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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
加速する世界

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165/246

#164 似た者同士


「多分この辺りだと思うんですが...」


 自分はノレージ様に命じられ再びメルクディン山脈に来ていた。勇者ゴレリアスが使っていた最強の聖剣{テークオーバー}が封じられている洞窟を探しに来たのだ。1人で行かなければならなかったがマーチェさんが狼ゾリを出してくれた。土地勘があるマーチェさんのおかげで雪山を彷徨わずに済んでいる。探索が始まり何日かが経過したが何故か見つからない。


「やっぱり勇者だけじゃないと見つからないんですかね?」

「ノレージ様も見つけられたんだ、そんなことはないはずだ」


 ノレージ様も空からたまたま見つけることが出来たんだ。魔力をなんとなく感じるような気がするのでひたすらにそちらに向かい続ける。魔物や魔獣は見かけることはあってもそれ以外は見渡す限りの白い世界。ノレージ様が見つけたとされるどこかの山の切れ目にすら辿り着けない。

 映像術で見た時は分かりやすかったのにここまで見つからないのには訳がある。デビア族の翼ではウィンガル族と同じ高度は飛べず空から探すことが出来ないからだ。


「ソールさん今日はここまでにしましょう。これ以上は雪がひどくなります」

「分かりました{ドーム}」


 結界を貼り雪を遮断して薪と火種で暖を取り始める。ソリを引いていた狼達にも餌を与え自分達は途中で狩った魔獣の肉などを出し調理を始める。マーチェさんもこの山で長く暮らしていたこともあり、共にテキパキと準備を進めて行く。鍋に水術で水と港で買った野菜なども入れてスープを作っている。


「あの日、ソールさんに出会ってなかったら私はあの場所から解放されませんでした」

「やっぱりサピダムに協力していたんですね?」

「はい、昔は集落に住んでいたんです。お父さんとお母さん、お爺ちゃんもお婆ちゃん暮らしてたんです...」


 だから集落が魔族に占領されたと知っていたのか。雪崩と言っていたがサピダムが引き起こした魔術で故意的に起こされ生き残った家族がマーチェさん達。そこから元々のしきたりに則って紫ランク昇格に挑む実力の冒険者達をサポートすると見せかけて研究所に送っていたという。

 実際に手を汚していたのはスカブさんただ1人で平凡に暮らしていたそうだ。それでも罪の意識はあり一度逃亡も考えた。だがそのことを見逃す程サピダムは甘くなかった、マーチェさん以外に幻術をかけ記憶を混濁させ常識をズラされた。少しでも変な動きをしようものなら1人ずつ実験体にすると脅され従うしかなかったという。


「でも従った結果今までいろんな人を巻き込んだ。研究を完成させてしまったし私だけが生き残った。だからせめて罪を償うのも含めて今度はこの世の為になれればと思って...」

「それで協力を申し出てくれたんだね」


 スープが完成し口にするとあの日食べた物と同じ味がした。食べ始めるとマーチェさんの目から涙が落ち狼達がその様子に気づいて集まってきた。スプーンを置き狼を撫でる彼女の瞳から涙がどんどんと零れていた。おそらくだが今まで幸せに暮らしていた時のことを思い出してしまったのだろう。

 村を襲撃されコルロを失った後しばらくウェルンも同じように泣いていた。あの時はどうしたらいいか分からず、声をかけることもなくただひたすらに剣の修練に打ち込んでいた。


「自分もマーチェさんと同じなんですよ」

「えっ?」


 自分の言葉に反応してこちらに向きなおした彼女はとても驚いていた。勇者様がそんなことあるわけない、といった表情をしている。勇者ゴレリアス一行は唯一魔王ラ・ザイールまで到達しこの世界に平和をもたらした英雄。勇者伝説でしか知らない人は仮にも二代目でもある自分に対して期待や信頼を寄せるのはそれも当然だ。

 自分は勇者と分かった時から今までどんな旅をしてきたのかの話をし始めた。こうやって人に自分のことを話すのは何度目だろうか。誰かに話す旅に段々と長くなっていく内容が濃いのか薄いのかは分からない。今回は自分がどれだけの人から思いを託され生きてきたのかそのことに焦点を当てて話した。


「自分もまだまだ弱いから色んな人に助けてもらってここまで来れたんだ。その中にマーチェさんも含まさってるんだよ」

「そうなんですね、今まで紫ランクになりうる可能性を持った冒険者の方々をたくさん見てきました。ソールさんはその中の誰よりも優しく思いやりがある素晴らしい人です」


 その後は夜が更けるまで色んな話を続けた。疲れが溜まっていたのか先に眠ったマーチェさんと狼達を{ドーム}の中に残し自分は修練をし始めた。

 デビア族として完全覚醒し格段に増えた魔力量、それらすべてを竜剣に応用出来たならばこれから戦う強敵達にも対処できる。今の自分は勇者ゴレリアスと比べたとしたらようやく足元に届いたぐらいだ。日々の修練は裏切らない、そう信じて今日も剣を振るう。

 ただ今日の自分は邪念を払うために剣を振っているのかもしれないがいつもより調子良く振れている。頭の中で新しい武器術のイメージが出来上がっていく、ここまで頭が働いているのは久しぶりだ。いつもと同じ時間修練をした、なので剣を納めて自分も休む体制に入るとすぐに眠気が襲ってきた。今日はよく眠れそうだな。

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