#156 真実
目を開けるとそこには見慣れた天井が広がっていた。それは襲撃により滅ぼされた村にある自宅だったからだ。意識は覚醒したが全く動けないというか世界全体が大きく見える。まるで自分だけが小さくなったようなそんな感覚。
幸い視線だけは動かせたので周りを見渡す。今自分はかごの中のような場所におり、見慣れているはずの自宅でも最後に見た記憶とは物の配置などが違った。自分の手も赤子の様に小さいことに気づいた。これは過去の記憶なのかもしれない。
「待ってくれアンクル様!」
扉が開くと共に聞きなれた声が響いてきた。扉からはラ・デビア・アンクルと自分に竜剣を教えてくれた師でもあり育ての父であるウアブクスが出てきた。
「この世界の為に必要なことなんです分かって下さい」
「それにしたってなんで俺なんだ。兄と違って竜剣も伍までしか扱えない俺じゃなくても他にもっと適任がいるだろ」
「いいえ、これは勇者ゴレリアスがいない今、剣神ヒュード・ウヌベクスの弟であるあなたにしか頼めないことなんです」
たった今驚くべきことを聞いた気がする。育ての父が勇者一行ヒュード・ウヌベクスの弟?そんな話は一度とされたことはないが両者共に嘘を言っている表情には見えない。
「それならゴレリアスが世界中に竜の子供っていう弟子をたくさん残してきたんだろう?そいつらじゃだめなのか」
「確かに彼らも竜剣を学んだ人達です。ですが純粋な竜剣術の使い手でないゴレリアスが教えたということは、あなたなら私が言わなくても分かりますね?」
「...竜剣を生み出した我が父と同じ血を引いていなければ同じ剣術は継承されず派生武器術へと変化する」
机に拳を打ちつけながらウアブクスはそう話した。だから竜の子供達は誰一人として竜剣ではなく全く違うそれぞれの個性を生かした武器術へと変化したのか。似たような魔力ではなく血筋で受け継がれるからキュミーは鱗槍術を父親からそのまま受け継くことが出来た。それならばゴレリアスはどうして竜剣を会得できたのか?やはり自分にも多少なりとも同じ血が流れているのか?
「彼の息子であるこの子には魔王に対抗しうる魔の力を秘めています。片腕を失い行方を眩ましたゴレリアスはもう父を止められないでしょう。だが彼でなくてもこの子なら{勇者のオーラ}がなくても唯一対抗が出来るはずなのです」
「それでこの世に残る正統剣術の使い手である俺を頼ったと...やっぱりあの話は本当なんだな。魔王の身体は竜種と同じ身体構造だから竜剣術が有効なんだな」
「ですがこの子がゴレリアスの様に{勇者のオーラ}を持って、模倣術である{モシャ}を使えるようになるとは限らないのです」
竜を滅する為に用いられる剣術をどうしてゴレリアスは使っていたのか。{モシャ}という術を使えば他者の何かしらの技術を自分の物にしたということも分かった。自分がもしその術を使えたならばノレージ様の混術を魔の力で再現したり、ベルゴフさんが使うような闘気法を扱えるのかもしれない。
「でもいいのかこの子は...」
「言わないでください、私情を挟んで父を倒せるほどこの世は甘くないのです。ですのでここで私はこの子、ソールの記憶を消し竜剣を効率よく会得するために封印を施します」
「ソールはあんたと兄貴の唯一の子供なんだろう!?そこまでする必要はないんじゃないか?」
机を叩いた衝撃が伝わり自分の意志とは関係なく涙があふれ泣き始めてしまった。これはやはり過去の記憶なんだ...この場所はウアブクスの家でそこにアンクル様がやってきて彼女と剣神ヒュード・ウヌベクスの子供である自分が預けられようとしているのか。
この世に最悪の時代を築いた魔王ラ・ザイールの一人娘の子供で、魔王を滅する可能性を秘めた竜剣を振るう一族の血を引いているのが自分なのか・・・しかも結果的には偶然にも勇者と同じ個能も持ち合わせてしまった。この世の全て必然で偶然は存在しないとはよく言ったものだ。
でもまさか自分がアンクル様の子供だったなんてな。ここではこう言っているアンクル様だが度々助けられてくれたのは子供を守る親の心だったのかもしれない。
「ええ、確かに私はこの子に封印を施します。ですがそれはこの子が効率よく成長する為にすることです」
「どういうことだ?」
「成長と共に封印が外れ最後の枷が外れた時、この子は全魔力と私の子であるという記憶を取り戻すでしょう」
泣きわめく自分を持ち上げあやすアンクル様。この感覚はとても暖かくて安心する、自然と笑顔になっているのが分かった。かごの中に戻されアンクル様が手を翳して術式が展開されていき彼女の目から涙が落ちた。
「成長した後に会えると分かっていても、ただ1つだけ心残りなのはこの子の成長を間近で見れないことですね」
「アンクル様...分かりました。俺に出来るだけのことはやってみせます。そして必ずソールを立派な竜剣の使い手にしてあなたの元に返すことをここに誓います」
「ありがとうウアブクス。やはりあなたも兄弟ねウヌベクスと似てるわね」
「本当自慢の兄貴でしたからね。そんな兄貴にこんなかわいい嫁さんが出来ててその子供を俺が育てることが出来るなんてな」
術式が完成したのか急に瞼が重くなり目を開けていられなくなる。再び意識が戻ると暗い世界に戻っていて扉の前に戻っていたのでもう一度扉を開けると階段が天に伸びて光が射した。その階段を、元の世界に帰るため、仲間たちに会うため、そして母であるラ・デビア・アンクルに会うために昇った。




