#161 醜悪
ドリューションはスリイというよりかは複腕のサタニエルやキマイラに似たような見た目になっていた。だがヒュード、マイオア、ビース、ウィンガル、フィンシー、それぞれの腕や翼が黒鎧に足され見た目の醜悪さの方が目立っていた。
勝つ為ならなりふり構わないといったその姿勢が伝わってくる。奴がそれぞれの手から再びゲル状の物を出し新たに出たヒュードの手に魔術剣、マイオアの手には大斧、ビースの手には術棍、フィンシーの手には槍を握った腕が出てきた。それがそれぞれ誰なのかも分かってしまう程の特徴的な武器の並びだ。
ドリューションはウィンガルの翼と魔族の翼で宙に浮き、こちらを見下ろし武器をこちらに構え既に英具相当の物に変化していたのを確認する。
「今まで取り込んできた中でも選りすぐりの実力者の力とお前を真似た力を相手に出来るといいな、ガッシュ!」
「...借り物の力を使ってる奴が良く吠えるものだな」
急降下してきたドリューションの六腕の攻撃に対して刃を高速で合わせる。武器の種類によって魔力の込め方を変えてちゃんと相殺しており怪我を負うことはない。今まで生きてきた中でもハイレベルな武器術の扱い。
このまま続ければ魔力量が多いドリューションが勝つのが道理。だがそれが通じるのは私以外の未熟者でしかないだろう。両者互いに距離を取るとそれぞれの武器が音もなく崩れ去り、私はもう一度{ワールドオーダー}を呼び出すがドリューションの英具は戻る気配はなかった。
「・・しいだろ」
「ドリューションよ何か言いたいことがあるならはっきりと言、」
「おかしいだろ貴様!今の攻撃を何故防げる!下等種族如きがなぜここまで戦える何故だ!何故だ!!何故だ!!!」
「・・・」
「答えろ、ガッシュ魔族でもないお前がなぜそこまでの力を持つ!魔王ラ・ザイールの右腕にして三魔将軍夢幻のドリューションが相手でここまで五体満足でいられる!?」
「...何を言っているんだ簡単なことだろう。お前は確かに強いがそれ以上に私の方が強いというだけだ。そんな簡単なことも分からない雑魚とはな」
その言葉を発すると瞬時に槍を構えこちらに武器術を放ってきた。左手を翳し攻撃を無効化させるとすぐさま距離を詰め大斧を振り下ろしていた。それに合わせて闘気を纏った右拳で腕ごと弾き飛ばすと空に浮かした反動そのままに魔術剣で斬りかかって来る。
両刃刀を出現させさっそく分断させて片方の剣で宙に魔術剣を弾き飛ばす。残ったもう一つの刃に魔力を込め空間を切り裂く一撃を発生させる。だが本体には当たらずヒュードの腕部分のみ千切れた。
先程から腕を飛ばしてはいるが紫色のゲル状に変化しスリイとして動きドリューション本体に戻っている。分裂次第倒すのが一番なのだがこれだけ相手の攻撃が激しいとなると難しい。再生する敵とは何度も戦ったことはあるがここまで強い敵、いやこの鎧に身を通してからこれほどの強敵に巡り合えたことはないだろう。
「フハハハハハ!」
「何がおかしいドリューション、腕だけを切り落としたと思ってたが他にも何か落としていたか?」
「いやお前が強いのはよく分かった。だがいずれ限界が来るだろう?そうなった時、私はお前の身体を手に入れ真にこの世の終わりが訪れると考えてな。今お前がやってることの無駄さに笑っているのだよ」
「...そうか無駄か」
過去今までの行動すべてに意味があったかと聞かれたら、私だけでなくこの世に存在する人々は皆首を横に振るだろう。こうやってドリューションと戦っていることも変に何かを考えてること自体無駄に当てはまるのかもしれない。だが意味がある行動だけをしているのが正しいとは思っていないし、自身の行動が全て合っているとは思うわけがない。
エクスキューションという隠れ蓑を機能させる為、世界のあちこちに同志を作り異変が起きてもすぐに気づく為に、戦えない弱き者を助け世界の秩序を守っているつもりだった。そしてこの国の様に内部から侵され平和を作った気でいた。エクスキューションの同志、数多くの人々も救っていたようで全くの逆で助けられていなかった。
「無駄であったとしても一つ一つに対応してられる程私は器用ではない。お前を倒せば解決するのならばそれでいいしこれも無駄ならどうでもいい」
「やはりお前は魔族向きな性格だガッシュよ。どうだ今から我らと共にこの世を、」
その答えを返す代わりに私は奴の懐に入りガードごと蹴り上げる。そのまま空中を駆け上がり魔力を両手に溜め波動砲を繰り出し直撃させると拳にすぐ闘気を纏わせる。
奴の身体目掛けて拳を振るい見えない衝撃波を飛ばし空間が割れたように見える攻撃も直撃する。最後に最高造形ランクであるエラプションの性質を込めた球を打ち出し奴の近くで爆発を起こす。
再生速度が早い相手に対しては爆発性の攻撃をしたり、スリイ種なら分裂した中にも存在するはずの核の破壊を試みた。今までの経験で培ってきた技術と経験から適した攻撃をしたつもりではあるがどうだ?
「マスター!」
玉座の間の扉が開きハウゼントが入ってくる。その声に振りむいた一瞬の隙を突かれ、舞い上がる煙の中から鋭い攻撃が飛んでくるが間一髪のところで両刃刀で防ぐ。だが奴の姿はまたも変化していた。人の姿を辛うじて保てているが見た目が完全にスリイと分かり、今の攻撃もゲルとは思えない硬度の刃となっていた。
「もうやめだお前の言う通り本来の力で戦ってやろう。この姿を見たのは貴様らで3人目だ」
地面に崩れ床を這い距離を取ったドリューション。ここからは私とハウゼント2人で戦えるが奴の魔力量がさらに増し、先程までとはまるで比べ物にならないぐらい強くなっている。




