#162 本当の天才
「マスターそいつまさか...」
「どうもこれからがドリューションという魔族の本気らしい、来るぞハウゼント!」
奴の身体から触手が伸び床に叩きつけられ衝撃波と共に棘が迫ってくる。先程の攻撃よりも更に速くはあるが躱せない程ではなかった。なのでサイドステップをすると避けた方に曲がってきて鎧を掠めると施されていた術壁が砕かれる。
その攻撃に合わせ後ろに飛ぶとまた更に追いかけてきた。両刃刀で断ち斬るとようやく勢いが止まる。だが次から次にこちらに向かってくるのを確認し一本も逃さぬようにひたすら斬り続ける。分かれた触手はすぐドリューションの身体に戻りまたも触手が形成されているようだ。このままでは埒が明かない、こちらがただひたすらに消耗してしまう。
攻撃自体は単調なのでまだ周りを見る余裕があるのが救いではあるな。ハウゼントの方を見ると両腕に出現させた大盾を合わせ魔力を込めて正面から防いでいる姿が見えた。単調とは言ったが基本造形最高ランクであるエラプション系を喰らってもビクともしない特別製の鎧、それに施された術壁が一撃で壊される攻撃を真っ向から受け止めている。
「そっちは大丈夫そうだな」
「ええ、まるでドーガさんと腕相撲している時みたいな気持ちですよ!」
小言を言える辺りあちらも余裕があるらしい。だがどちらも動きを止められていることには変わらない。激しさを増す触手の威力を打ち消しきれていない為か私の周りの床が揺れているようだ。現存する魔王軍においては間違いなく、三魔将軍、夢幻のドリューション、は圧倒的な力を持っている。
「どうした劣等種共よそんな攻撃では私は倒せないぞ。この声が聞こえていないのかそれとも喋る余裕がないのか。何をしようとしても先程仕留められていない時点でガッシュ・バグラス、いやエクスキューションお前らの負けは決まった」
私達を下に見ようとする魔族らしい言葉が出てきたな。だが私にはどうしようも出来ないのも事実だこの触手に対しての有効策はない。そう私にはな、向き不向きではなく独りで完結出来る魔王軍と違い我々は1人で動くことは少ない。
「ハウゼント!」
構えていた大盾の輝きが増し正面から受け止めていた触手を粉々にしながら前進する。私が彼をエクスキューションに誘ったのは個能{守護}があったからとも言える。本人に聞いたところただ盾を生み出す能力らしいがその質に関しては本人の魔力量で左右されるらしい。
最初に私はただ堅い奴がいるという情報の元襲撃した。だが不意打ちであったにも関わらず一切の傷をつけることが出来なかった。意識しなくても張られている障壁ですら並の術壁の数百倍の強度を持っていて私は確信をした。こいつは必ず魔王ラ・ザイールが復活した際に必ず必要となると。
同志とする為、当時の彼と戦い勝利を納め更なる磨きをかけた。この世界において彼の攻撃を破れるのは指を数える程しかいないだろう。その中にドリューションも入っているとは思うがこの程度の攻撃では彼は止まらないだろう。さらにハウゼントに対して最も驚いたことがある。
彼は才能があった上で厳しい修行して身に着ける可能性がある闘気を自然に使っているのだ。そもそも最初戦った時も何故武器を持っていないんだと思ったが違ったが必要がなかったのだ。身体能力が高く本当にヒュードなのかどうか怪しいと思う市民もいたが答えは簡単だった。
我々が当たり前に呼吸するように彼は日常的に闘気を扱っているのだ。どうやらドリューションも流石にこちらに攻撃する暇が無くなったのかハウゼントの方に触手がさらに集中し始めた。
「そのまま持ちこたえていろハウゼント!」
「了解しましたマスター!」
流石に近づかせたくはないのか、四、五本が襲い掛かってきている。もう目が慣れたのか武器を使わなくとも躱せるようになった。当たる気配がないとは言え、喰らってしまえばもう術壁が機能しないのでちゃんと当たらないようにする。
だがどうするべきだろうかいくら斬っても分裂した奴の身体の一部はすぐに戻り再生し続けてしまう。攻撃と同時に奴を消滅させられればいいのだが...触手に追われながら変形したドリューションの身体を見るが特別目立った物は見られない。魔力を両手に溜め今度はそこで応用させ爆弾のような物を作り放り投げた。見事直撃し黒煙が舞い紫色のゲルが大量に飛び散り全て元に戻っていった。
スリイ種の頂点である奴の身体の再生速度は本当にとんでもないがどんな生物にも弱点は存在するはずだ。スリイ種は必ず身体のどこかに核が存在しているのだが...まさかこのゲルを全て消滅させない限りドリューションは倒せないというのか。そう考えると確かにここまで倒されない自信があるのも伺える。
「お前も中々な魔力量だな。だが聖の使い手なら我らの敵だからな消えてもらわねばならないのだ」
「それに関しては同感だ。誰がお前達の様な市民を脅かす側になるとでも思ってるんだ。もしそうなったらまたマスターと戦わなきゃならないじゃないか」
ハウゼントよ、私とてお前の最強の盾を壊すにはそれ相応の覚悟と力が必要なんだ。お前と最初に勝った時ですらかなり苦労したのに今のお前の護りを崩そうと思っても無理だ。私もお前とはあまり戦いたくはない、本当に味方に出来て良かったよゼク・ハウゼント。と少し気を抜いていたらドリューションに新たな変化が訪れた。




