので試しに剣をしまうと奴もしまった。再び剣を取り出し魔力を込め構えると奴も全く同じ行動をする。
意思がなくただ真似をするだけならばいい、それだけならば道中に遭遇した魔物と変わらず対処できる。ここまでかなりの距離を進んできたのでもう少しで最深部だろう。この奥に何があるか分からないがわざわざあんな術式があるということは相当なものがあるはずだ。
「とりあえず様子見、!?」
思考時の隙を突かれて既に斬りかかられていたので盾で防ごうとするが間に合わず攻撃を喰らってしまう。今の一撃でこの戦いにおいて非常に不味いことがあることに気づいた。今の攻撃がどのような軌道で来てどのタイミングで盾を出せば防御出来るかを分かっていた。だが今回の相手は左利き、盾が剣に干渉しづらく互いに攻撃が通りやすいのだ。
「てことは回避優先で盾は極力使わないようにして先に倒しきればいいのか」
「・・・」
「思考するところも真似されてたら余裕だったんだけどな」
実際この戦いはとてもいい経験になるかもしれない。自分と戦う事なんて普通に生きていてまずないだろう。早速奴はこちらに飛び込んで剣を振るってきた、一振り一振りを丁寧に躱し距離を取りこちらも攻撃を仕掛けるが同じように躱されてしまう。自分が分かるならその逆も然りで相手も手の内が分かるはずだ。
「こんなにやりづらい相手は初めてだな」
「・・・」
奴の周りの魔力が更に濃くなるのを感じたのでこちらも開放する。剣に魔力を込め構え竜を具現化させると相手も同じことをしてきた。同時に飛び出し剣を振るったがこちらの具現化した竜が相手の魔力で打ち消されてしまい{撃竜牙}を喰らってしまう。傷口から灼けるような痛みを感じる。
どうして喰らってしまったのか奴の姿を見てすぐに分かった。よくよく考えて見たらそうだこれを作ったのが勇者ゴレリアスなら込められる力は{勇者のオーラ}。対する自分は魔の力、つまりは魔族と同じ力を扱っている。目に見えるほどその力が放出されている奴の方が真に勇者と言えるだろう。
まさか{勇者のオーラ}を扱える本物の勇者と戦うことになるなんて思いもしてなかった。利き手が違うだけでこの光景を他の人に見られたらあたかも自分が偽物と判断されかねない。ポーチから回復剤を取り出し投与して傷口を塞ぎさらに魔力を開放する。
触れた時の情報を元にして分身体が作られその出来た分身体は{勇者のオーラ}によって強化された状態になる。最後の試練としてゴレリアス様が用意したならこれを突破できたら自分は勇者ソールと呼べるだろう。




