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トゥルーテークオーバー  作者: 新村夜遊
加速する世界

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#159 メルドリアの夜

「ハウゼント頼んだぞ」

「はいマスターご気をつけて」


 一夜明けメルドリア城への侵攻を始める。城に渡るための跳ね橋が降りていないので脚に闘気を込め堀を飛び越え破壊する。これで城内の兵士達が異変に気付いて私を倒しに来るだろうが()()()以外は雑魚ばかりだろう。


「侵入者がいたぞ捉えろ!」


 メルドリア兵は他の国と比べ種族的にヒュードということで身体能力が劣っている為、4、5人で小隊を組み基本的に行動しているがそれが仇となる。逆に言ってしまえば強大な敵が相手であればまとめて倒されてしまうのだ。


「!?ジャッ...」


 まさか兵士達も襲撃者の正体がエクスキューションでしかも私とは思わないだろう。引き続き襲い掛かる兵士たちをなぎ倒しながら廊下を進み続ける。いよいよ玉座の間前の大扉に辿り着くが魔力を感じた為距離を取った。木製の大扉の裏から攻撃が放たれたのか切り刻まれる。その裏からこの城で最も警戒していた男が出てくる。



「流石はメルドリア王国兵士長だ。いい太刀筋だな」

「この腕を振るう機会が来たと思ったがまさかバグラスお前だったとはな。この国を陥れようとするとは思わなかったぞ」

「正義はこちらにある。この国は魔に侵されてしまった、だから断罪する」

「...やはりそうなんだな」


 1人ぐらいはドリューションの支配から逃れてる奴がいると思ったがまさか兵士長とはな。ここまで戦ってきた兵士や市民達は皆ドリューションにより寄生された。手の施しようがない為倒すしかなかったが、兵士長ならば・・・と思ったが。


「分かっててそちらについてるなんだな兵士長」

「すまないなバグラス。魔に侵されてるとはいえグラス王は幼き頃から仕えたのだ。最後まで忠を尽くさせてくれ」


 そう言って太刀を構え直す兵士長スリアスから魔力を感じ並々ならぬ覚悟が伝わる。彼は平民の生まれで1人の兵士だった。だが四十八年前の魔王軍との戦争でほとんどの兵がやられてしまった為メルドリア兵団が壊滅の危機に瀕していた。

 前メルドリア王から最も信頼された彼が居なければ、この国がここまで立ち直ることはなかったと言っても過言ではない功労者だ。実力も折り紙付きで勇者一行とも渡り合える実力を持っているとかいないとか。


「エクスキューションのトップから見たら私はそれほどでもないかもしれない。これでも国の名を背負った兵団の兵士長なのでな。本気がどこまで通用するか一度は試してみたかったよ」

「...どの国の兵士長よりも私とお前は親交が深い。お前がこれまで努力を積み王家に忠を尽くしてきたのは分かる。だがその主がもう既にお前の知る人物でなくなっていたとしても守ろうというのだな」


 その言葉に返答するように斬撃が飛ばされ、予め張っていた術壁に当たり威力に耐え切れず砕け散る。もう言葉は不要だな、私も応えるとしようではないか。ようやくハウゼントの護りの力が貼り終わって、辺りの雰囲気が変わったのを感じ手を前に掲げて英具{ワールドオーダー}という両刃刀を呼び出し構える。

 一定の距離を保ち互いが互いに集中しているとスリアスはまたも高速で太刀を振るい大量の斬撃を発生させる。一つ一つが術壁を崩す威力の物が複数飛んできているのでそれに合わせて刃を振るい霧散させていると一瞬に後ろに回り込まれた。居合一閃に対してこちらも刃を重ねるが重い一撃だった為そのまま振り切られる。防いだがまだ腕に痺れを感じている、これが何の才能もなくただただ愚直に努力を重ね実力を積み重ねた秀才メルドリア兵団兵士長スリアス。

 並大抵の相手ならば今ので十分な攻撃だが今回は私が相手なのだ。抜刀した音を聞いた瞬間に武器に魔力を込めた攻撃を放つ。彼は後ろに飛んだので高速で斬撃を飛ばし攻撃を命中させるとそのまま両手に魔力の塊を形成し魔力砲を放つ。

 これだけの攻撃を喰らってまともに立っていられるとは思えないがさらに念には念をいれる。懐に入り闘気を込めた拳と脚による四連撃を喰らわせ、多数の術剣を作りそれをスリアス目掛けて放ち串刺しにする。ここまで連続して拳術と武器術を浴びた敵はいないし魔王軍以外にここまで徹底的にするのは彼の覚悟に応えるためだ。


「...やっぱジャッジマスターと呼ばれるだけのことはあるんだなバグラス」

「私のここまでの攻撃を喰らって尚も立っているのはお前だけだスリアス」


 身体のあちこちから出血しその眼は既に虚ろとなって限界を物語っているのが分かる。スリアスは決して倒れようとはせず、未だ立ち続けているが私は武器を構えるのをやめる。


「ま、まだだ、お、終わってないぞ、さ、最後ま...で私...と...」


 私は段々と声が小さくなる彼に近づいていくが動く気配はなくそのまま横を通り過ぎる。メルドリア兵団兵士長スリアスはすでに立ったまま力尽きていた。これまで生きてきて主人の為にここまで忠を尽くそうとした最高の兵士の姿は敵も味方も含めて見たことがない。玉座の間に入り歩みを進め本来ならば跪いて挨拶をする距離まで近づく。


「我がメルドリア兵団兵士長スリアスを倒したかバグラスよ。面白いものを見れたからな、どれ褒美を取らせようではないかなんでも言ってみろ」

「ええ、何度も何度も取り込もうとしたが抵抗しないで放っておいたらやっと死んだようですね」

「お元気そうで何よりですメルドリアの王と王妃よ。真似をしているつもりだろうがスリアスが仕えたメルドリア王家の真似事をやめろ。夢幻のドリューション」


 玉座に座る2人の姿が紫色にジェル状に変化し塊が合わさり合う。最も見覚えのある鎧と武器を持つ生物、つまり自分と瓜二つの姿へと変わった夢幻のドリューションがそこにはいた。

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