#16 名づけ、新たな目的地
兵士長に連れられてメルドリア城に入っていく。自分達は玉座の間へと案内されている。まさか自分が王家の人間と関わるとは数ヶ月前の自分は思ってないだろう。そしてもう1つ考えもしなかったことがある、それは自分の名前が長くなったことだ。
この世界に暮らす人々は基本的には名前が1つである。名前が2つの人と言えば、ノレージ・ウィンガル、ガッシュ・バグラス、など2つ以上の名を持つものは王家にゆかりのある者、もしくは王家に認められた者となり、名前だけで冒険者カード以上に身分証明が成り立つのだ。そして先程兵士長さんにヒュード・ソールと呼ばれた名前の前、もしくは後に種族名が付く場合その人物は種族を代表する人となる。
「皆様この先が玉座の間となります」
あれこれ考えていたら無駄に大きな扉の前に辿り着いた。その扉が開かれ長い赤い絨毯が引かれ横には旗を掲げる兵士達、その奥には王様らしき人が座っており、その隣にも席があるが誰も座っていない。兵士長に連れられ自分達も赤絨毯を進み、少し低めの階段の前で足を止め全員自然と片膝立ちをした。
「国王様ただいま戻りました」
「ご苦労だった兵士長よ」
自分達の前にいた兵士長は立ち上がって王様の横に付いた。そして後ろから足音がしてきて自分達の横を通過したとても気品に溢れた女性だ。王妃様なのだろうか?
「よくぞお越しくださった、ソールいやヒュード・ソールよ」
「は、はい!」
「あらあらそんなに固くならないでこう見えても彼とても緊張してるんですよ」
「シメル!今そんなことは言わないでくれ!せっかくそのことを忘れていたのに思い出してきて緊張してきたじゃないか!」
あ、あれ?なんか調子狂うな。王妃様の言葉で先程までの張り詰めてた空気が一瞬で溶けたのだ。ん、なんか旗持ってる人達笑ってない?なんなら兵士長も笑いを堪えてない?
「ええい!もういい!全員直れ!」
「あぁやっと終わった」「ったく王様も無理しなくていいのに」「厳格なとこ見せようとして結局」
・・・先程まで横に旗を持って並んでいた兵士達がぞろぞろとどこかに行ってしまった。なんだ、一体何がどうなっているんだ?ウェルン達も唖然としてるし、兵士長さんなんかため息ついてるし、王様不機嫌な顔してるし、王妃様すごい笑ってるし、だ、誰か説明してくれ~と思っていると王様が咳払いをした。
「ご、ゴホン!さて本題に入るかの・・・」
「なんか思ってたのと王様雰囲気違うよね」
「そ、そうだね」
「まぁいいんじゃねぇか?俺堅苦しいの苦手だしよぉ」
まぁ確かに威厳があるかと聞かれたらこの人には全くない気も、どちらかと言うと兵士長さんの方が威厳が...
「ソール殿言いたいことは分かるが一旦話を聞いてくだされ」
「は、はい分かりました」
「ウォッホン!ソールよ、勇者の力を使える間違いはないな?」
「あ、いや使えたのは一度だけでして・・・」
「一度だけ?となると完全に覚醒しきれていないのか・・・まぁよい勇者ソールとその仲間達よ国民には伝えられぬ重大なことを今から伝える!それは!」
「国王さんよもしかして魔王ラ・ザイールは生きているとか言うか?」
「魔王は生きてお、って知っておったのか!?」
「は、はいこの前のダンジョン攻略の際に三魔将軍叡智のサピダムという魔族が」
「三魔将軍!?ソール殿その話は本当ですか?」
「はい、本当です」
「まさか魔王軍の生き残りに遭遇して尚且つ生きて帰ってくるとは・・・ソールよ其方はなんと運命に愛されておるのか・・・」
「あらあらなんだかおもしろいことになってるのね」
いやもう一言言わせてくれ、なんなんだ一体・・・
今まで起きた出来事などを全て伝えて、自分達はようやく開放され城から出るともうすっかり日が落ちていた。
「まさか生きているうちに王様に直接会えるなんてねー」
「そうだな、俺もびっくりだぜ色々と情報量が多い一日だったなぁ」
「とりあえずもう今日は帰って寝て明日出発しましょうか」
明日からまた長旅になるだろう。自分達は勇者一行として王様より世界の調査を依頼された。まずはここメルドリア王国から見て東の方に位置するサルドリア帝国へと向かうこととなったのだ。
サルドリア帝国は世界有数の鉱石や武器などの生産国である。世界のあらゆる場所へ物を輸出しておりこの国がなければ世界の産業は衰えると言われている。だがここから帝国までは数日かかるのでしばらくはこの国にも戻って来ないだろう、自分達にとってメルドリアで暮らす最後の夜になる。ベルゴフさんは疲れた、と言ってそそくさと部屋へと向かっていった自分も部屋に戻って旅に備えるとするか。
「ねぇちょっと時間いい?」
「ああいいけど」
「じゃあちょっとソールの部屋行ってもいい?」
「えっ?ま、まぁ別に」
なんだ急にどうしたんだろうか?ウェルンと共に自分の部屋に入る。
「少し前の私からは考えられないよ、こんな大冒険することになるなんてね」
「そうだな、村にいた頃とは本当に大違いだな」
「あの頃は2人で一緒に旅するって言ってたよね、たまにコルロも一緒に行ってみんなであの村に帰って叔父さんや叔母さんと一緒に楽しく暮らすって」
「そうだな・・・」
村にいた時のことを思い出す。小さい頃から村の人は皆自分達のことを相手してくれて色々なことを教えてくれた。楽しいことを思い出したと同時についこの間に村が襲撃され生き残ったのは自分達だけということも。
「でもそれももう帰ってこないもんね」
「・・・」
「私みんなのためにも世界を平和にしたい、コルロもきっと生きてたら世界のピンチだって知ったらこう思ってるよね」
「そうだな・・・」
「だからさ全てが終わったらどこかのんびりできる場所で暮らそうね」
そうだ、いきなりすごいことを王様から任されたが自分達に出来ることをやって世界を守ろ。、そしてどこかのんび、うん、暮らす、誰と?自分とウェルンが、ふーん...って!今の発言なんだ!?なんだか顔が真っ赤な気がする。あれ、ウェルンの様子もおかしいぞ。なんか震えてる、顔も赤い。
「い、今のは!私とソールが一緒にとかそういう訳じゃなくて!って私何言ってんの!?ごめんね私部屋戻るね!おやすみ!」
「お、おやすみ・・・」
そう言って一目散に部屋を出ていったウェルン・・・今晩はなんかちゃんと眠れない気がしてきた。
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ここで執筆裏話
王様をどういう風に喋らせるか三日間悩んでおりました
王様はどういう喋り方がいいかどうかこんな悩むなんて思ってもみませんでした
2020/04 新村夜遊




